封印された数百万。「開かずの金庫」に手形を捧げてしまった営業マンの悲劇
皆さんは、本物の「手形」を見たことがありますか? 今や商売の決済は振込が主流ですが、かつては毎月、月末になるとお客様の元へ集金に伺い、紙の手形(あるいは小切手)をもらってくるのが当たり前の光景でした。
私はお得意先が多かったため、月末ともなれば1日で8軒をハシゴして集金に奔走。最後にそれらを銀行へ持ち込んで、ようやく一ヶ月の業務が終了となります。 金券を扱うため、当時はどんな小さな営業所でも、不釣り合いなほど立派な「巨大金庫」が鎮座しているのが普通でした。
それは、ある年末のこと。 休みが早まる関係で「いつもより早めに集金に来てほしい」と依頼され、私は早朝から数百万円分もの手形を回収してきました。
一旦営業所に戻り、「まずは金庫に保管だ」と、重厚な扉を恐る恐る開けました。 無事に中に収め、いざダイヤルを回そうとしたその時。……あれ? ダイヤルが固くてびくともしません。 「おっかしいな、朝から冷え込んでるからか?」 私は満身の力を込めてダイヤルを捻りました。
「カタッ」
微かな手応えと共に、ダイヤルが数ミリ動きました。 「よし、これで安心だ」
ところが。出社した経理担当者が金庫の前に立つなり、悲鳴のような声を上げたのです。 「ちょっと! 誰か金庫のダイヤル触りました!?」 「あ、私です。集金した手形を入れましたよ」 「ダイヤル回したの!?」 「ええ、回しましたけど……」 「オーマイガー!!!」
衝撃の事実が判明しました。なんとその金庫、何年も前から「開けるための番号」が不明で、ダイヤルを固定して動かないように細工していたというのです。
さあ、大変です。中にあるのは、今日中に銀行へ持ち込まなければならない数百万円の手形。 担当者は右に左に必死でダイヤルを回しますが、扉はピクリとも動きません。 業を煮やした先輩が「バールでこじ開けるか」と物騒な提案をし始める始末。結局、専門の鍵業者を呼んで高額な費用をかけ、開けてもらうことになりました。
事務所一同からさんざん叱られた私ですが、心の底ではこう毒づいていました。 「中身を取り出せないなら、ただのバカでかい鉄の箱じゃねーか」
天に向かって唾を吐く、トミセンス。
