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Claude Fable 5発表から日本企業の事例まで Code with Claude 2026東京レポート|初心者向け徹底解説 【前編・新モデル と 新機能】

※この記事は「Code with Claude 2026東京 完全レポート」(全3回)の【前編】です。【中編】は日本企業とCanvaの事例、【後編】は開発実践のノウハウを扱います。
サムネは「ファブル」違いを狙ったんですが、わかりにくくてすみません。

この記事を読むと、次のことが分かります。

  • 2026年6月に発表された新AIモデル「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」とは何か、従来モデルと何が違うのかが分かる。
    ※2026年6月13日現在、Fable 5などは公開停止になりました。

  • 強力すぎるAIに付けられた「安全装置」の仕組みと、その背景にある考え方が分かる。

  • AIエージェントを業務に組み込むために必要な3つの要素を判断できる。

  • 開発支援ツール「Claude Code」の新機能が、開発者の働き方をどう変えるのかが分かる。

話の地図を先に示します。

まずイベントそのものと当日朝の「事件」を紹介します(序章)
新モデルの実力と安全装置を解説します(第1章)。
それを業務で動かす基盤を見ていきます(第2章)。
最後に開発者の手元のツールの進化を確認します(第3章)。

※なお、この記事には高度な技術用語も登場しますが、すべて直感的な例えで解説しています。非エンジニアの方も、技術の仕組みそのものではなく「AI導入における組織の壁」という本質に着目して読み進めてみてください。



序章|開催数時間の前、「第5世代」が届いた

2026年6月10日、東京で「Code with Claude」が開かれました。ClaudeというAIを開発する米国企業Anthropicが主催する開発者カンファレンス(技術者向け発表会)で、5月のサンフランシスコ、ロンドンに続く3都市ツアーの最終地です。日本での開催はこれが初めてでした。当日の様子はライブ配信され、アーカイブ動画も公開されています。

このイベントには、台本になかったはずの劇的な幕開けがありました。基調講演に立ったClaudeプラットフォームのエンジニアリング責任者ケイトリン・レス(Caitlin Less)氏が、開口一番、日本の参加者に向けてこう告げたのです。

Just a few hours ago, we released the fifth generation of Claude models. Claude Mythos 5 and Claude Fable 5.

(意訳)ほんの数時間前、私たちは第5世代のClaudeモデルをリリースしました。「Claude Mythos 5」と「Claude Fable 5」です。

Code with Claude 2026 | Tokyo

米国時間6月9日(日本時間では開催当日の朝)、まさにAnthropicが広く提供する中で最も高性能な新モデルが発表された直後だったのです。発表されたばかりの最新AIについて、開発した本人たちが目の前で熱く解説する——この偶然のような必然が、一日全体の熱気を決定づけました。

レス氏は基調講演の中で、Claudeの能力向上の速さを、過去のイベントからの具体的な出来事とともに振り返りました。

  • 1年前(2025年):Opus 4というモデルが発表され、「機能をひとつ丸ごと自力で作れる」ことが驚きでした。

  • 半年前:夜間に自律して動き続け、タスクを完遂する「AIエージェント」が現れました。

  • 2ヶ月前(2026年4月):Mythos」というモデルが、セキュリティが極めて強固なことで知られるOpenBSDというOSのソースコード全体を読み込み、なんと27年間も人間のレビューや自動解析をすり抜けてきた脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を発見したのです。

そして、これらがもたらしたビジネスへの影響について、レス氏は次のように語りました。

Year over year, API volume is up nearly 17 times on the platform.

