『ポケベルが鳴らなくて』
「ポケベルが鳴らなくて」
このタイトルを聞いて、ピンとくる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
1993年(平成5年)、緒形拳さんと裕木奈江さんが共演し、世間を騒がせた不倫ドラマです。
国武万里さんが歌う同名の主題歌も大ヒットしたため、曲の方を覚えている方も多いかもしれません。
当時はまだ、携帯電話が普及する前の時代。
営業マンにとってポケベルは必須アイテムでした。
当時の私の職場は完全なアナログ人間社会で、とにかく四六時中ポケベルが鳴り響いていました。
ドラマのタイトルのように「鳴らないのが寂しい」などとは微塵も思わず、むしろ「頼むから鳴らないでくれ」と願っていたものです。
一度鳴れば、こちらが連絡を入れるまでベルは鳴り止みません。
そのたびに営業マンは街中で公衆電話を探し回りました。
現在、公共の電話ボックスは全国に約12万台まで減ったそうですが、当時は90万台以上。
誰もが小銭の代わりにテレホンカードを財布に忍ばせていた時代です。
やがて、営業所内では数字による「暗号」が生まれ、緊急度や用件までベルひとつで伝わるようにもなりました。
その後、満を持して登場したのが携帯電話です。
あの「ポケベルから携帯電話へ」の劇的な移行は、現代のAI登場以上のインパクトを社会に与えたとトミセンスは感じています。
さて、ドラマに話を戻すと、裕木奈江さんの儚げな演技があまりに真に迫っていたこと、そしてストーリーが凄惨な「ドロドロ」展開だったことから、彼女は当時の世の中の女性たちを完全に敵に回してしまいました。
今でも懐メロ特集などで主題歌が流れてくると、私の脳裏には、ポケベルが鳴った瞬間のあの憂鬱と、裕木奈江さんの美しい涙がセットになって蘇るのです。
