「もつれ星は最果ての夢を見る」が私たちに夢見させてくれるもの|読書の話
こんにちは、toneです。
先日、こちらの本を、ようやく!読みました。
手に入れていたものの、もったいなさすぎて、ずっと大切に積ん読していたのですが、この度無事に読み終えての記事です。
いやはや、ミステリとしてもSFとしても、大変魅力あふれるお話でございました。
あらすじはこちら。
地球から十光年離れた未開の星で見つけたのは、銃殺遺体──。
量子テレポーテーション通信の開発によって、遠く離れた星同士でも通信が可能になった時代。宇宙開発コンペに参加するため、地球から十光年離れた星に降り立ったエンジニアの零司と相棒のAI・ディセンバーは、別の区域にいるはずの競合相手、ピエールが何者かに銃殺されているのを発見する。
ほかの参加者に事態打開の協力を求めるも拒絶され、さらにコンペ運営本部との通信も途絶えてしまい、零司とディセンバーは孤立無援に陥るが─。不穏な侵入者、新たな惨劇……宇宙を駆け巡る壮大なSFミステリ!
あらすじだけでも、非常に気になる要素が満々ですね。
なんだって、宇宙開拓で殺人事件に遭遇しなきゃならんのか。
とにかく、坂道を転げ落ちるように状況が進行していく。
何せ惑星に到着して、課題である水の探索を始めた途端に事件は始まるし、なんならもう最初から事件に放り込まれてるんだこれが。
1つの章を読み終わっても章終わりの引きが強すぎて=次の展開が気になって、「始めだけ読もう始めだけ…」と思っていたら、気付けばまた1章分読み終わっていて、ならばまた次の章を…って気付けばエンドレス。鳴りやまない某えびせんのメロディ(やめられないとまらない~♪)。作者の文章の術中にまんまとハマっている。
量子力学についての説明は、確かにちょっと難しいかもしれない。
実際、読み終わった自分も割とちんぷんかんぷんのままです。
なのですが、不思議と読めてしまう。
しかも、その「読めてしまう」感覚が、クライマックスまで続くため、別に何も気にならない。
さわりだけ読んで難しいなーと思っていた方は、難しいと思った認識のままで全然OK。
そんなことより激熱展開が待っているので、是非最後までご一読を。
(極論、QT通信には量子もつれが必要なの!くらいで十分ではないかと)
ミステリとしては、とにかく誤認させるのがすごすぎて。
場所、時間、人物・・・ありとあらゆる罠がありましたね。
えーー、だって、普通に皆同じ場所でミッションやってると思うじゃない。
最初の事件に関しては、主人公側が数日ズレてるのでは…と思ってたから、納得。
でも、そもそももっと大きなズレを抱えてるなんて誰が思うねん……。
しかも「俺だけ知らなかったやーつ」で、零司と同じ気持ちになったわ。
多少の違和感は感じていたけれど、それを明らかにおかしいぞって思わせない書きっぷりと事実の積み重ねがさすがすぎます。
個人的にもっとも膝を打ったのは、「新暦」の認識についてでしたね。
あ、あと、今回の元凶が、わざと情報をリークして世界大戦を起こさせたところが一番怖かったね。
お前、人の心ないんか(ないね)
はっきり予想してたわけではないけども、読んでいる間に、AIが殺人事件の犯人なんてことも、きっとこれからたくさん起こってくるんだろうなと思っていた。
それが的中したことよりも、作品を読みながら、自然とその考えに至ったことにちょっとぞくっとしました。
え、もしやこれも作者の術中にはまってます??
そして!作品世界がしっかり作りこまれているがゆえに、キャラクターが非常に良かったのです。
自分の推しは誰より何より、AIのディセンバーです!(こんな相棒欲しい!どこに売ってますか!?え?自分で作って育てろ!?)
