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トミセンスの危機!優良顧客とのドライブ先は巨大神殿だった話

私が以前いた業界には、経営者が宗教活動に熱心な方が多く集まっていました。
時には「集会の人数合わせに参加してほしい」と依頼されることも度々あり、私はそれも「営業の一環」と割り切り、休日を削って参加していました。
無宗教の私にとって、そこで聞くお話は不思議な感覚ではありましたが、「人間の信じる力の強さ」を肌で感じることができ、それなりに勉強になったものです。

幸い、入信を勧められることも心が動くこともなく、常にビジネスライクな関係性を維持できていました。

そんなある日のことです。
ある超優良店の社長から、ドライブに誘われました。
「トミセンス、気分転換にドライブに行こう」 特に予定がなかったことと、この重要顧客と「もっと親密な関係を築きたい」という仕事上の下心もあり、私は喜んで助手席に乗らせていただきました。

高級車の車内でたわいもない会話を楽しんでいるうちに、車はどんどん山奥へと入っていきます。

目的地を尋ねると、社長は言いました。
「パワースポットだよ。トミセンスも仕事に勢いが欲しいだろう? 俺もここに来るようになってから、会社がどんどん大きくなったんだ」

山を越えると、目の前に巨大な神殿のような建物が現れました。 その瞬間、私は直感しました。 (今日はヤバいかもしれない)

車が神殿の前に止まると、中から僧侶の格好をした人々がぞろぞろと出てきて、「いらっしゃいませ」と深く頭を下げて出迎えてくれます。
巨大な応接間に通され、施設の全容を説明される間も、私の頭の中はフル回転でした。
「この状況で、社長の機嫌を損ねずに、いかに早く帰るためのシナリオを作るか」ということで一杯だったのです。

しかし、そこで衝撃の一言が放たれました。
「今日はせっかくの機会ですから、入信体験をしていただきます」

「最悪だ」と思いましたが、もはや流れを変えることはできません。


お香の煙が立ち込める部屋で、座禅を組むことになってしまいました。
座禅中も、私は必死に「次の一手」を考え続けます。冷房がガンガンに効いている部屋なのに、冷や汗が止まりません。

続いて、次のプログラムに移ることになりました。
炎天下の中、長い坂道を登っていきます。
「チャンスはここだ」と腹をくくった私は、わざとよろめきながらその場に倒れ込みました。
仮病を使うなんて、小学校のプールの授業以来のことです。

慌てた職員の方々が体を支え、水を持ってきてくれました。 「応接室に戻りましょう」 その言葉に、心の中で激しく安堵しました。

軽い熱中症ということにして、その後2時間ほど横にさせてもらいました。

その間も寝たふりをしながら次の一手を考えます。
漏れ聞こえてくる会話から、社長は今日丸一日ここに滞在する予定だったことが分かりました。
私は勇気を振り絞り、
「少し良くなりましたので、今日はこれで失礼させていただきます」と告げました。
「なんとか歩けますので、近くの駅まで送っていただけないでしょうか」とお願いすると、事務員の方が車を出してくれることになりました。

麓の駅にたどり着いた時の、あの凄まじい安心感は今でも忘れられません。

その後、その会社とのお付き合いは付かず離れずの関係となり、売上が増えることはありませんでした。
後日談ですが、競合メーカーがバスを仕立てて、この神殿に営業所の人間を大量に連れて行ったという噂を耳にしました。
彼らがその後どうなったのかは知る由もありません。

「ビジネスの場で政治・野球・宗教の話はタブー」とはよく言われますが、まさにそれを身をもって痛感した、忘れられない体験です。


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