早期退職、人材流出、色紙の悩み。だから私たちは「感謝の会」を開いた
会社で早期退職の募集が始まった。
将来の市場需要の縮小を見越してのことだ。
過去にも同様の募集はあったが、今回は対象年齢が「45歳以上」に引き下げられ、割増退職金も大幅に上乗せされていた。
結果、人事の予想を遥かに超える応募が殺到した。
あろうことか、次期エースと目されていた人物までその中に名を連ねていた。
「人事部、大丈夫か? 人が足りなくなるぞ!」
人材というのは、一度流出し始めると止まらない。「あのAさんが辞めるなら、俺も」といった連鎖的な動揺が広がっていったのだろう。
退職者のリストが正式に発表されると、トミセンスの部署ではなんと半数の社員が去ることが判明した。
職場には、去る人間も残る人間も、互いにどう接していいか分からない微妙な空気が漂っていた。
そんな中、上司から「トミセンス、送別会の段取りをしてくれ」と頼まれた。
だが、一部のメンバーからは「この状況で送別会をやる意味があるのか」と疑問の声が上がった。
いつもなら当たり前に回していた寄せ書きの色紙も、いざとなると何を書いていいのかさっぱり分からない。
悩みに悩んだ末、トミセンスは一つの答えを出した。
これは一方的な「送別会」ではなく、これまで共に働いてきた「お互いの感謝の会」にしよう、と。
形式張った居酒屋ではなく、営業所の会議室を使い、完全会費制でケータリングを駆使した手作りの場を作ることにした。
定型の色紙も廃止し、最後に一人ひとりが思い出を語り合い、何年後かに再会したとき「あの会は良かったね」と振り返られるような時間にしたい、そう全員に協力を呼びかけたのだ。
当日、蓋を開けてみれば、「形式的な送別会なら参加しなかった」と言っていたメンバーも含め、全員が参加してくれた。
去る者も残る者も関係なく、互いの労をねぎらい、思い出を語り合う。
みんなで一緒に仕事をしてきて、間違いなく一番眩しく、輝いたひと時となったのである。
AI導入、生産性向上等々、一方的な改革だけでなく、心の安全、平和は人が意識していかなければならないと感じた瞬間だった。