(意訳)前年比で、当プラットフォームにおけるAPIの利用量は17倍近くに増加しました。

Code with Claude 2026 | Tokyo

【用語解説】
○ API(Application Programming Interface)
ソフトウェア同士が会話するための「窓口」
のことです。開発者は自分のアプリや会社のシステムから、この窓口を通じてClaudeに仕事を頼みます。

○ API利用量が1年で17倍に増えた意味
単に人間がチャット画面でClaudeと話しているだけでなく、Claudeの頭脳を「部品」として組み込んだシステムやサービスが世界中で爆発的に増え、実業務で自動的に動き回っていることを意味
します。この記事全体を理解する上で、とても重要な前提となります。

※【追記】 Fable 5が公開停止に

米国政府に司令で、Fable 5の公開が停止されました。
この記事の解析や資料収集などにFable 5を活用しておりましたので残念でなりません。(2026年6月13日現在)


第1章|Claude Fable 5 と Mythos 5 
「最も賢いAI」と安全装置の仕組み

■ 何がすごいのか 2つの強み

新モデルの詳細を語ったのは、リサーチ製品管理責任者のダイアン・ペン(Dianne Penn)氏です。同氏は2023年にAnthropicに入社し、Claude 2の時代から現在のFable / Mythosに至るまで、21のバージョンすべてに関わってきた人物です。その彼女がFable 5について次のように紹介しました。

Fable 5 is the most capable model we've ever made generally available.

意訳)Fable 5は、私たちが一般提供してきた中で最も高性能なモデルです。

Code with Claude 2026 | Tokyo

その実力を証明するものとして、ソフトウェア開発の難問を集めたベンチマーク(性能測定試験)「SWE-bench Pro」で発表(2026年6月)時点においてAIモデルとしてトップの解決率(最高性能)を示したことが挙げられました。SWE-bench Proは、実際の企業のコードベースなどを使った極めて難しい実践的なテストです。ペン氏やAnthropicの公式発表は、その真価を次のように説明しています。

The longer and more complex the task, the larger Fable 5's lead over our other models.

(意訳)タスクが長く複雑になるほど、他のモデルとの差が大きく開きます。

Claude Fable 5 and Claude Mythos 5 | Anthropic
https://www.anthropic.com/news/claude-fable-5-mythos-5

強みは2つに整理されました。

1つ目は「シングルショットの正確さ(single-shot correctness)です。

これは、複雑であっても仕様がはっきりした問題なら、一発(シングルショット)で正しい成果物を出す力を指します。初期テスターからは「複数のチームで数日〜数週間かかる仕事が、たった1回の指示(プロンプト)で済んだ」という報告が相次いでいるといいます。

実際、公式発表でも、決済プラットフォーム大手のStripe(ストライプ)が、人間ならチーム全体で2ヶ月以上かかるような「5000万行に及ぶRubyコードベース全体の大規模移行」において、Fable 5を用いることで膨大な移行コードの生成作業をたった1日で完了させた(数ヶ月分の下準備を1日に凝縮した)事例が紹介されています。

2つ目は「長時間の自律性(long-horizon autonomy)です。

Fable 5は、1つの目標に対して数日間自律的に動き続けることができるといいます。
※ただし、長時間の自律実行はトークン消費量=コストの増大にも直結するため、実運用では【中編】で紹介するような『コストコントロール』の仕組みが重要になります。

数百万トークンに及ぶ膨大な作業の最中でも当初の指示(仕様)をしっかりと覚え続け、さらに部下にあたる「サブエージェント」を派遣して、彼らを監督しながらプロジェクトを進めることができるといいます。

さらにペン氏は、「コードを書く力だけでなく、読む力がさらに伸びた」ことも強調しました。システム障害(アウテージ / Outage)の原因調査や、リポジトリ(コードの保管庫)の過去の履歴をさかのぼって「いつ、何が壊れたのか」を特定し、改善策を自発的に提案するような、人間でも骨の折れる作業が非常に得意になったのです。

【用語解説】
○ トークン(token)
AIが文章を処理する最小単位
で、日本語ではおおむね1〜2文字、英語では単語の断片に相当します。「数百万トークン」とは、本に換算すると数十冊分もの膨大な情報を扱いながらも迷子にならないという意味で、AIの「集中力の持続時間」を測る単位として本記事に繰り返し登場します。

