国家資格よりマジックバー。サラリーマン社会を生き抜くための「非公認」サバイバル術
年初、営業所長が突然こう切り出した。
「みんな、今年は何か一つでも資格を取ろう」 所長の言葉は絶対だ。
皆、しぶしぶながらも仕事に役立ちそうな資格を選び、挑戦を始めた。
建築士、宅建、インテリアコーディネーター、電気工事士。
おそらく、こうした実用的な資格を目標にした人が大半だったと思う。
しかし、私は悟っていた。明確な目的を持たずに取る資格ほど、人生の役には立たないということを。 そこで私が選んだ道は。
「マジシャン」になること。 そう、手品を極めようと決めたのだ。
もちろん、手品に公的資格など存在しない。
だが、この特技は間違いなく私の人生に彩りを添えてくれると確信していた。
今でこそYouTubeで手軽に学べるが、当時は書店の実用書コーナーにある解説本を漁るしかなかった。しかし、本だけではどうにも物足りない。
そこで私は「マジックバー」に通い詰めた。間近でプロの技を見られる環境にどっぷりと浸かり、そのうちマジシャンとも仲良くなって、少しずつ手ほどきをしてもらえるまでになった。
ここで身につけた技術は、コミュニケーションの武器として大いに役立った。 小さなお子さんのいるご家族を接客する時、硬苦しい会議のアイスブレイク、合コンの場がしらけかけた時など、
まさに「芸は身を助ける」を実感する日々だった。
さて、運命の年末。所長が一人ひとりに資格取得の成果を確認し始めた。
ついに私の番が回ってきた。私は言葉の代わりに、その場で鮮やかに手品を披露した。
しばしの沈黙の後、所長はぽつりと呟いた。 「まあ、過酷なサラリーマン社会を生き抜くには、下手に宅建取るより役立つかもしれんな」
さすが所長、話がわかる。
「それより、お前のそのマジックで、今月の売上をパッと増やしてくれんか?」
