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「灯し人」インタビュー#3|楽しいからこそ本気――土と人をつなぐ、新しい農のかたち

神戸市北区山田町の山あいに広がるいちごハウス。そこは単なる農園ではなく、「人と人」「地域と未来」「自然と技術」が交差する場所でした。建設業から農業へ踏み出した松本さんは、「楽しいから本気でやる」という軸で新しい農のかたちを切り拓いています。
いちごづくり、子どもたちへの学び、国際交流——点に見えた挑戦が、やがて大きな循環となってまちを灯し始めていました。

今回の灯し人 やくもファーム 松本さん

1. 「想い」を届ける一年


私:
今日はよろしくお願いします。

松本さん:
よろしくお願いします。

私:
インタビューというより、対談のようなイメージでたくさんお話できたらと思っております。
Instagram を拝見させていただいたのですが、いちごの生産は一年前からですか?

松本さん:
そうですね。昨年が初めての収穫で、当時はこの今いる場所を含めて三棟だけでした。
このハウスで栽培を始め、隣の土地もあったので「拡大しよう」となり、さらに七棟を増設しました。
その結果、今年は合計十棟体制で取り組んでいます。

私:
十棟はすごいですね。
この一年、絶対大変でしたよね。

松本さん:
昨年は販売を目的にしていませんでした。
もともと本業は建設業で、立ち上げた農業法人自体もほとんど知られていなかったので、「なぜ自分たちが農業をやるのか」を知ってもらった上で買ってほしいという思いがあったからです。

そのため昨年は、地元の子ども食堂インクルさん、神戸市内の保育園、児童養護施設など、子どもたちの施設を中心にいちごをお届けしました。

また認知を広げるためにスポーツチームにも協力してもらいました。チーム側も地域貢献の思いに共感してくれて、宣伝にも協力してくれたので、今後のコラボも見据えて活動していました。

――「売る」ことよりも「想いを伝える」ことから始めた姿勢に、地域へのまっすぐな覚悟がにじんでいる。

いちごハウスでのインタビュー

2. 極秘プロジェクト


私:
相撲部屋の方とも写真を撮られているのを拝見しました。
このあたりで活動されている方なんですか。

松本さん:
相撲部屋の本拠地は東京・関東ですが、ご縁があって元横綱・照ノ富士さんとつながりがあります。今は親方になられていますが、相撲界は力士のなり手不足に直面していて、子どもたちの活動の場づくりや伝統文化としての相撲の普及に力を入れています。

その一環として、とある取り組みを進めていて、横浜から始まった活動を「今度は神戸でも」という話になりました。
伊勢ヶ浜部屋と地元企業で「神戸後援会」を立ち上げ、伝統文化の継承を目的に動いています。

「とある取り組み」については、まだ極秘ということなのですが、もう本当に驚きが隠せない取り組みです!皆様、お楽しみに!

松本さん:
この取り組みがコベカツにもつながればと思っています。
大阪場所の際には力士が神戸に来る可能性もあり、相撲大会などが実現すれば、全国から人が集まり、地域振興にもつながると考えています。

現在は神戸市相撲連盟と親和大学(女子相撲部)の皆様が協力してくださっています。親和大学には日本チャンピオンもいますが、活動できる場がないため、このプロジェクトは彼女たちの活動の場づくりにもなります。