○ SWE-bench Pro
AIが実際のソフトウェア開発の現場でどれくらい役立つかを測るためのテスト。数行の修正で終わる簡単なテストではなく、複数のファイルにまたがる100行以上の修正が必要な「プロレベル」の難問を集めたものです。最新AIでも解くのが非常に難しいことで知られています。

■ 強い知能には安全装置を Opus 4.8への自動迂回

ペン氏のセッションで特に印象的だったのは、Fable 5の圧倒的な性能を示したあとに「この規模の知能は両刃の剣です」と語った点です。Fable 5が持つサイバーセキュリティや生物学の能力は、悪用されれば大規模なサイバー攻撃や危険な生物兵器などの設計に使われかねない水準に到達しています。

そこでAnthropicは、Fable 5新しい安全装置(safeguard / セーフガード)を導入しました。ユーザーからのリクエストが「サイバーセキュリティ」「生物学・化学」の話題、あるいは「AIの能力を不正にコピーしようとする行為」(蒸留)に触れると、AIの内部にいる分類器(監視役)がそれを検知します。

すると、Fable 5は自動で一世代前の有能なモデル「Opus 4.8」に処理を引き継ぎ(フォールバック)、Opus 4.8が代わりに回答を生成する仕組みになっています。回答には、安全装置が作動してモデルが切り替わった旨が明示されます。

この機能について「高い料金を払ったのに古いモデルで回答されるのでは?」と心配する開発者もいるかもしれません。しかし、公式のAPIドキュメントによれば「フォールバッククレジット」という仕組みがあり、迂回された場合はFable 5の高い価格で課金されることはなく、実際に処理を行った Opus 4.8 の(より安価な)料金が適用されるため、処理の切り替えでユーザーが損をしない設計になっています。

安全装置によって、正当な目的で使おうとしているユーザーまで制限されてしまう問題について、ペン氏は次のように率直に課題を認めました。

We know this is not perfect yet. Researchers doing legitimate work in these fields will sometimes hit a block and reroute... But that's a type of trade-off that allows our most capable models to be in everyone's hands today, as of this morning, instead of months from now.

(意訳)まだ完璧ではないのは、私たちも認めています。これらの分野できちんと研究してる人でも、たまに行き詰まって方針を変えなきゃいけないこともあります。
しかし、これはある程度の割り切りなんです。そのおかげで、私たちの最强モデルが今朝すでにみんなの手に届いて、数ヶ月待ちじゃなくてすぐ使えるようになったんです。

Code with Claude 2026 | Tokyo

安全性を追求しすぎてリリースを遅らせるのではなく、一定のブロックの誤作動を許容してでも「今すぐ安全に最新モデルを提供する」という、安全と提供スピードのトレードオフ(二律背反)を隠さず言葉にした場面でした。

一方で、実業務においてこの「誤ブロック」がどの程度の頻度で発生し、開発者のワークフローを阻害し得るのかは、今後の実運用における検証課題とも言えそうです。

■ もうひとつの新モデル「Mythos 5」と Project Glasswing

では、Fable 5と同時に発表されたもうひとつのモデル「Mythos 5」とは何でしょうか。実は、AIの頭脳そのものはFable 5と全く同一です。唯一の違いは、サイバー・生物分野の安全装置を外している点です。

もちろん、この危険な能力を秘めたモデルは一般提供されません。Anthropicが主導する「Project Glasswing」(プロジェクト・グラスウィング)という枠組みに参加する、審査済みのパートナー(政府機関、セキュリティ企業、重要インフラ事業者など)に限定して提供されます。

公式発表によれば、このプロジェクトの参加企業は、前身となるモデルを使ってすでに世界中の重要なソフトウェアから1万件を超える重大な脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を発見し、修正するという大きな成果を上げています。

さらに今月からは、このプロジェクトにライフサイエンス(生命科学)分野の研究者の受け入れも始まる予定です。安全装置を外した強力なAIが、新薬の発見や医学の進歩に貢献することが期待されています。ペン氏の以下の言葉が、この「安全装置付き」(Fable 5)「安全装置なし」(Mythos 5)という二重構造の理由を端的に表しています。

because those same capabilities that make biology risky are actually the same ones that have the highest impact for real good with AI.

