携帯電話を川に落としたよ 【アマノ文筆クラブ】
これは携帯電話を川に落とした男の悲しくも壮絶な物語(フィクション)である
「携帯電話を川に落としたよ!」
誰もいない川辺で俺は叫んだ
川で釣りをするために水没させてはいけないと防水ケースに入れていた
あの携帯電話には大切な連絡先がたくさん入っている
現金は持たない主義なので携帯電話が無ければパン一つ買えない
さらにマンションの玄関ドアも開かない
携帯電話の入ったケースはプカプカと浮かんで流れた
そして淀みに捉えられクルクルと回転を始めた
良かった
ただ服のまま川に入るのは躊躇われた
着替えを持ってないから濡らせば乾くまで裸でいなければならない
この真冬にそんな事をしたら凍えてしまう
急いで服を脱ぎ素早く携帯電話を回収しタオルで体を拭けばすぐに服を着る事が出来る
幸い辺りには誰もいない
俺は素早く服を脱ぎ全裸で川に入った
水の冷たさに心臓が止まりそうだ
急いで携帯電話のもとへ
体が近付いたからか流れが変わり携帯電話は俺の手をすり抜け流れに乗った
いけない!
この先には滝がある
俺は急いで携帯電話を追った
落差十メートルを越す大きな滝が有ることを知っていた
滝が迫る
手を伸ばし携帯電話を掴む
やった!
だが遅かった
俺は携帯電話を握ったまま滝にのまれた
真っ逆さまに滝壺へ
やっとの思いで浮かび上がった時、俺の手に携帯電話は無かった
落下の衝撃で放してしまったのだ
俺は辺りを見回した
五メートルほど先を流れてゆく携帯電話を見つけた
泳ぎはあまり得意ではない
と、言うより浮かんでいるのがやっとの状態だ
俺と携帯電話はその距離を保ったまま川を下っていった
だんだん川幅が広くなってきた
集落が見えてきた
携帯電話には近付けない
大きな橋が見えた
たくさんの車が走っている
そうしている間にビルが見えた
そこで俺は自分が裸である事を思い出した
服を脱いだあの場所からかなりの距離を流れた
どうしよう
また大きな橋が見える
そしてその先は海だ
携帯電話には少しだけ近付けていた
河口付近で携帯電話に手が届いた
携帯電話を掴み海へ出た
人目につかない場所で岸へと上がった
全裸で戻る訳にはいかない
警察へ電話して事情を説明し服を脱いだ場所へ連れて行ってもらおう
俺は携帯電話を取り出した
幸いな事に濡れてはいない
横のボタンを押すと待受画面になった
これで一安心だ
この時俺は携帯のバッテリー残量が1パーセントになっている事に気付いた
充電するのを忘れていた事を思い出す
ピー
携帯電話が断末魔の叫びを上げた
こちらの企画に参加させて頂きました。よろしくお願いします。
