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ASMLの光を、回路に変える会社ーー東京応化工業はなぜ半導体産業の深部にいるのか

はじめに

半導体のニュースで名前が挙がるのは、NVIDIA、TSMC、ASMLといった企業です。GPUを設計する会社、最先端の半導体を量産する会社、極めて精密な露光装置を作る会社。いずれも、半導体産業の主役として語られやすい顔ぶれです。

しかし、ASMLの露光機がどれほど精密に光を当てても、その光がそのまま回路になるわけではありません。

ウェハの上には、まず感光性の材料が塗られます。その材料は光を受けて化学的に変化し、現像によって不要な部分が取り除かれる。そうして生まれた微細なパターンが、エッチングなど次の工程の"型"となります。役割を終えた材料は、多くの場合、最後には剥がされて消えていく。

その材料こそが、フォトレジストです。

半導体の完成品の中に、レジストの名前が残ることはありません。前工程では、レジストそのものも最終製品には残らない。それでも、レジストがなければ、最終製品の中に回路は残らないのです。東京応化工業、いわゆるTOKという会社の強さは、この逆説の中に埋もれています。

最終製品に名前を残す会社ではない。半導体の中に見えるブランドを持つわけでもない。それでも、工程の奥で、光をパターンへ、パターンを量産可能な回路へと変える材料を供給し続けている。

なぜ、完成品に名前が出ない会社が、半導体産業の深部で強いポジションを持ち続けられるのか。その問いから眺めていくと、TOKは単なる「レジストメーカー」ではなく、顧客の微細加工プロセスに深く埋め込まれていく会社として浮かび上がってきます。

1. 消える材料が、回路を生む

レジストは、半導体製造における一時的な材料です。

ウェハの上に塗られ、露光され、現像される。そこに描かれたパターンを使って、下地の膜が削られたり加工されたりする。役割を終えれば剥がされる。TOKの資料でも、前工程ではレジストが感光性樹脂として塗布され、マスク上の回路設計が転写され、現像によってパターンが形成され、エッチング工程では保護膜として働き、役目を終えた後は除去される流れが示されています。

出典:TOK総合レポート2023

この点が、レジストという存在を直感しにくくしています。

金属配線や絶縁膜であれば、まだ「材料」としてイメージしやすい。ですがレジストは、完成品に残ることを目的とした材料ではありません。むしろ、完成品を成立させるために一時的に現れ、役割を果たした後に消えていく。設計図と実体のあいだを、化学反応で橋渡しする存在だと言えます。

しかも、その仕事は単純ではありません。先端半導体では、光が当たった部分と当たらなかった部分を、ナノメートル単位で安定して分け続けなければなりません。感度や解像度のどれか一つが高ければよい、という話でもない。感度、解像性、ラフネス、エッチング耐性、基板への密着性、加工適性、純度、安全性、コストが同時に問われる。TOKの資料でも、フォトレジストに価値を加える要素として、これらの項目が並べて挙げられています。

つまりレジストは、製造工程の中で一瞬だけ使われる脇役ではない。光で描かれた情報を、ウェハ上の物理的なパターンへ変換する材料です。消えるから重要でないのではなく、消えるにもかかわらず、その一時的な働きがなければ半導体の構造そのものが生まれない。

最終製品に残らない材料が、最終製品を成立させる工程の核心に居続けている。TOKを読み解くうえで、まず押さえるべきはここです。

2. ASMLの光は、そのままでは回路にならない

半導体の微細化を語るとき、ASMLの存在は避けて通れません。EUV露光装置を含む同社の最先端露光技術は、半導体チップをより微細に、より高速に、より省電力にするための中心的な技術として位置づけられています。

ただし、露光装置が光を当てるだけでは、回路は完成しません。

出典:ASML TWINSCAN EXE:5200B

露光とは、あくまでマスク上のパターンをウェハ側へ転写する工程にすぎません。その転写を受け止めるのがレジストであり、その後に現像液、リンス、下地膜、エッチング、洗浄などが続く。レジストの性能は、レジスト単体で決まるものではない。露光機の条件、マスク、膜厚、熱処理、現像液、リンス、エッチング条件、顧客ファブのプロセス条件と一体になって決まります。EUV世代のレジストは、塗ればよい液体ではなく、解像性、感度、ラフネス、欠陥、現像後形状がすべてトレードオフになる、ナノスケールでの化学反応の制御問題なのです。

このため、材料メーカーの仕事は「高性能なレジストを作る」ことでは終わりません。顧客の量産ラインで安定して使えるか。欠陥が出ないか。歩留まりに寄与するか。既存のプロセスと整合するか。最終的には、工程全体の相関が問われます。

特にEUV、さらにHigh-NA EUVへ進むほど、この傾向は強まる。ASMLとimecはHigh-NA EUV装置のテストラボを開設しており、チップメーカーだけでなく、装置・材料サプライヤーも次世代装置を早期に使って評価できる環境が整えられている。Reutersは、このラボが材料サプライヤーにもHigh-NA EUVツールへ早期に関わる機会を与えると報じています。