私:
秋祭りの相撲大会のような場がこの地域にもできたら嬉しいです。

松本さん:
子どもたちが本物の相撲を間近で見られる機会をつくりたいですし、神戸の学生たちの活動の場にもしたいと考えています。

――農業にとどまらず、地域の文化や教育までつながっていく構想に、新しい可能性を感じた。

伊勢ヶ濱部屋 後援会 on Instagram: ". 【後援会よりお知らせ】 当アカウントは「伊勢ヶ濱部屋後援会 公式Instagram」と アカウント名が変更となりました。 今後は伊勢ヶ濱部屋の情報を発信してまいります。 照ノ富士後援会にご入会いただいている皆様へ 照ノ富士後援会のホームページは 伊勢ヶ濱部屋ホームページとしてリニューアルいたしました。 ご加入中の後援会の特典は 契約期間内は継続されますのでご安心ください。 何かご不明点がありましたら 「伊勢ヶ濱部屋 公式LINE(旧 照ノ富士後援会 公式LINE)」より お問い合わせください。 今後も、より良い後援会運営を目指して参りますので よろしくお願いいたします。 #伊勢ヶ濱部屋" 2,500 likes, 3 comments - isegahama_beya_ on June 8, 2025: ". www.instagram.com

3. 建設会社が農業へ踏み出した理由


私:
話は変わりますが、建設からなぜ農業に取り組まれるようになったんですか。

松本さん:
八雲建設は神戸市の公共事業が本業ですが、それとは別に、藍那地域で「ほ場整備事業」にも取り組んできました。

もともと棚田だった山間部の農地は、機械が入りにくく耕作が難しいため、担い手がほとんどいなくなっていました。そこで地元の方々と話し合い、小さな棚田をまとめて造成し、機械が入れる農地へ整備してきたんです。

ただ、整備後に土地を地元へ返しても、実際に農業を続けられる人はごくわずかでした――。

私:
今農業って続けていくことが大変ですよね。

松本さん:
地元の方から「このまま戻しても、また耕作放棄地になるから、借りるか買ってほしい」と相談を受けました。ただ、僕らはもともと農業者ではないので、農地を借りたり買ったりするのは簡単ではありません。そこで「工事だけで終わらせない」ために、この土地を活かす形を考え、農業法人を設立しました。

造成工事をしながらも、農業の実績を積み、地元の皆さんに認めてもらう必要があると考えていました。

ちょうど土地の所有者とも面識があり、「本気で農業に取り組みたい」とお伝えしたところ、ここも長く使われていなかった土地だという話から、この取り組みが始まりました。

――“工事で終わらせない”という言葉に、地域と本気で向き合う覚悟を感じた。

私:
使わない土地があるのはもったいないですね。

松本さん:
今、いろんなところで後継ぎがいなくて耕作放棄地が増えているんですよね。ただ、農業は儲からないという現実もあって、やっぱり簡単ではない。

それでも僕らは建設業として収益がある立場なので、「地域でこういう問題があるなら、何か役に立ちたい」という思いがあって、その流れでいちごハウスを始めたんです。

私:
この辺りは確かに農業が身近ではないですよね。

松本さん:
今続けている農家さんは、昔からずっとやってこられた方が多いんですけど、やっぱり高齢化が進んでいて、これから先を考えると厳しいのが現実で。だからこそ、個人ではなく会社として農業をやる形をつくりたいと思っています。僕らなりのやり方でやれば、「面白い農業」になるんじゃないかと思っていて。

それに、農業も建設も若い人が入りにくい業界なので、この二つを掛け合わせることで、「ちょっと面白そう」と思ってもらえる仕事にしていきたいんです。

ハウスに広がる いちごの景色

4. 国を越えてつなぐ、働く意味と循環


私:
特定技能について勉強する機会があって、建設も対象に入っていますよね。でもやっぱり、日本語の問題だったり、理解度の問題だったり、一方で日本人は「しんどい仕事は嫌だ」という方は多いので本当に難しいなと思っていて。

松本さん:
うちにはカンボジアの子も来てくれています。彼らは家族のために日本に来ていて、仕送りもしています。だからこそ、ただ働くだけじゃなく、ちゃんと学んで帰ってほしいんです。

私:
帰国後の生活もありますもんね。

松本さん:
そうなんです。だから今、彼らを送り出してくれているカンボジアの日本語学校の校長先生とやり取りをしています。

その校長先生は日本人で、カンボジアでカンポットペッパーという高級胡椒の農園もされています。完全無農薬で、JASやEUの認証を持つ“胡椒のダイヤ”と呼ばれるものです。

ただ、現地だけで展開するのは難しい部分があるので、僕らも販売を手伝おうと話しています。将来、うちで働いた子が帰国したあと、その農園で働いて安定した収入を得られるような循環をつくりたいんです。

――「働く場」だけでなく「帰る先」まで考える視点に、胸を打たれた。

松本さん:
日本で学び、帰ってもつながりが続く。そんな仕組みをつくれたら面白いと思っています。

私:
本当にいろんな活動をされていて驚きます。ちゃんと休めていますか?

