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短期連載SF小説霞んだ境界(5)

 拓哉を乗せたパトカーは、すうっと開かれた地元警察署のゲートから、 地下へと入った。

 こんな入り口まであったのか~!拓哉には目にする何もかもが珍しい。 いつもは見慣れた地元警察署の建物が、新鮮な自分の知らない顔を見せてくれた。
 地下へと入るこんな仕掛けがあったっだなんて・・。

 クルマごと直に地下へと入ってしまえる出入り口。凄い!流石は警察署!!

「さあ、到着しましたよ、どうぞ」と、促されて拓哉と馴染みの客とが、 先ほど来、一緒に付いていてくれた捜査官に誘われ、今度はエレベーターに
乗せられた。
 またすうっと!上昇して行く圧がかかり、訳も分からぬまま拓哉たちは
またそこが、何階なのかさえ気付かぬうちに目的のフロアに着いた。

 今度は無言で先に立ち、エレベーターのドアを手で抑えていてくれた捜査官に加えてそこに、もう一人、捜査員が待機していた。
 自然拓哉たちは、その捜査員に導かれてそれぞれ別な部屋へと案内された。

「私は捜査員の月島と申します。この度はわざわざ、わたくしどもの捜査にご協力下さいましてありがとうございます」

 月島は、拓哉よりも少し年上に見える若い捜査員だった。

 話は極く身近な事から始まった。

「大学を終えられて、就職をなさらず進学ですか?大学院とはすごいですねえ!私もまだ警察に入って3年目の若造なんですよ。どうですか?あなたもいまからでも警察に来ませんか?そうしたらすぐに巡査部長ですよ!大学出はそっからスタートするんです。拝見していると、あなたもこう言う仕事に興味津々と言う感じすよね?きっと警察官に向いてますよ!」

「え!あ、はい・・。進学と言うかその・・。僕、大学の研究所に就職する事に決まっているんです。今日もついさっき、そのことで研究所に行っての帰りだったもので。お祝いに一杯飲んでいた所だったんです・・。」

「っへえ!研究所にご就職?と言う事は、何かご研究を続けると言う事ですか?凄いなあ!真面目でいらっしゃるんですねえ、わたくしなんか、学卒ですぐ警察に入りましたが、学部時代は遊んでばっかりで。そうですか~!
ご研究をねえ!何だかあなたみたいな人を見ると眩しいですね!」

 月島は、自分が学卒の巡査部長である事を明かし、拓哉には自分への親近感を持ってもらう心算だった。

 年代だっておんなじだし、話だってしやすい方が拓哉だって気が楽だろうし・・。

 月島巡査部長は彼なりに、捜査に協力を申し出てくれた拓哉には居心地よく過ごしてもらいたかった。
 容疑者を相手にするのとは全く違う安心感も手伝って、こうした月島本来の、拓哉に対する細やかな気遣いや、優しさが表われていたのだった。

「それで・・。」と、世間話も一区切りし、拓哉はここから事件に関する話の続きをぼつぼつと、話し始めた。

 月島は、途端に警察官の顔に戻って拓哉の言う話に、熱心に耳を傾けつつ
その証言を細かくメモに取り始めた。

「少し早すぎるかなアと思いましたがでも、今日はそう言う記念日みたいなものだから、簡単にお祝いをしても良いだろうって思って、それであすこの海鮮居酒屋でお酒を呑もうと思ったんです」

「なるほど、そうでしょうね。せっかくの、研究所に入った記念日ですもんねえ!はい。よく分かりますよ。それで、その居酒屋さんへ向かう途中は、商店街に何か、いつもと違う様なところはありませんでしたか?」

 月島が聞いた。

「はい。行く時は別に何も・・。普段の通りでした。しかもまだ商店街は、それぞれに皆、お店がお昼の支度で忙しくしている時間帯でしたから・・。こんな日だから、若し少しだけ贅沢をしてもバチは当たりませんからね。 それに、あすこの大将とはもう俺、学部からの馴染みで、凄く良い人ですし・・」

「そうだよねえ!実は、俺もあすこの海鮮居酒屋には何度か行ったことがあるんだよ!あ、いや!ごめん!
 私も、ね。あすこの海鮮居酒屋さんには何度か行ったことがありますよ。大将も、あのまんまの人だもんねえ!良い大将ですよねえ!」

 月島は、一瞬砕けた口調になりかけたが、拓哉との会話が思わぬ私語になるのを避けて、慌てて『私も』と口調を変え、言い直した。

 拓哉が一通り、その日見聞きしたあの、異様な出来事の成り行きを、月島に話し終えると、拓哉は平たい茶碗から冷めたお茶を一口飲んだ。
 月島がそこに大きな急須からさらに茶を注いだ。

「済みませんねえ!お茶しか出せなくて。こう言う場合、かつ丼は出ないんでそのつもりでね・・。あれはテレビだけのことなんで・・。あ!それでねえ!金魚が生首を食べたって言う証言があるんだけど、本当かなあ?切腹した人の頭部がねえ、どっからもまだ発見されないもんでね・・。」

 月島が冗談を交えながら、空中を飛んでいたと言う巨大な金魚と、それが食べてしまったのだと言う、死んだ侍の頭部についての他の目撃者からの情報を確認しようとした。

「そうです!本当ですよ!驚いたのなんの!大将から表の様子を見て来てくれって頼まれて、俺と別な常連さんが、二度目に様子を見に店から出て、初めに見たのはそれでしたから・・!だって、表に出た途端ですよ!大きい金魚の風船だろうとばかり思っていたあの金魚が、凄い素早さで泳いで来て、あの侍みたいな人の頭部を、パクッ!って食べたんです、そうです!そうです!金魚が食べちゃったんです!」