ここで重要なのは、TOKがASMLの"下請け"的な存在なのではない、ということです。ASMLが光を当てる装置を担うなら、TOKはその光を量産可能な微細パターンへ変換する材料側にいる。ASMLの光を、回路に変える。この言い方は比喩ですが、TOKの役割をかなり正確に言い当てています。

半導体の微細化は、装置だけでも、材料だけでも成立しません。装置、材料、薬液、プロセス、顧客ラインの共同最適化によって、はじめて成立する。その共同作業のなかでTOKが受け持っているのは、光と回路のあいだに横たわる、化学的な変換の領域なのです。

3. 複数世代・複数工程にまたがる材料の階段

TOKは、フォトレジストで強い会社です。

会社公表ベースでは、2024年見込み出荷数量に基づく半導体用フォトレジストの世界シェアは24.7%とされています。内訳は、EUVが28.0%、ArFが15.9%、KrFが32.4%、g/i線が22.7%。KrFとg/i線ではGlobal No.1、EUVではGlobal No.2と示されている。ただし、この数字は富士キメラ総研の市場データを基にTOKが算出したものなので、「会社公表ベース」と注記して読む必要があります。

それでも、TOKの強さを「レジストのシェアが高い」だけで終わらせると、この会社の本質を見落とします。

注目すべきは、最先端EUVだけに賭けている会社ではない、という点です。g/i線、KrF、ArF、EUVという複数世代のレジストを持ち、さらに現像液、リンス、シンナー、剥離液、密着性向上材料、DSA材料、膜形成材料など、リソグラフィ周辺の材料群をそろえている。これは、単なる品ぞろえの広さではありません。

半導体工場では、最先端EUVだけが使われているわけではない。先端ロジックや一部メモリではEUVが重要になる一方、車載、パワー半導体、イメージセンサー、アナログ、NAND周辺、パッケージ工程では、KrFやg/i線などの成熟したリソグラフィが引き続き使われ続けています。TOKは、この多層的なノード構成のそれぞれに材料を供給できる立ち位置にある。前工程のレジストや薬液から、後工程のドライフィルム、接着材料、TSV関連、実装材料まで、製品ラインの届く範囲が広いのです。

最先端レジストでも、成熟ノードでも、現像液や高純度薬品でも、後工程材料でも顧客に入る。顧客のプロセスロードマップに沿って、複数の接点を持つ。そうなるとTOKは、一つの材料を売る会社ではなく、顧客の微細加工プロセスに長く随伴する会社になります。

市場はどうしても、派手な最先端だけを見たがります。EUV、High-NA、AI半導体といった言葉はわかりやすい。しかしTOKの競争力は、派手な一点にあるというより、複数世代・複数工程にまたがる接点の厚みにある。この奥行きは、外からひと目で測れるものではありません。

4. 一度入った材料は、簡単には替えられない

ポートフォリオの広がりは、それだけで競争力になるわけではありません。重要なのは、その広がりが顧客の量産ラインの中でどう機能するかです。

半導体材料は、性能が少し良いだけでは採用されません。欠陥率、歩留まり、量産安定性、既存工程との相性、顧客側の認証負担まで含めて評価される。いったん量産ラインに入った材料を変更することは、顧客にとってリスクを伴います。だからこそ、採用までには時間がかかる。一方で、採用後の粘着性は高くなる。

TOKの資料でも、同じ線幅・同じ仕様の半導体を作る場合でも、半導体メーカーごと、あるいは工程ごとにレジストに求められる特性や使い方は大きく異なるため、顧客や工程のニーズに応じて細かく調整された製品を提供すると説明されています。

つまり競争力は、「このレジストは感度が高い」といった単発の性能だけでは語りにくい。顧客の実ラインで、どれだけ欠陥を抑えられるか。どれだけ歩留まりに貢献できるか。どれだけ安定供給できるか。既存の薬液や装置、プロセスとどう組み合わせられるか。こうした量産現場の積み重ねが、競争力の正体になります。

ここに、TOKの輪郭がつかみにくい理由があります。

装置メーカーであれば、巨大な露光機や成膜装置が目に見える。半導体メーカーであれば、最先端ノードや設備投資のニュースがある。NVIDIAのような企業であれば、最終製品やAIブームと直結して語られる。しかしTOKの材料は、顧客の工場の中で使われ、工程の中で機能し、多くの場合は最終製品には残りません。同社自身も、製品はBtoB製品であり、人々が日常生活で目にすることはないが、最終製品の進化に不可欠な材料であると説明しています。

ただし、TOKを過度に神格化する必要はありません。フォトレジスト市場には、JSR、信越化学、富士フイルム、住友化学など、強力な競合が存在します。EUVやHigh-NA世代では、材料アーキテクチャ自体が変化しうる。TOKだけが唯一無二の絶対王者だ、という見方は、むしろ危ういものです。

それでも注目すべきは、顧客工程の中に「複数の入口」を持っていることです。レジストでの採用が、現像液や高純度薬品、後工程材料の採用につながり、その積み重ねが顧客の認証プロセスの中で資産になっていく。長期にわたる累積知、認証実績、材料ポートフォリオが組み合わさって価値を生んでいるため、外部から単一の指標で評価しにくい。TOKが市場で割安に見えたり、逆に過大評価されたりしやすいのは、ここに理由があります。