松本さん:
休んでないです(笑)彼も。(生産責任者さん)

ただ、あれもこれもと少しやりすぎている部分はあるんですけど、それでもやりたくて仕方がないという感じで、こうやっていろいろ取り組んでいますね。

いちご生産責任者 岸本さん

いちご生産責任者 岸本さん:
失敗したら、たぶん「いろんなことをやりすぎているからだ」と言われると思うんですけど、それも分かった上で、社長はやっているんだと思います。だから今は、正直かなり厳しい状況だと思います。批判的な目はやっぱりあると思います。

ただ、こういうハウスをドカンと建てることが目的というよりも、最終的に若い子の雇用を生んだり、カンボジアの子たちがいい生活をできるようにしたり、まずは耕作放棄地を解消したり、その先で、最終的に認めてもらえたらいいかな、という気持ちです。

今は評価を求める段階ではなく、コツコツ土台をつくる時期だと思っています。


5. 未来のために、いまを楽しむ


私:
正直なところ、私も建設業からいちごハウスに取り組まれているのをSNSで拝見していただけだったので、「なぜ農業を?」という気持ちや、どこか誤解のような視点は持っていました。

小麦も栽培されていると伺っていたので、順調に進んでいるのだろうなという印象もありました。

松本さん:
実際は、小麦は儲からないんですよ。お米も実は儲からなくて、「やくも米」というお米もやっているんですけどね。

私:
グルテンフリーが流行ったり、米粉が出てきたり、いろいろありますよね。

松本さん:
小麦を始めたのは、地元のパンのシェフと「何か楽しいことをしたいよね」と話したのがきっかけです。「自分たちの小麦でパンを作りたい」という思いに共感して、まずは簡易的に挑戦しました。

Boulangerie bienvenue on Instagram: "いつもご来店ありがとうございます😊 ビアンヴニュのクロワッサンは北海道産バターで作っています‼︎ あっさりした味わいが好きでどんなシーンでも主張せず食べやすいテイストになっています😊 いつもそばでそっと寄り添ってくれるクロワッサン🥐 そんなイメージです🫶🏻 寄り添いクロワッサン🥐 なかなか良いネーミング🙈 これからもよろしくお願いします‼︎ ビアンヴニュ 御影本店 〒658-0047 兵庫県神戸市東灘区御影1-16-15 エクセレンス御影 1F 定休日 : 日曜日 Tel : 078-771-2866 営業時間 9:00~18:00 #普通に美味しいが大事 #ビアンヴニュ #ブーランジェリービアンヴニュ #Boulangeriebienvenue #御影パン #worldwidebakery #kobebread #instabread #eater #おうちパン #homemadebread #神戸グルメ #パン好き #兵庫パン #東灘区グルメ #東灘グルメ #パン好きさんと繋がりたい #とまらないラスク #神戸パン #東灘区パン #小田象製粉#津山産小麦 #とまらないラスク" 141 likes, 0 comments - boulangeriebienvenue on November 11, www.instagram.com

正直、利益は度外視で「楽しいからやる」という感覚で、うまくいけば続けるし、ダメなら撤退してもいいと思っていました。

いまは小野市で小麦をやらせてもらっていて、地元で10年使われていなかった播種機を借りて取り組んでいます。地元からは「また神戸の法人が変なことしてる」と思われているかもしれませんけどね。