いきなりですが、自分の一番好きな会話はこれです。
『(中略)――どうしました零司。それが古い比喩で言うところの「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」というものですか?』
「ディセンバー。俺は今から、自分が口にするとは夢にも思わなかった台詞を言うぞ」
『何でしょう』
「天才だ、お前は」
AIに対して「天才だ」と言う、このなんともいえない興奮が伝わる会話。
そこには、諦めかけていた状態で困難を打ち破る術を導き出してくれたことへの驚きや、自分が作ったAIがそれをしてくれた誇らしい気持ち、感謝などが存在するように思えます。
零司とディセンバーは、簡単に言えば主従であるはずですが、ディセンバーは零司への発言に関しては容赦がありません。
『驚きですね。擦り潰せるだけの脳髄が貴方の頭蓋に残っていたのですか』
主人を主人とも思わない台詞をディセンバーが放った。
…うわぁ。
物語の割と最初の段階でこの台詞が出てきた時の衝撃よ。笑
まあ、零司も零司で「お前は一言多いんだよ」ということを作中で何度も言います。
こういった掛け合いが、大変なことが起きているはずの本作を、妙に明るくして救ってくれているところがある思います。
そんなディセンバーにも、恐る恐る語り掛けるシーンがあります。
零司がある衝撃的な事実を目の当たりにして、精神的なショックを受け一旦部屋で休むことにした時の声かけです。
『零司、大丈夫ですか』
ディセンバーが枕元のスピーカー越しに問う。初めて耳にする類の、恐る恐るといった口調だった。
零司でさえ、初めて耳にする口調だったのです。
どれだけ零司の心中を推し量ってくれていたことでしょう。
ディセンバー、お前、いい奴だな…。
またある時は、危険だとわかっていながら、燃える宇宙船に近付かなければいけない状況に。
ディセンバーは当然、零司の身の安全を最優先に考え、零司を止めようとします。けれども。
「……ああ、解ってる。お前が正しいんだろうさ。
だが覚えとけ。人間という生き物の中には、『それでも行かなきゃ後悔する』とか何とか言い出す馬鹿がいるんだ」
『知っていますよ。貴方を散々見てきましたので』
そして、ディセンバーは送り出してくれる。
ディセンバー、お前、最高だぜ。
まるで長年、苦楽を共にしてきた相棒のよう。そして実際にそうなんだろう。
およそ機械的なイメージのあるAIとは思えない、柔軟性のある言動ですよね(なぜディセンバーがそうであるのかは、是非本編で)
どんなに軽口(毒舌)を言い合っても、お互いに信頼関係があるし、お互いを心得ているようなやり取り。
良い関係を築けているのだと、よくわかります。
だからこそ、AIに対して「天才だ」という台詞が出てくる。
AIだとわかっていながら、相棒という存在が強く表出している、この瞬間が自分は好きなのだと思います。
と、主人公と相棒が良すぎて、長々と語ってしまいました。笑
この作品は、確かにミステリとしてもSFとしても楽しめる作品でした。
いくらでも便利な技術がありそうな未来でありながら、殺し方は銃殺だったり刺殺だったり窒息死だったり、わりかし古典的。
そんな殺人事件の謎解きから、そのまま人類世界を救うお話に発展していくスケールの大きさよ。
そこに繋がってくるのかー!という世界全体への仕掛けが面白かったです。
技術に対する怖さを感じさせつつも、その技術こそが未来を切り開いてくれることもあるのだと思わせてくれて良かった。
破滅エンドだけじゃないところが、未来に希望を持ちたい派の自分としては大変によろしゅうございました。
蛇足。個人的この作品好きな人は本作も気になるんじゃないかリスト。
(※完全に個人の感覚ですので、ネタとしてお読みください)
・著者のデビュー作『ジェリーフィッシュは凍らない』が好きな人
乗り物特有の事情が絡んでくるところや、誤認の雰囲気が似ている気がする。
それと、零司とディセンバーの言い合いって、マリアと漣っぽいところもありますよね。
・ゲーム『NieR:Automata』のストーリーが好きな人
なんとな~く似たような雰囲気を感じさせる要素があります。
ほら、AI関係の話とか、実は〇〇滅亡してるとか…。
・『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でロッキーが好きな人
ちょっと方向性は違うかもだけど、相棒と推理していくところが、ロッキーと打開策を練りまくるところを思い起こさせる。
しかも、救ったものも広い意味ではお揃い。
ということで。
毒舌だけど、誰よりマスターを考えてくれている相棒のAIと、大小さまざまな困難を越えていく喜びを味わいたい方は、もう是非読んでください。
そして、一緒に最果てを夢見ましょう、創造主さま。
最後に個人的な話をば。
実は、芳林堂書店さんのサイン本キャンペーンで、この本を購入しました。
小説で自分宛のサイン本を作ってもらうのは、なんと初めてのことでした。
(書店にある宛書のないサイン本を買ったことはあります)
しかし、若干の後悔というか反省が。
注文というか応募をする時に、「今応募しなければ忘れる!」と思って、慌てて著者へのメッセージを書いてしまって。
文章のあまりの取っ散らかり具合に、何言ってんだコイツと思われたことうけあい。
著者には大変ご迷惑をおかけしたのではないかと…。
ですので、手に入れたこの作品を読んで、自分なりに感想を書くことで、お詫びというか、お返しをしようと思ってました。
少しでも、読書感想界隈のにぎやかしになれていれば幸いです。
改めて、市川先生。サインを入れてくださり、ありがとうございました。

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