二日酔いで営業車に逃げ込んだ新人。1時間仮眠のはずが、起きたら「夜の9時」だった話
「トミセンス、悪いけれど、ポカリを買ってきてくれんか」
新入社員のころ、所長の目の前の席に座っていた私は、朝一番にこう声をかけられることがよくあった。
所長の顔は、誰が見ても明らかな二日酔い。
「バブル」と呼ばれたあの時代、飲み会は三次会、四次会まで続くのが当たり前で、翌朝は全員が「至極体調が悪い」状態で出社していた。
しかし、そこはさすが営業マン。這ってでも会社に行くという凄まじい気概があり、遅刻する者は一人もいなかった。
そんなある日、特に親しくしていた得意先の営業マンの送別会が開かれた。
30人ほどが集まった一次会から始まり、二次会は15人、そして最後の三次会は5人。
私は浴びるようにお酒を飲んだ。
寮に帰った記憶など完全に消え去り、ふと気がつくと、スーツを着たまま畳の上で目を覚ました。
「会社に行かなければ!」 着替える時間など一秒もない。
そのままの格好で慌ててバスに乗り込んだ。
ふと車窓のガラスに映った自分の姿は、髪も服もボサボサで、まるで「落ち武者」そのものだった。
なんとか営業所にたどり着いたものの、頭はガンガン響き、体は「今すぐに横になりたい」と悲鳴を上げている。
「このままでは仕事にならない。車の中で少しだけ目を閉じよう」
そう決心した私は、営業車に乗り込むと、会社のすぐ近くにある公園の駐車場に車を滑り込ませた。
リクライニングシートを限界まで倒し、顔にハンカチを載せて、泥のように眠りについた。
「よし、1時間くらい仮眠したな」 そう思ってハンカチを取り、目を開けた瞬間、全身の血の気が引いた。
車外の景色が、なぜか真っ暗闇だったのだ。
慌てて時計を見ると、針は「夜の9時」を指していた。
なんと私は、営業車の中で12時間も眠り続けていたのだ。
ポケベルには、会社や同僚からの着信が20件以上も残っていたが、
爆睡していた私は一切気づくことがなかった。
すでにオフィスは閉まり、今さら会社に戻るわけにもいかない。
「よし、今日はもう帰ろう」 そう自分に言い聞かせ、重い疲労と罪悪感を背負ったまま、再び帰りのバスに乗り込んだ。
夜のバスの窓に映る自分の顔は、朝の「落ち武者」を通り越して、もはや「死人」のようになっていた。