――“儲かるから”ではなく、“面白いから”動くその姿勢に、挑戦の本質を感じた。


松本さん:
だから今はまだ全然「種まき」の段階ですし、「また派手なことをしそうだな」と思われるかもしれないけど、それでもどこかで絶対に見返してやるぞ、という思いもありますし。

ただ、それ以上に「面白いな」と思ってくれた人がもっと集まってきて、一緒に地元を盛り上げられたらいいなと思ってます。

お金のためだったら、絶対に僕はこんなことやってないです。
正直、昨年なんかほとんど赤字で、いちごもほとんど配ったので。かといって、僕らがそんなにお金を必要としているわけでもないんですけど、

それでも「これは絶対に将来うまくいく」と思っていて。そのための今の種まきだと思ってやっています。


6. いちご狩りの“その先”へ


私:
一般向けのいちご狩りのオープンは、いつ頃でしょうか?

松本さん:
今、外のコンテナにはトイレや休憩スペースを整えていて、横のハウスも観光農園として使えるよう準備しています。
いちご狩り後に休める場所と、さらにお子さん連れの方が遊べるような、特別なものもつくろうとしています。

それから、テーブルや椅子なども含めて、ここを造成するときに出た山の木材を使ってつくろうとしているんです。

地元で木工をされている有名な方がいらっしゃって、僕らと同年代くらいで、六甲山にラボを構えている方なんです。その方が神戸芸大を出られていて、「ちょっと面白いことしようよ」という流れで一緒につくっているところなんです。

私:
子どもが幼稚園児なので、ここにいちご狩りに来られたらいいなと思いますし、中学生のトライやるウィークでも来られたらいいなと思います。

松本さん:
はい。本当に、そういう子どもたちが来て、「農業って楽しいな」と感じてもらえたらすごく嬉しいなと思っています。

私:
鈴蘭台に住んでいると、なかなか農業に関わる機会ってないなと思っているので、素敵だなと思います。

松本さん:
僕らのコンセプトとして、切った木も無駄にせず活かしたいという思いがあって、今こういう形で進めているんです。その模型図を一度見てもらいたいんですけど。

(画像で模型図を見せていただく)
私:
えーーーー!すごい!楽しそうですね!

想像をはるかに超える計画に驚きました。
その全貌が明らかになる日を、みなさまもどうぞお楽しみに!

松本さん:
ここで出た木を使うから意味があると思っていて、子どもも大人も一緒に楽しめる場にしたいんです。

――ここは単なる観光農園ではなく、子どもたちの心に残る体験の場所だと感じた。

松本さん:
できれば2月、遅くとも3月には形にしたいと思っています。ただ、まだ極秘で進めているので、完成したらびっくりさせたいなと思っています。

私:
いちご狩りに来て、いちごを食べるだけで終わって帰るってなると、子どもはなかなか退屈しますし、この施策は本当に嬉しいですね。

松本さん:
それと、切った木もそこで薪みたいにして置いているんですけど――
普段、子どもたちって木をくべて遊んだりとかできないじゃないですか。だから、ここではちょっと木をくべて焚き火をしたりとか、そういうこともしてもらえたらいいなと思っていて。

私:
本当に、何も無駄にしないのがすごいですね。次の企画はキャンプ施設増設とかですね(笑)


7. 美味しさ至上主義


私:
いろいろやっている中で、「ここだけは絶対にブレない」という軸はありますか?

松本さん:
いちご担当の彼のこだわりで、「とにかく美味しいいちごをつくる」ことですね。数を増やせば利益は出ますが、味が落ちてしまう。
それでは意味がない。
なので「摘花(てきか)」といって花をまめに切って、一粒一粒にしっかり甘みが乗るようにやっているんです。

実際にその品質を評価してケーキ屋さんが使ってくれています。これからの農業は“安ければいい”ではなく、適正価格で評価されるべきだと思っています。

摘花

私:
ハウスはお一人で管理されているんですか?