(意訳)なぜなら、バイオテクノロジーを危険にする能力こそが、実は AI で最大のプラス効果を生む同じ能力なのです。

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【用語解説】
○ セーフガード(safeguard)
AIが悪用されたり、危険な情報を出力したりしないように監視・ブロックする安全装置
のこと。

○ フォールバック(fallback)
システムに問題や制限が起きたときに、自動的に予備のシステム(ここではOpus 4.8)に切り替えて処理を継続する仕組み

○ トレードオフ(trade-off)
何かを得るために、別の何かを犠牲にしなければならない関係性
のこと。「スピードを優先すれば、少しの不便(誤ブロック)が生じる」といった状況を指します。

■ 開発者への3つの助言

ペン氏は講演の締めくくりに、日々進化し続けるAIに向き合う開発者に向けて、3つの重要な助言を贈りました。

第一の助言】 いま目の前のモデルではなく「次のバージョン」を前提に設計すること

First, you should design for the next version of Claude, not just the current one... as models become more intelligent, they can actually do farther with more basic primitives, such as a file system or sandbox computing environments, and far less with sophisticated or too complex harnesses.

 
(意訳)まず大切なのは、今の Claude だけじゃなくて、次に来るバージョンも視野に設計することです。
モデルがもっと賢くなれば、ファイルシステムやサンドボックス環境みたいな、シンプルで基本的なツールだけで、実はもっと大きな成果が出せます。逆に、凝りすぎた仕組みや複雑に作り込んだ統合環境だと、モデルが進化してもほとんど役に立たなくなる、むしろ足かせになるんです。

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【第一の助言の解説】
現在のAIの弱点を補うために、人間が細かく指示を出したり制限をかけたりする仕組み(ハーネス)を作り込みすぎると、AIが本来持っているポテンシャルを殺してしまいます。AIが賢くなれば、基本的な道具(ファイルシステムなど)を渡すだけで、自律的に考えてタスクをこなせるようになります。作り込みすぎたシステムは、将来的にAIの進化の「足かせ」になってしまうという警告です。

【第二の助言】 今のモデルではまだ解けないくらい難しい評価基準(Evals)を用意しておくこと

As models get more intelligent, you will also need to start making harder evals and product prototypes for experiences that may not work yet. [...] When a task or a prototype or a product experience that wasn't quite always working well starts working, that's a signal to ship something magical that you couldn't have done before.

(意訳)モデルの性能が上がるにつれて、今はまだ実用レベルに達していない体験についても、より厳しめの評価基準を設定し、製品プロトタイプの開発を進めていく必要があります。
(中略)
あるタスクやプロトタイプ、製品体験が『以前は必ずしもうまく動作しなかった』ものが、ようやく確実に動くようになったとき、それは『これまでできなかった、まさに魔法のようなもの』をすぐに出荷(リリース)すべきタイミングが来たというシグナルです。

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【第二の助言の解説】
現在のAIの能力では失敗してしまうような難問を、あえてテストとして用意しておくことを推奨しています。新しいAIモデルがリリースされ、これまで解けなかったその難問が「解けるようになった瞬間」こそが、他社には真似できない画期的な新製品をリリースする最大のチャンスになるからです。

【第三の助言】 モデルの更新を「面倒な作業」ではなく「ビジネスチャンス」として扱うこと

And finally, as the pace continues to accelerate, the teams who win are the ones that get the most out of Claude with model upgrades and treat them as business opportunities.

