視界ゼロ、時速10キロの生還劇。猛吹雪の峠でわたしが「最後の手段」に出た日。
トミセンスは、心の底からビビっていた。
突然の猛吹雪。
雪国に暮らす人なら誰もが恐れる「ホワイトアウト」という現象だ。
イメージとしては、走行中のフロントガラスに、いきなり真っ白なシーツをバサッと掛けられるところを想像してほしい。
本当に何も見えなくなるのだ。これはある晴れた日でも、予告なしに突然やってくるから恐ろしい。
油断など絶対に許されない。
ある朝、天気予報で強烈な低気圧の接近を知ったわたしは、「今日は一歩も外出するのをやめよう」と心に決めていた。
しかし、そんな時に限って事件は起こる。
「120キロ離れた現場で、職人さんが滑落して救急車で運ばれた」と一報が入ったのだ。
外を見れば、当然のように電車は止まっている。
しかし、元請けとして、営業担当として、何としても現場へ急行し状況を確認せねばならない。
わたしは覚悟を決め、車のハンドルを強く握りしめた。
案の定、難所の峠にさしかかった頃、最悪の事態が現実となった。
本当に、前が何も見えないのだ。
かろうじて視界に映る、前走車のテールランプのかすかな赤い明りだけを命綱にして、必死にハンドルを操作する。
しかし吹雪は激しさを増し、ついにはその命綱のランプさえも、白い闇の中に消えてしまった。
「車を止めたい」
強烈な恐怖に駆られ、ブレーキを踏みそうになる。
だが、この視界ゼロの状態で停車すれば、後ろから来る後続車に追突される危険が大だった。
進むことも、止まることもできない地獄。
そこでわたしは、最後の手段に出た。
画面に映るカーナビの地図だけを凝視し、道路の曲がりくねりを先読みしながら、手探りでそろりそろりと進む戦略だ。
文字通り、ナビだけを頼りに目隠しで運転しているようなものだった。
心臓がバクバクと波打ち、命が縮むような時間がどれほど流れただろう。
ようやく峠を降り、視界が開けてきた。
「生きていて良かった」
その後、現場に到着すると、滑落した職人さんも幸いなことに軽傷で済んだことが分かり、二重の意味で救われた。
雪国の営業は、単なるビジネスではない。時に、牙をむく大自然そのものとの命がけの戦いなのである。