岸本さん:
はい、最終判断は基本的に一人でやっています。

松本さん:
その見極めができる人材が少ないので、育成が課題です。
ただ、彼は責任感が強く、こちらが止めても早朝から遅くまで動いてくれています。

――“おいしさ第一”の姿勢が、現場の空気に宿っていると感じた。


8. “仕事じゃない”関係性が生む強さ


岸本さん:
正直、あまり「仕事」だと思っていないかもしれないです。

松本さん:
僕ら、中学の同級生なんですよ。

岸本さん:
だから余計に仕事という感じがしないんでしょうね。時間に縛られているというより、自分が描いたイメージに向かって動いている感覚です。お金はもちろんもらっていますけど、「雇われている」という一般的な感覚とは少し違います。

どこでも働けるとは思いますが、ここでしかできないことも多いし、この関係もここでしか生まれなかったと思うので。

私:
今日はいいお酒が飲めそうですね。

松本さん:
僕が夢を語ると最初は呆れた顔をするんですけど、結局すごく手伝ってくれるんです。

私:
一緒に、ですね。

岸本さん:
はい。社長は夢が本当に大きい人で、自分はどちらかというと現実的なので、心配もしますし順序も大事だと思っています。

ただ、最近入ってくる若い子たちを見ていて思うのは、やっぱりみんな経営者を見ているということです。「役職に就きたくない」と言う若い子も多いですけど、それは経営者が縮こまっているから、従業員も縮こまってしまう。

うちに入ってくる子たちは、「成長したい」「上に行きたい」「こういう役職に就きたい」と目標を持っている子が多くて。だから「若い子が悪い」というより、空気をつくっている大人側の責任も大きいと思うんです。

社会全体がネガティブな空気をつくっている部分もあると思いますし、それを見続けていると自然とそういう思考になってしまう。

でも、うちは社長が「これをやりたい」と言ったら、「じゃあ俺がやろうか」と言える関係なんです。

若い子にも「あなたはどういう目標でいく?」と問いかけながら環境をつくっていけば、いい循環が生まれると思っていて。だから、まずは“空気そのもの”をつくっていくことが大事だと思っています。

私:
お二人の関係性がすごく良いなと思いました。

――仕事を超えた信頼が、現場をやさしく支えている。


9. 楽しいからこそ本気——これからの農業を動かす力


私:
続けることってものすごく大変だと思うのですが、「これがあるから続けられる」というものはありますか?

松本さん:
まだ2年目で、本当の勝負はこれからです。これだけ投資もしているので、もう「やるしかない」段階でもあります。正直しんどい時もありますが、やっぱり楽しいんですよね。それに、期待してくれている人たちを裏切りたくないという思いもあります。

国際交流のいちご狩り

私:
待ってくれている人もいますしね。
昨年、外国の子どもたちがいちご狩りに来ていましたよね?

松本さん:
娘の通うインターナショナルスクールとのご縁で、「子どもたちに農業体験をさせたい」と声をかけていただいて。海外ではこういう体験をすごく大事にしているみたいで、昨年はただいちご狩りをするだけではなく、「いちごがどうやってできるのか」の授業もしてほしいと言われたんです。

そのときは、当時いちごを担当していた伯父と一緒に、「蜂が受粉して、こんなに手間をかけていちごができている」という話もしました。ただ楽しい体験だけでなく、その裏にある農家の努力も伝える授業のようなことをしたんです。日本ではあまりない取り組みだと思って、僕自身すごく良い経験だなと思いました。

今もその学校とは交流が続いていて、バザーやチャリティーにも少し参加しています。外国の方も気軽に来られる場所にしていきたいと思っています。

私:
海外の方と日本の子どもたちが一緒に体験できたら、国際交流にもなりますね。

松本さん:
シーズンの終わり頃には、インクルの子どもたちを招待して、いちご狩りも楽しんでもらいたいと思っています。いちごって高いので、思う存分持って帰ってもらえたらいいなと。