派手なニュースの中ではなく、顧客ラインの中にこそ、この会社の競争力は沈んでいるのです。

5. AI半導体時代に、工程の奥行きが広がる

顧客工程に深く入り込むという特性は、AI半導体の時代にいっそう効いてきます。

AI GPUを作るには、前工程の微細化が必要です。EUVやArF、KrFなどのレジストは、ロジックやDRAMの製造に関わる。しかし、AI半導体ではそれだけでは足りません。HBM、TSV、RDL、インターポーザー、マイクロバンプ、チップレット、2.5D/3D実装といった後工程・先端パッケージの重要性が高まっていきます。

TOKは、その両側に接点を持っています。2025年12月期の決算説明資料では、生成AI関連需要を背景に、前工程材料に加えてパッケージング工程材料の売上が伸びていること、高純度化学薬品でも先端デバイス製造向けの高付加価値品の比率が高まっていることが示されている。同じ資料では、生成AI向けGPUに使われる同社製品の例として、DRAM向けやロジック向けの各種フォトレジスト、インターポーザー向けのWHS材料やRDL用パッケージ材料、2.5Dパッケージ向けTSV材料、マイクロバンプ向けパッケージ材料などが挙げられています。

ここで重要なのは、AI半導体エクスポージャーが「EUVレジストだけ」ではない、という点です。AI半導体は、前工程の微細化と後工程の高度化が同時に進む領域です。ロジックを微細化し、HBMを積み、チップレットをつなぎ、インターポーザーやRDLで高速に接続する。その各所で、微細加工材料、高純度薬品、接着・仮固定・パッケージ材料が必要になります。

もともとTOKは、感光性材料や微細加工技術を、半導体以外の市場にも展開してきた会社です。PDP向け材料の経験も、単なる過去の失敗談として見るより、厚膜、大面積、パターン形成、実装寄り材料への技術蓄積として捉えるほうが自然でしょう。異なる微細加工市場へ感光性材料を移植してきた経験が、半導体の3D化や後工程高度化の波に再び吸収されていったとも言えます。

もちろん、リスクも同じ場所から出てきます。顧客工程に深く入り込むことは、顧客のロードマップ、認定プロセス、価格交渉、地域戦略、規制対応に縛られることでもある。High-NA EUV、金属酸化物レジスト、MTRのような次世代材料では、現在のポジションがそのまま将来も保証されるわけではありません。同社自身も、2026年12月期の増収増益を見込む一方で、2025年の営業利益には開発関連材料の在庫認識に伴う一過性増益が含まれていたと説明しており、足元の成長を一直線に外挿することには慎重であるべきです。

それでも、ASMLの光を受け止めるレジストを持ち、現像液や高純度薬品を持ち、成熟ノードにも先端ノードにも後工程にも接点を持つ会社が、半導体の微細化と実装高度化が同時に進む時代に向き合っている。工程の奥行きが広がるほど、TOKの材料が入り込む余地もまた広がっていきます。

レジストは、消えるために塗られる材料です。現像液もリンスも、役割を果たせばウェハから流れ落ちる。それでも、その一瞬の化学反応がなければ、ASMLの光は光のままで、回路にはなりません。

フォトレジストの基本工程:塗布→露光→現像・除去。光を受けた膜は、役割を終えれば取り除かれる。

半導体産業の表舞台に立つのは、NVIDIA、TSMC、ASMLといった企業でしょう。けれども、その光が実際の回路へと変わる場所には、レジストがあり、現像液があり、高純度薬品があり、先端パッケージ材料がある。

東京応化工業は、最終製品に名前を残しません。代わりに、完成品を成立させる工程の奥に深く入り込み、光を回路へ、材料を量産プロセスへと変え続けている。
その場所で、この会社は静かに働いています。


出典・参考リンク集

東京応化工業(TOK)公式
https://www.tok.co.jp/who-we-are/glance,  https://www.tok.co.jp/products/semiconductor-pre, https://www.tok.co.jp/products/semiconductor-post, https://www.tok.co.jp/application/files/9217/2292/5013/Integrated_report2023_all_a3.pdf, https://www.tok.co.jp/application/files/6217/7061/1266/account_2512_4.pdf, https://www.tok.co.jp/ir/library/report

ASML / imec 公式
https://www.asml.com/news/press-releases/2024/asml-imec-opening-high-na-euv-lithography-lab

Reuters
https://www.reuters.com/technology/asml-belgiums-imec-open-laboratory-test-newest-chip-making-tool-2024-06-03/

東京応化工業 2026年1〜3月期決算
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/AY2MIWY5I5MXFDNBTXMPSG6HGA-2026-05-11/

logmi Finance ― TOK経営陣による事業説明
https://finance.logmi.jp/articles/383459


情報基準日:2026年5月20日
本稿は、生成AIを調査・情報整理の補助ツールとして活用し、筆者が取材元の選定、事実確認、分析、構成、最終的な編集判断のすべてを行って制作しています。情報源は本文および出典・情報源リンク集に記載しています。


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