(意訳)最後に言えるのは、変化のスピードが加速し続けるこれからは、Claudeのモデルアップグレードを最大限に生かし、それを事業成長の機会に変えられるチームが勝っていく、ということです。

Code with Claude 2026 | Tokyo

【第三の助言の解説】
AIモデルは数ヶ月単位で新しいバージョンが登場します。それを「システムの修正対応に追われる面倒な作業」と捉えるか、「新しい価値を顧客に提供できるチャンス」と捉えるかで、企業の競争力に大きな差が出ます。常に最新のAIの恩恵を受けられるよう、モデルのアップデートを簡単に行える自動化の仕組みなどを整えておくことが、これからの開発の鍵になります。

【用語解説】
○ ハーネス(harness)
馬具のハーネスが語源。AIが迷走しないように、人間の意図通りに動かすための周辺プログラムや制御の仕組み
のこと。

○ サンドボックス(sandbox)
直訳は「砂場」。AIがプログラムを実行したりテストしたりするための、外部に影響を与えない安全に隔離された環境
のこと。

○ 評価基準(Evals / エバルス)
AIが期待通りに動いているかを自動で採点・評価するテストの仕組み


※この3点は、【後編】で扱う「開発実践」(具体的な開発ノウハウ)の重要な伏線になるので、ぜひ覚えておいてください。


第2章|Claude Managed Agents 
「眠らない同僚」を雇う基盤

■ 夜中に自分のバグを直すプロダクト

Claudeプラットフォーム製品責任者のアンジェラ・ジェイン(Angela Jane)氏は、ひとつの魅力的な「寓話」(Fable)から講演を始めました。

Last night, while we were all asleep, a product somewhere noticed that it was broken. This product read its own error reports, it found the bug, and it wrote the fix, and rolled it out to all the users. By the time the team actually woke up, the problem was gone, and the changelog was already written. Now, in this situation, there was no stand-up, there was no ticket, and this is what a native AI company looks like.

(意訳)昨夜、私たちがみんな寝ている間、ある製品が『自分がおかしい』と気づきました。この製品は自分のエラーログを読み、バグを発見し、修正コードを書き、すべてのユーザーに自動で配信までしました。
チームが実際に朝起きて気づく頃には、問題はすでに消え、変更履歴もすでに自動で書かれていました。
この状況では、朝の短いチーム会議もなかったし、課題管理チケットも作られませんでした。これが AI ネイティブな会社の姿なのです。

Code with Claude 2026 | Tokyo

人がAIを「便利な道具」として使う段階を超えて、仕事そのものがAIという基盤の上で自律的に回り、人間は「成果(ゴール)を決める側」に回る。

ジェイン氏はこの寓話を現実にするための材料として、次の3つの要素を挙げました。

The first is the harness, the second is the context, and the third is the infrastructure. These three are what turn raw intelligence into true business outcomes.
(意訳)最初の要素は仕組み(ハーネス)、次の要素は情報(コンテクスト)、最後の要素は基盤(インフラ)です。この 3 つが、そのものとしての知性を、実際のビジネス成果に作り変えるものです。

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この3点セットを丸ごと提供し、開発者が簡単に「眠らない同僚」を作り出せるようにしたのが「Claude Managed Agents」(クロード・マネージド・エージェンツ)という基盤製品です。

会場では、NotionやAsanaといった著名なソフトウェア企業が、自社製品内のAI機能(コパイロットやプロジェクトの協働エージェントなど)をこの基盤の上に構築していると紹介されました。

【用語解説】AIを社員にするための3要素

①ハーネス(harness)
本来は馬具や安全帯を指す言葉ですが、AI分野では「モデルという頭脳に、手足と作業場と権限を与える仕組み」
を意味します。どんなに賢い頭脳でも、ハーネスの出来によって仕事の質が大きく変わるため、本シリーズ全体を貫く最重要キーワードです。

②コンテキスト(context)
AIに渡す文脈や記憶。いわば、その仕事をするための「社内マニュアル」や「過去の議事録」
です。

③インフラ(infrastructure)
多数のエージェントを同時に、大規模かつ安定して動かすための基盤
。いわば、AIが安全に働くための「オフィス環境と体力」です。

■ アウトカム、メモリ、そして「夢を見る」エージェント

続くデモでは、F1レースの架空チーム「シンキラ・レーシング」の分析ダッシュボードが披露されました。空力タイヤ温度パワーユニットドライバー安全という4つの研究テーマそれぞれにエージェントが割り当てられ、「車を速くするには何を変えるべきか」を自律的に調査します。
Anthropicは2026年2月からウィリアムズF1チームの公式パートナーでもあります。