私:
たしかに高いですよね。私はいつも真ん中くらいの価格帯を選んでいます。

松本さん:
そうなんですね。
僕、正直いちごってあんまり美味しいイメージがなくて、「練乳つけないと食べられないものだな」と思ってたんです。でも昨年、自分たちのいちごを食べて、すごくイメージが変わって。「いちごってこんなに美味しいんだな」って思ったんです。

でもまだまだ、うちの農園としても“これからさらに美味しくなる段階”なんです。

いちごの“流通の現実”

岸本さん:
スーパーのいちごは、農園で3~5日前に収穫されたものが中心で、収穫時点ではほとんど完熟していません。

松本さん:
それって、生産者の問題というより“流通の問題”なんですよね。

岸本さん:
そうです。だから、地元の朝採りや直売所に並ぶいちごは、基本的にどれも美味しいはずです。

私:
採ってしまったら、もう味は変わらないんですか?

岸本さん:
はい。採った瞬間に糖度は止まります。だから農家さんは朝一番に収穫しますし、昼間のいちご狩りが「少しぼやけた味」と言われがちなのも温度の影響です。

私:
なるほど…普段食べている裏側に、そんな仕組みがあったんですね。

岸本さん:
結局、今の流通は“量を出す”仕組みなので、単価が下がり、数を優先せざるを得ず、味が落ちる――みんながみんな足を引っ張り合っている状態なのがいまの農業の悪循環なんです。
兼業農家が多いほど機械も分散して非効率になります。だから僕らは、「こうじゃなくてもできる」という新しいやり方を示したいんです。

私:
その考え方が、もっと広がっていったらいいですよね。

法人農業というモデル

岸本さん:
だから、「ここを貸してくれたら、僕ら法人がやります」って言って、高齢化で困っている土地を引き受けて、自分たちでやれたらいいなと思ってるんです。
そうすれば消費者も安く買えるし、企業も潤うし、若い子の雇用も生まれるじゃないですか。

挑戦するのは不安もあると思うんですけど、僕らがそれをやって成功例をつくって広がっていけばいいなと思っていて。お米も野菜も安くなって、でもちゃんと給料も払えて、高齢者の方も一人で土地を抱え込まなくてよくなると思うんです。

松本さん:
一旦まずはこの地元で、自分たちに関わる人の輪が広がっていけばいいなと思ってます。

岸本さん:
それができれば、うちが一つのモデルケースになると思うので、他の企業さんも続いてくれるんじゃないかなと。

これまで農業法人が信用されにくかったのは、企業が土地を買って、儲からないとすぐ撤退してしまうケースが多かったからで、それを地域の人たちが知っているから、どうしても壁ができてしまっているんですよね。

松本さん:
でも、それは仕方ないですよね。企業だってずっと続けられるわけじゃないですし。

岸本さん:
昔の農業ではできなかったことも、今はITがあるし、うちは建設業もやっているので土の改良もできる強みがあります。個人農家さんには難しいことが、企業だからできる部分があると思います。

私:
技術でね。

岸本さん:
例えば土を運ぶにもダンプが必要ですが、うちはそれがある。だから土を運んで改良して農地をつくれるのが大きいです。それにデータ管理もできますし、家族経営だと細かい管理はどうしても難しいですよね。
水の管理も個人だと天任せになりがちです。

そういうことを企業はまとめて対応できるので、集団でやれば強いと思います。今の日本の農業は個人がバラバラに動いている感じなので、それだと生産も上がりにくいと思っています。

私:
みんなで協力して、それぞれ得意なところを活かせたらいいですよね。

岸本さん:
大手企業が農業に参入してもうまくいかなかった例は多くあります。「太陽光があれば大丈夫」と思われがちですが、それだけでは成り立ちません。光合成には本物の太陽の光が必要ですし、受粉には蜂が欠かせません。

