『宗教の起源』を図解で学ぶ!
移民を受け入れるとなると、すでに一部各地で起きているように、宗教に根ざした課題が浮上する。礼拝の問題、土葬の問題、生活週間⋯⋯。米イの紛争も、イスラエルとパレスチナの問題も、発生要因の一部は宗教にあるといってもよいでしょう。
では、なぜ宗教は生まれたのか。その起源、成り立ちを進化論に基づいて解き明かした本です。
宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか
ロビン・ダンバー (著), 長谷川眞理子 (解説), 小田哲 (翻訳)

結論からいうと、「人類が生き残るための生存戦略」だったということです。

外敵から守るため、また増えすぎた構成員をまとめるために、宗教(的なもの)が必要だったということです。
宗教をいかに研究するのか

従来の宗教学は「信仰」に焦点を当てがちで、宗教の重要な要素である「儀式」や「共同体構築」の役割を見過ごしてきた。
本章では、古いアニミズム信仰が新しい教義宗教の土台として残存している点に触れつつ、宗教を科学的に研究するための基盤として進化論の視点を導入している。
動物行動学者ティンバーゲンの「4つのなぜ(機能、メカニズム、発達、進化の歴史)」という枠組みを用いることで、宗教が社会で果たす結束の役割、神経生物学的な仕組み、進化史における誕生時期を実証的に解き明かす手法を提示しています。
神秘体験が信仰の原点

あらゆる宗教の根底には、トランス状態を通じて人智を超えた存在を直接体験しようとする「神秘志向」が存在する。
音楽、踊り、苦行、向精神薬などによって誘発されるトランス状態は、日常の感覚を遮断し、強烈な感情の揺さぶりと平穏をもたらす。この圧倒的な「生身の感情」こそが、霊的世界の存在を信じる原動力。狩猟採集社会のシャーマンは、この技術を用いて病気の治療や予言を行い共同体の不安を取り除いてきた。
どれほど洗練された教義宗教であっても、その根底には古代からの没入的な神秘体験が宗教行動の土台として不可欠な要素となっている。
信じると救われるのか?

宗教が人間に与える利益について検証している。
宗教には、個人の健康や幸福度を高める効果もあるが、進化上の真の利益は集団の結束を通じた協力体制の構築にある。
集団が拡大すると、他者の協力にただ乗りするフリーライダー問題が生じる。しかし、「高みから道徳を説く神」の存在を想定すれば、神の監視と懲罰への恐怖が利己的行動を抑止する。
また、厳しい儀式への参加という犠牲的コミットメントが、赤の他人同士の協力を促す。外的脅威に対抗するための集団規模の拡大と、それに伴う内部ストレスを緩和して結束を維持することこそが、宗教進化の最大の原動力である。
共同体と信者たち

安定した人間関係を維持できる人数の上限は、脳の新皮質の大きさに依存するという「社会脳仮説」に基づき、人間の自然な共同体の規模は約150人(ダンバー数)であることを解説している。
狩猟採集社会や現代の社会ネットワークだけでなく、キリスト教の教区などの信者集団においても、この150人前後が最も安定して機能する。
集団がこの数を超えると、構成員間の帰属意識が薄れ、不満や対立が生じやすくなる。そのため、組織を維持し拡大するには、集団を分割するか、指導者を置いて階層化と規律を導入するかの転換が迫られる限界点であることを示す。
社会脳と宗教

霊長類は、1対1の社会的グルーミングでエンドルフィンを分泌させ結束を築くが、人数に物理的な限界がある。
そこで人類は笑い、歌、踊り、宗教儀式などの「遠隔グルーミング」を獲得し、多人数で同時にエンドルフィンを分泌させ大規模な結束を可能にした。
また、宗教は友情の柱として働き、見知らぬ他者同士でも、同じ信仰を持てば、強い帰属意識が生じる。さらに、神を「意図を持つ存在」として、他者と共有し、教義宗教を成立させるには、他者の心を推測するメンタライジングの最高レベルである「五次志向性」という高度な認知能力が必要であることを解説している。
儀式が生む多幸感

宗教儀式が集団の結束を強める神経心理学的な仕組みを解き明かす。
儀式での歌や踊り、感情的な説教、時に伴う苦行は、脳内のエンドルフィン分泌を促し、心地よい高揚感をもたらす。
これにより、参加者同士の帰属意識や協力行動が顕著に高まる。
特に重要なのが「動きの同期」で、礼拝での一斉の起立や詠唱など、同調した行動はエンドルフィンの作用をさらに増幅させる。
儀式は単なる神学的な意味にとどまらず、他者と動きや、感情を同期させる身体的・感情的体験として、巨大な共同体をまとめあげる強力な接着剤として機能しているのである。
ニンゲンだけが神を共有した

考古学的証拠と認知能力の進化から宗教の起源を探る。
ネアンデルタール人などの旧人類も死者を安置しトランス体験を持っていた可能性はあるが、彼らの認知能力(四次志向性)では霊的世界の気配を感じるにとどまり、複雑な神学として他者と分かち合う「共有宗教」の構築には至らなかった。
高度な言語と五次志向性を獲得し、現代の私たちが知る形の宗教を生み出せたのは、約20万年前の現生人類からである。
統計学的な系統樹分析からも、宗教がアニミズムからシャーマニズム、やがて教義宗教へと進化してきた歴史が裏付けられている。
人口増加と教義宗教

約1万年前の新石器時代、外敵から身を守るため定住と農耕が始まり、人口が急増した。だが、集落がダンバー数を大幅に超えると、ストレスや内部での暴力が激化する。
この社会分裂の危機に対処するため、形式の整った儀式や神殿、聖職者を持つ教義宗教が必要とされた。
さらに、人口が100万人規模の帝国に達した「枢軸時代」には、匿名性の高い巨大社会を上から統制する仕組みとして「高みから道徳を説く神」が登場する。
組織化された宗教は、環境変化や人口増加による社会結合の限界を突破するための、適応戦略として進化したのである。
すべてはカルトから始まる

巨大宗教の起源であるカルトの形成過程と、カリスマ指導者の特徴を考察する。
カリスマは自らの特別な使命に圧倒的な確信を持ち、既存体制に不満を抱く人々の帰属意識の焦点となる。彼らの多くは幼少期のトラウマや、統合失調型パーソナリティ障害に似た心理的特徴を抱える。
信者は指導者との親密な関係や神秘体験を通じ、エンドルフィンによる強い絆を感じて追随するが、この密室的関係は絶対的服従や性的搾取、集団自殺などの暴走の危険を孕む。
カルトは組織化や布教に成功しなければ、創始者の死とともに自然消滅するか細かく分裂していく宿命にある。
社会脳の限界が対立を生む

なぜ宗教は絶えず分裂し、新たなセクトを生むのか。その根本理由は人間の「社会脳」の限界にある。
巨大宗教は、大規模社会を束ねるために発展したが、人間の脳は、本来150人程度の親密な集団にしか適応していない。
組織が拡大し帰属意識が薄れると、不満を抱く者が新たなカリスマのもとに集い、親密な小集団への分裂を繰り返す。
また、教義宗教の土台には、古代の没入型宗教の要素が今も残り、信仰の原動力となっている。宗教は「私たちと彼ら」を分ける心理を利用し、強固な結束を生む半面、異教徒への激しい紛争も引き起こす、人間の本性に深く根ざした適応なのである。

宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか
ロビン・ダンバー (著), 長谷川眞理子 (解説), 小田哲 (翻訳)
