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笑顔の呪縛。笑顔を叩き込まれたサムライが、謝罪現場で大炎上した話

「お前ら、笑顔が足らないぞ」
ある日突然、営業所長が言い放った。
連日の深夜残業でボロ雑巾のようになっている私たちは、心の中で「こんな過酷な状態で笑っていられるか!」と毒づいた。
しかし、所長はそれを見透かしたように、私に畳みかけた。
「トミセンス、特にお前のその仏頂面は、営業としてどうかと思うぞ」

そんなこんなで、唐突に「営業所マナー向上プロジェクト」なるものが立ち上がり、外部から講師を招いてマナー研修が実施されることになった。
講師は、現役のキャビンアテンダントを指導しているという、大手航空会社のベテラン女性。
しかも、研修期間はまさかの「二泊三日」である。

ただでさえ業務が山積みだというのに、3日間も前線を離れたらどうなるか。
「研修後に2日くらい徹夜しないと仕事が終わらないんじゃないか」
私は暗澹たる気持ちで、その地獄の研修へと足を踏み入れた。

だが、プロの洗脳(あえてそう呼ばせてほしい)は凄まじかった。

「はい、トミセンスさん! 口角をぐっと上げて、目尻を下げる! はい、
笑顔を作って!」 「その状態をキープ、キープ、キープ!」 「笑顔の価値は、何よりも勝るのです。
とにかく、どんな時でも笑顔です!」
「次は、隣の方と向かい合って、笑顔の応酬です! はい、笑顔!」

二泊三日、朝から晩まで「笑顔、笑顔、笑顔」の波状攻撃。
鏡に向かって四六時中口角を上げ続けた結果、研修が終わる頃には、私の顔面は完全に「笑顔の形状記憶合金」と化していた。

そして、この研修の効果は、皮肉にも絶大だった。
「おお、トミセンス、良い笑顔だな! 本当に生まれ変わったようだぞ!」 出社するなり、所長は大ご満悦である。 最初はあんなに否定的だった私も、四六時中ニコニコして生活していると、なんだか世界が輝いて見え、心まで前向きになってくるような気がしていた。

そんなある日、恐れていた事態が起きた。
製造上の重大な欠陥が発覚し、大規模なクレームが発生したのだ。
私は代理店の担当者とともに、激怒しているお客様の元へとへお詫びに向かうことになった。

一歩間違えれば取引停止。
極限の緊張感が漂う応接室。
「この度は、誠に申し訳ございませんでした!」 私は平身低頭、相手に対して最大限の謝罪の意を込め、深く深く頭を下げた。魂を込めて、申し訳なさを表現した、はずだった。

「トミセンスさん。あなた、謝っているつもりだろうけど……なんでそんなに、ニコニコしながら謝ってるの?」

「えっ?」

ハッと気づいた時には、すでに遅かった。
二泊三日で脳の髄まで叩き込まれた「いつでも笑顔」のプログラムが、極限の緊張状態でバグを起こし、自動発動していたのだ。
私の顔面は、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべていた。

激怒している相手の火に、特大のガソリンを注ぐ結果となったのは言うまでもない。
「ふざけているのか!」とお客様の逆鱗に触れ、結局、営業所長が改めて謝りに行くという大失態を演じてしまった。

翌年。
このマナー研修は「効果絶大(売上にも貢献)」ということで継続が決まった。
しかし、配られたテキストの目次を見た私は、思わず二度見した。

そこには、昨年までは影も形もなかった新しいカリキュラムが、不自然なほど太字で新設されていた。

【特別講座:相手にお詫びの気持ちを伝える(真顔の)ノウハウ】

あのカリキュラムを作らせたのは、間違いなく私の笑顔である。

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