密閉された工場では光も蜂も足りず、作物は育たちません。結局、すべての条件が噛み合わないと農業は成り立たないんです。

私:
本当に、ありとあらゆるすべての条件が整わないとダメなんですね。

岸本さん:
そうですね。“自然とうまく合うかどうか”が一番大事だと思います。ただ僕らは農業の常識に縛られていなかったので、それが良かったのかもしれません。

私:
もともと建設業だから「農業はこういう形でやるものだ」という固定観念がなかった、ということですね。

岸本さん:
もちろん勉強はしました。本や資料も見ましたが、一番感じたのは「場所で全く違う」ということです。山のハウスとここでは環境も温度も違うので、よそでうまくいった方法をそのまま当てはめても通用しません。

私:
あっちでできたことが、こっちではできない、ということですね。

岸本さん:
そうですね。だから農業は難しい。やっぱり感覚が必要です。ただ感覚だけでなく、データで“誰でもできる部分”は仕組み化して、その上で個性を出したい。今は皆が同じやり方に寄りすぎている気がします。

私:
成功例をそのまま真似している感じですね。

岸本さん:
はい。農協経由だと規格に縛られてしまいますが、直販はいちごの個性を出せる。同じ紅ほっぺでも畑ごとに味が違うのが面白い。野菜もそうあってほしいと思います。
個人農家の工夫も大事ですが、企業として取り組めば、より個性を生かした農業ができると思っています。

私:
この考えがもっと広がってほしいですね。

――この場所から生まれる“楽しい農業”が、まちの未来を変えようとしている。


10.次の「灯し人」は——

私:
これから新しく挑戦したいことはありますか?

松本さん:
いまは、増えてきたいちごを“直接届ける”仕組みづくりを進めています。
直営の販売所を準備しながら、人探しや店舗改修も同時進行で進めています。正直、行き当たりばったりな部分もありますが、不思議と人が集まってきてくれて、本当にご縁に恵まれていると感じています。

私:
偶然というより必然に近い感じがしますね。

松本さん:
本当にありがたくて。売り先が決まっていない段階でも「いちごが欲しい」と声をかけてもらえて、まるで天から降ってくるように物事が動いています。感謝しかないですね。
いちご狩りもまだ整ってはいませんが、少しずつ形になっていく過程を、皆さんと一緒に楽しめたらと思っています。

私:
地域の方と一緒につくる場所になればいいですね。

おすすめの いちごジャム

私:
では最後に。次の「灯し人」はどなたでしょう?

松本さん:
これからオファーするところなんですが

——親和大学の女子相撲部の学生さんと顧問の先生を紹介したいと思っています。

メディアには出ていますが、意外と知られていない存在で、「土俵のない相撲部」としても注目されています。ぜひ知ってほしいんです。

私:
ありがとうございます。
新しい出会い、うれしいです!
親和大学ということは、教員志望の学生さんですよね?

松本さん:
はい。彼女たちは高校から相撲を続けてきた子が多く、鳥取城北という名門校の出身なんです。横綱・照ノ富士など多くの関取を輩出している学校ですが、彼女たちは「教員になりたい」という思いで、あえて土俵のない親和大学を選んできています。
地元の学生でもあるので、地域の方にも応援してほしいと思っています。

私:
親和大学は本当にいろんな地域の学生が集まっていますよね。
ぜひ地元にも活動を広げてほしいです。

松本さん:
神戸で教員になる子もいると思うので、そこにつながれば嬉しいです。

私:
とてもワクワクするお話でした。ありがとうございました。

松本さん: ありがとうございました。

対談後、生産責任者の岸本さんにハウスを案内していただき、特別にいちごを味わわせていただきました。
お二人の信念と技術が凝縮されたハウスで育ったいちごは、記憶に残る深い甘さでした。


まだ道の途中だからこそ見える景色がある。
この場所から生まれる循環が、これからどんな光を放っていくのか——その歩みを、これからも見守り続けたいと思います。


灯し人 Record 3:やくもファーム松本さん
Instagram

写真撮影:sakusakuphoto
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灯し人
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