「それでさっき言っていたんだね?吐き気がしたって・・」

「はい!そうです」

「どおりで、頭が出て来ない訳だよ。その金魚って、かなりおおきなものなのかなあ?鑑識課でもいま、それを探しているから、その金魚を捕まえて、解剖して頭部を取り出さなきゃあいけないかなあ・・?その金魚なんだけどね、頭を食べてから、それを何度も咀嚼してましたか?」

「いえ、そんな様子は無かった気がしますよ。俺にはすぐに、飲み込んじゃったみたいに見えましたけど・・」

 「う~ん!」と言って、月島はしばらく考え込んだ。

 そして、古風な黒い電話機から受話器を取ると「あ!警部、月島です。
はい!頭部は矢張り、・・。はい!お願いします!」

「鑑識でも必死で探してたんだよねえ・・。そっか~あ、金魚が食べちまったかー!それでもう一つだけ!聞かせて欲しいんだ。その金魚ってかなり大きいのかなあ?例えばどれくらいあった?釣りじゃあ無いけど、何メーターとか、何十センチとかさ・・」

「そ~っすねえ!ん~!そう言われると難しいなあ!なにせ空中に浮かんで飛んでいるんだから・・。ざっと見た感じ、あのカニ道楽の模型がありますよねえ!」

「うん!」

「あの倍以上はある感じがしましたよ~お!」

 拓哉は自分の両腕を胸の前に大きく広げてその大きさを、感覚だけでも示したかったが、漠然とした事しか言えなかった。そして最後にこう言った。

「大きければ3ⅿ。小さく見てもその半分はあるんじゃあないかなあ・・?」

「ふうん・・。そんなにおっきい金魚ねえ。それなら今すぐにも通報が入りそうなもんだが、まったくその情報が無い・・。一体、どうなっちゃったんだろうねえ・・?」

「俺は、さっきも申し上げた様に、初めあの金魚をまさか本物と思ってはいなかったし、大方みんな、あれを見ても風船とかアドバルーンに間違えるんじゃあ、ありませんか?」

「なるほど、言われて見ればそうかも知れないね。君、勘が働くようだなあ。若しかして君、推理が得意って事無い?」

「え?推理っすかあ?無理ですよ~お。第一俺、勘だって悪いし・・」

 暫く二人がこんな事を言ってお茶を飲んでいると、慌てた様子の捜査官が、この部屋のドアーを勢いよく、音を立てて開いた。

「おい!行くぞっ!月島!それに君もだ!佐藤君!」

「あっはい?どうしたんですか、警部?」

 それには答えず警部と呼ばれた、先ほどパトカーの中からずっと付き添ってくれていた捜査官が続けた。

「特に佐藤拓也君には、これを示さなければいけないから、今ここで示して、俺がこいつを読むけれど、これは佐藤拓也君への、裁判所と検察庁、 そして警視総監からの令状だ。」

「えっ!れ・令状?ですか・・。」

 いきなり一体、何事が起こったのか分からない月島と拓哉とが、きょとんとして顔とを顔と見合わせた。 

 先の捜査官は二人に対し頷いて、拓哉に二つの令状を示しながらそれを厳めしい声で音読した。
 中味の分からない拓哉と月島へ警部はこう、付け加えた。

「裁判所からの令状は、佐藤君に捜査権を許可する旨のものだ。佐藤拓也君にはいま、特殊任務警察官としての捜査権限が付与された。
また、検察庁からのものも、同じ内容だ。」

「捜査権限は国民から負託されたものだが、それを両司法機関の長がこの場で国民に代わって佐藤拓也君に付与した。
 また、警視総監からの令状は、佐藤拓也君に対する命令だ。
 本日付けで、佐藤拓也君には警視庁特殊任務係長、並びに警視庁警部を命ず」

「どーゆ~う事ですか~あっ!」っと、思わぬ事に大きな叫びに近い声を上げて、拓哉が尋ねた。拓哉としてはこう聞かずにはいられない重大事だ。

「今読んだ通りさ。佐藤君は本日只今から、特殊任務係の係長だ。階級は 警部。分かったね?」

「でっ!でも、僕は今日、母校の研究所に入所があっ!」

「大学にも問い合わせた。研究所入所は確かに事実だが、飽くまでもそれは、まだ内定の段階だ。佐藤君の研究所入所については、大学当局が内定段階で暫時、留めて置いてくれるそうだよ。しつこい様だが、今から佐藤君には警視庁警部として特殊任務係の係長を務めて頂く。わかったら、さあ!行くぞ!佐藤君は、暫くは見習い警部でもある。捜査については、我々と一緒に行動しながら覚えて欲しい。あ、それからねえ、特殊任務係りはこの今川署内に置かれる事になったからね!」

「この今川署の中にですか警部!?それに、特殊任務係りって何ですか?」
 
 今度は月島が驚く番だった。

「それは、車の中で追々説明するから!とにかく出動命令だ!」

 拓哉は、今日の一連の出来事にも増して大きな衝撃と、この自分に降りかかって来た急な身分の異動によって足がもつれ、転びそうになったが、それを月島が慌てて支えてくれた。

「あっ、警部!しっかりっ!」

 月島巡査部長は、すでに拓哉を「警部」と言う肩書で呼んだ。


 (続く)


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