ここで重要になる概念が「アウトカム」(outcome / 成果基準)です。エージェントには細かい作業手順ではなく「何ができていれば合格か」(アウトカム)だけを渡します。そして、別に用意された採点役のエージェントが「十分か。足りなければやり直し」と判定し、達成するまで反復(イテレーション)させます。人間の管理職が部下に目標を渡して評価するのとよく似た構図です。

さらにユニークなのが「メモリ」(記憶)と「ドリーミング」(夢を見ること)です。ジェイン氏は次のように説明しました。

we give our agents the ability to dream so they can inspect over their own previous trajectories and identify how to self-improve.

(意訳)私たちは、エージェントに『夢を見る』能力を与えます。そうすることで、エージェントは自分自身の過去の行動(作業履歴)を確認し、どう自己改善すべきかを見つけ出すことができます。

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エージェントは作業のたびに学んだことをファイルに書き残しますメモリ)。そして、時には過去のセッション群を振り返って「次はこうすればうまくいく」という教訓やスキルを整理します。この振り返りを、人間が眠りの中で記憶を整理することになぞらえて「ドリーミング」と呼んでいるのです。

【中編】で詳しく述べますが、楽天の事例で同社の発表によれば、この「メモリ」と「ドリーミング」の仕組みを活用することで、システム導入初期に発生していた問題の9割をAI自身に解消させたと語っており、これが単なる比喩遊びではなく強力な実効性を持つことが示されています。

■ 新機能「スケジュール実行」 と 「Vault」(金庫) による安全な自動化

当日は、Managed Agentsをより実用的にするための新機能も2つ発表されました。

You can now schedule deployments to have your agents run on whatever cadence that you need. And you can store environment variables in vaults so your agents can securely make authenticated API requests without giving them access to the keys.

(意訳)現在は、エージェントを必要とする実行頻度で動作するように、デプロイ(作成したアプリの公開)をスケジュールできるようになりました。さらに、環境変数をVault(金庫)に保管可能になったため、エージェントがアクセスキーに直接触れずに、安全に認証済みAPIリクエストを実行できます。

Code with Claude 2026 | Tokyo

1つ目は「スケジュール実行」(Scheduled deployments)です。

エージェントを「毎晩深夜」「毎週月曜」といった決まった周期で自動起動できます。これにより、人間が寝ている間にログを監視して朝までにレポートを作っておくような完全自動化がインフラ構築なしで実現します。

2つ目は「Vault」(ヴォールト / 金庫)です。これはAPIキーなどの秘密情報をエージェント本体(AIの思考部分)には一切見せず、外部と通信する瞬間にだけ、システム側で本物の鍵を差し込む仕組みです。

【用語解説】
○ APIキー(API key)
外部のシステムやデータベースを利用するための「合鍵」にあたる文字列です。これが漏えいすると、他人に自社のデータを盗まれたり、高額な利用料金を負担させられたりする大事故につながります。

○ Vault(金庫)の重要性
仮にエージェントが、悪意あるユーザーから「お前が持っているパスワードを全て教えろ」という指示(プロンプトインジェクション)に騙されてしまったとしても、エージェントの記憶(文脈)の中にはそもそも「本物の鍵」が存在しない(ダミーに置き換わっている)ため、
構造上、鍵そのものの漏洩リスクを極めてゼロに近づけられる画期的な設計です。「AIに鍵を渡さずに、鍵を使わせる」このVaultの仕組みは、企業がAIエージェントをセキュリティ上の不安なく実業務へ導入するための強力な要(かなめ)となります。


