見出し画像

言葉の整理① 「伝わらない人」は、言葉を投げている

一生懸命言葉を尽くしているのに、伝わらない。
丁寧に話したつもりが、なぜか相手を傷つけてしまった。
誰かの何気ない一言が、ずっと頭から離れない。
SNSで見かけた言葉に流されて、自分が何を大切にしていたのかわからなくなる。

ビジネスの現場で、そして日常の人間関係で、「言葉」にまつわるこのような悩みを抱えている方は、決して少なくないはずです。

しかし、これは「話す能力」や「コミュニケーション力」の問題ではありません。
ただ、言葉が整っていないだけなのです。

放送局のアナウンサー・ニュースキャスターとして18年間、言葉を仕事の中心に置いてきた私が、もうひとつの専門領域である「整理」の理論と組み合わせて気づいたこと。
それは、言葉も、モノと同じように「整理できる」ということでした。

この連載「言葉の整理」全3回では、言葉を3つの視点から順に解きほぐしていきます。
まず、言葉を「伝える」技術。
次に、言葉を「受け取る」構造。
そして最後に、言葉を「自分の軸にする」プロセス。

3つの視点を経たとき、言葉はあなたにとって、消耗するものではなく、自分を整えるための道具になります。


「伝わらない」は、能力の問題ではない

情報過多の時代に、私たちは逆説的な困難に直面しています。
かつてないほど言葉を発する手段が増えたのに、「ちゃんと伝わった」という実感が薄れているのです。
SNSでの発信、チャットでのやりとり、会議でのプレゼン。
言葉を届ける機会は増えているのに、「なぜか伝わらなかった」という経験もまた、増えてはいないでしょうか。

そしてその多くは、内容の問題ではありません。
話す能力や語彙力の問題でもありません。
伝わらない本当の理由は、もっと構造的なところにあります。

なぜ「一生懸命話した」のに届かないのか

私はアナウンサー・ニュースキャスターとして18年間、取材やインタビューから生放送でのやりとりまで、職業として「人の話を聴く」ことを続けてきました。
そのなかで、ずっと気になっていたことがあります。

「この人の話は、なんてわかりやすいんだろう」と感じる人がいる一方で、「内容を理解するのが少し大変だ」と感じる人がいることです。

そして興味深いことに、その差は、話す内容のレベルとはまったく関係がないのです。

難解な専門知識を持つ人でも、驚くほどわかりやすく話す人がいます。
一方で、日常的な内容なのに、どこか受け取りにくい話し方をする人もいます。

長年観察してきて、わかりやすく話す人に共通する「ある特徴」に気づきました。
それは、相手の受け取るスピードに合わせているということです。

伝わりにくい人は、自分のリズムで話しています。
自分の思考速度で、自分の熱量で、自分の頭の中の整理順で。
それ自体が悪いわけではありません。
でも、そこに「相手」がいないのです。

そして重要なのは、これが悪意からくるものでは決してないという点です。

むしろ、一生懸命な人ほどやりがちなパターンです。
伝えたくて、伝えたくて、気持ちが先走って…
気づいたら、言葉が相手に届く前に、次の言葉を投げてしまっているのです。

整理収納から見えた「言葉の置き方」

私は現在、整理収納アドバイザーの講師としても活動しています。
アナウンサーと整理収納アドバイザー、一見まったく異なる分野ですが、この2つの仕事を通じて、ひとつの共通する原則に気づきました。

整理収納には大原則があります。
「共有で使うモノは、自分だけのルールで収めてはいけない」

たとえば、家族みんなが使うハサミ。
自分が最も取り出しやすい場所に入れて、自分だけがその場所を知っていても、他の誰かが使えなければ意味がありません。
「誰もが迷わず取れる場所」に置いて、はじめて機能します。

これは、言葉にも当てはまると私は考えています。
言葉も「モノ」と同じで、置き方が大事なのです。

「投げる」のと「丁寧に置く」のとでは、同じ内容を話していても、相手への届き方が根本から変わります。

「投げる話し方」とは、自分の思考のスピードと順番で言葉を放り出していくこと。
「丁寧に置く話し方」とは、相手が受け取りやすいように、理解できるように、言葉をそっと手渡していくこと。

間を取ること。ゆっくり話すこと。
これらはすべて、「次の言葉を受け取る空間を、相手のためにつくる」行為です。
沈黙は、怠慢ではなく、相手への配慮の空白なのです。

「バズる言葉」と「伝わる言葉」の本質的な違い

現代社会を見渡してみると、「投げっぱなし」が加速しています。
「バズる言葉」は投げつけるもの。
刺激で注意を奪い、瞬間的な反応を引き出すのです。
SNSのアルゴリズムはその構造を最大化するように設計されています。

一方で、「伝わる言葉」は丁寧に置くもの。
信頼をじわじわと積み上げていくことができます。

この違いを意識しているかどうかが、10年後もビジネスの現場で「話を聴いてもらえる人」かどうかを分ける、と私は確信しています。

明日から実践できる「言葉を置く」3つの習慣

① 「相手の受け取るスペース」を想像してから話し始める

話し始める前に、「今この人は、どんな状態で私の言葉を聴いているか」をほんの少し想像してみてください。
忙しそうか。疲れていそうか。このテーマにどのくらい詳しいか。
たったそれだけで、言葉の選び方も、話すペースも変わってきます。

② 「全部言う」より「ひとつ、確実に届ける」を優先する

伝えたいことが5つあっても、全部言い切る必要はありません。
ひとつが深く届いた方が、5つが流れていくより、はるかに意味があります。
「情報量=誠意」という思い込みを、まず手放すことから始めてみてください。

③ 相手の表情・反応でスピードを微調整する

対面での会話なら、必ず相手の表情を見てください。
「ついてきていないかな」と感じたら、一呼吸置く。もう一度、別の言葉で言い直す。それだけで十分です。

言葉の丁寧さは、相手への敬意である

言葉は、投げるものではなく、丁寧に置くものです。
あなたの言葉は今、「投げて」いるでしょうか。
それとも「丁寧に置いて」いるでしょうか。

言葉の丁寧さは、思考の丁寧さ。
そして、相手への敬意そのものです。
「伝わる言葉」とは、つまりは、相手を想像し続けた先にあるのではないでしょうか。

次回(第2回)の「言葉の整理」は視点を変えて、「受け取る側」に目を向けます。
相手の言葉にムッとしたとき、実は何が起きているのか。
感情と言葉の関係を整理していきます。

▼この連載の全記事はこちら

最後までお読みいただきありがとうございました。
「言葉と思考を整える」をテーマに、stand.fmで毎週月・水・金の朝に配信しています。通勤途中や家事の合間に気軽にお聴きいただけたら幸いです。


いいなと思ったら応援しよう!