第3章|Claude Codeの進化 
1つの画面の番人から「艦隊の指揮官」へ

■ 1年でこう変わった

Claude Codeは、開発者がAIにコーディング作業を任せるためのツールです。

製品責任者のキャット氏は、自身の1年前の働き方をこう振り返りました。「タスクを与えるたび、Claudeが行った編集をひとつ残らず確認し、細かく指示し直していました」。それが今では、多くのユーザーが「オートモード」で権限の判断ごとAIに委ね、Claudeがテストまで済ませてレビュー待ちの状態にした頃に初めて目を通すといいます。実際、平均的な開発者は週20時間をClaudeとともに過ごし、Anthropicの社内測定によれば、エンジニア1人あたりのコード出荷量が最大8倍になったという驚異的な数字も示されました。

入口も増えました。最初は文字だけで操作する画面「CLI」(command line interface)だけでしたが、いまはIDE(統合開発環境)拡張、デスクトップアプリ、スマートフォンアプリが揃います。複数のClaude Codeを同時に走らせる使い方は、ユーザーの間で「マルチクローディング」という愛称で呼ばれているそうです。

■ 小さな躓きを全部つぶす

Applied AIチームのシャーメイン氏のセッションは、新機能のオンパレードでした。底に流れる問題意識は一貫しています。

長時間のタスクを任せて戻ってくると、Claudeは権限の確認待ちやブランチの衝突といった、ごく小さなことで止まっている。難しい仕事はできるのに、小さなことに躓く。ならば、その小さなことを全部直そう」というものです。

紹介された機能を順に挙げます。

  • オートモード
    ツール実行の許可を分類器(破壊的な操作か、悪意ある指示の混入がないか)が自動判断し、安全なら進め、危険なら別の方法を探すか人に確認を戻します。

  • ワークツリー
    複数のエージェントが同じコードベースで作業しても衝突しないよう、作業場所を自動で分ける仕組みです。

  • 自動メモリ
    ビルドコマンドやプロジェクトの約束事をClaudeが自分で記録し、次回以降に活かす機能です。

  • ルーチン
    決まった時刻やイベント(GitHubの通知など)をきっかけに自動でタスクを起動する仕組みで、毎朝の課題整理のような定型業務を任せられます。

  • エージェントビュー
    動いている全セッションを一覧し、「どれが自分の判断を待っているか」だけを見て艦隊全体を操舵する画面です。

【用語解説】
○ ブランチ(branch)
○ PR(pull request / プルリクエスト)
ブランチはコードの「作業用の枝分かれ」(本番のコードを壊さずに、自分専用の安全なコピー空間を作る仕組み)
、PRは「この変更を本流に取り込んでください」という申請です。複数のAIが同時に作業する時代には、この枝分かれの管理こそが渋滞の原因になるため、ワークツリーのような地味な機能が生産性を大きく左右します。

■ ダイナミックワークフロー 12言語を一度に

目玉は、この週に一般提供(GA)が始まった「ダイナミックワークフロー」です。

大きな仕事を与えると、Claudeがまず作業全体の指揮スクリプトを書き、必要な数のサブエージェントを並列に立ち上げ、結果を検証してからひとつにまとめます

デモでは、英語のみのマーケティングサイトを12言語へ展開する課題が示されました。1言語ずつ順番にやれば1時間近くかかる見込みの作業を、12のエージェントが同時に翻訳し、さらに別の12のエージェントが検証する様子が映し出されました。※当然ながら、実業務で高品質を保つには、最終的な人間による品質チェックが依然として重要になります。

確実に起動させるコマンド(指示語)は「ultracode」(ウルトラコード)です。

この力が現場で何を生むかは、すでに数字が出ています。Spotifyは移行計画を平易な英語で書いておけばエージェントの艦隊がPRを開く仕組みを作り、月1000件以上を本番に取り込み、移行期間を90%短縮しました。日本のメルカリでは、エンジニアリング組織全体でClaude Codeの本格導入・標準化が進められています。(詳細は【中編】で扱います)。

⭐️ 【前編】のまとめと次回予告

イベントの終盤、Claude Codeのプレゼンテーションを終えたキャット・ウー氏は、この日発表された内容を次のように総括しました。

Diane's capability curve, Angela's agents that run on infrastructure that you control, and what I just showed you. These are three layers to one story. The remaining gap is just how fast we can put these great capabilities to work for us.
(意訳)ダイアン氏が示した能力の曲線(AIの進化)、アンジェラ氏が示したあなたが管理するインフラ上で動くエージェント(働く環境)、そして私が今お見せしたツール(Claude Code)。これらは、ひとつの物語を構成する3つのレイヤー(層)です。残された唯一の課題は、私たちがどれだけ早く、これらの素晴らしい能力を自分たちのビジネスのために働かせることができるか、ということなのです。(Code with Claude 2026 | Tokyo

この言葉通り、ここまでを一言で振り返ると、「賢くなった頭脳」(Fable 5 / Mythos 5)に、「安全装置」(セーフガードとProject Glasswing)と、「働く体・環境」(Claude Managed Agents)と、「開発者の道具」(Claude Code)が、ひとつの物語として同時に揃った歴史的な日だったといえます。

単なる「AIの性能テストの点数が上がった」という数字の自慢ではなく、「強すぎる力を、安全性を保ちながらいかに社会へ配るか」というAnthropicの深い設計思想まで含めて発表されたことが、このイベントの最大の特徴でした。

中編】では、いよいよこの強力な道具立てを実際に使った企業の事例に迫ります。日本企業である楽天、メルカリ、みずほ、NRIが、この新しいAIを自社に組み込んでどのような「生々しい数字」(成果)を出しているのか。そして、数千万人のユーザーにAI機能を提供するCanvaが学んだ「AIを安く・賢く・速く動かすための教訓」を詳しく紹介します。どうぞご期待ください!


⭐️ 参考引用文献

◯『Code with Claude 2026 | Tokyo(ライブ配信アーカイブ)』− Anthropic(2026年6月10日、YouTube)、この記事が依拠する一次資料。基調講演・新モデル解説・プラットフォーム解説・Claude Code新機能の各セッションを収録。本文全章の根拠(講演者の発言に基づくため、各数値は登壇者の自己報告である点に注意)。イベント公式ページを含む。

◯『Claude Fable 5 and Claude Mythos 5』(Claude Fable 5とClaude Mythos 5) − Anthropic(2026年6月9日、公式発表) 第5世代モデルの能力・安全装置・提供形態の一次情報。「Fable 5の能力は、これまで一般提供したどのモデルをも超える」と発表した。第1章の中核(開発元自身の発表であり、第三者検証前の主張を含む点に注意)。日本語版モデル紹介ドキュメントを含む。

◯『Claude Fable(製品ページ)』− Anthropic(2026年、公式サイト)料金(100万トークンあたり入力10ドル・出力50ドル)、安全装置で迂回された場合はFableの価格で課金されないこと、システムカードへの参照を記載。第1章「安全装置」節の根拠。Fable 5向けプロンプト作成ガイド(日本語)を含む。

◯『Project Glasswing』(プロジェクト・グラスウィング)− Anthropic(2026年、公式ページ)Mythosを防御目的に限定提供する枠組み。「パートナーは1万件超の重大な脆弱性を発見した」と報告。第1章・Mythos 5の節の根拠(提供側の自己報告値である点に注意)。拡大発表を含む。

◯『New in Claude Managed Agents: run agents on a schedule and store environment variables in vaults』(Claude Managed Agentsの新機能:スケジュール実行とVault)− Anthropic(2026年6月9日、公式ブログ) 秘密情報はサンドボックス内に置かず、許可された通信先への送信時にのみ実際の値を注入すると説明。第2章・新機能の節の根拠。Managed Agents概要ドキュメントを含む。

◯『Introducing dynamic workflows in Claude Code』(Claude Codeのダイナミックワークフロー)− Anthropic(2026年、公式ブログ)1回の実行で最大1,000のサブエージェント・最大16並列を統率すると説明。第3章・ダイナミックワークフローの節の根拠。公式ドキュメントを含む。

この記事の構成や下調べにはAIを活用しています。

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