もしも江戸時代にSDGsがあったら
「SDGs」。国連が掲げる「持続可能な開発目標」。
貧困や飢餓をなくし、地球環境を守り、誰もが平和に暮らせる世界を目指す、現代社会の大きな目標です。
もし「江戸時代にもSDGsがあった」と言われたら、驚くでしょうか。
実は、江戸時代の人々は意識せずとも、現代のSDGsに通じる素晴らしい知恵と工夫で、持続可能な社会を築き上げていたのです。
SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
2015年に国連で採択されたもので、2030年までに達成を目指す17の目標と、それらを具体化した169のターゲットから構成されています。
なぜこのような目標が生まれたのかというと、地球温暖化や貧困、紛争など、現代社会には様々な問題があり、このままでは地球が持たなくなってしまうという危機感があるからです。
地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓い、経済、社会、環境の三側面から、より良い世界を目指そうという、人類共通の羅針盤のようなものだと思えば分かりやすいでしょう。
では、このSDGsの視点から、江戸時代の暮らしを覗いてみましょう。驚くほど多くの共通点が見つかるはずです。
1. 貧困をなくそう
(No Poverty)
江戸時代にも貧しい人々はいました。しかし、彼らを完全に切り捨てることはありませんでした。
・五人組・十人組制度
地域の人々が互いに助け合う「惣百姓」という考え方がありました。村全体で貧しい家族を支えたり、飢饉の際には裕福な家が食料を分け与えたりと、お互い様という精神で助け合っていたのです。
・倹約令の奨励
幕府や藩は、贅沢を禁止して、質素倹約を奨励しました。これは、富が一部に集中しすぎないようにし、貧富の差が広がるのを抑えるための政策でもありました。
2. 飢餓をゼロに
(Zero Hunger)
食べ物を無駄にしない、そして安定して生産するための工夫がたくさんありました。
・循環型農業
江戸時代には化学肥料がありませんでした。代わりに、人や家畜の糞、草木灰などを肥料として利用する「下肥」などの有機肥料が発達しました。これによって、土の栄養分を保ちながら、持続的に作物を育てることができました。まさに自然の恵みを循環させていたのです。
・非常食の備蓄
飢饉はいつ起こるかわかりません。そのため、各藩や裕福な農家では、非常時に備えて米や乾物などを貯蔵する習慣がありました。これは、現代の防災意識にも通じる備えと言えるでしょう。
3. すべての人に健康と福祉を
(Good Health and Well-being)
現代のような医療制度はありませんでしたが、健康を保つための知恵がありました。
・和漢方医療の普及
病気になった時には、漢方薬や鍼、灸などが広く利用されていました。体質や症状に合わせて薬を調合し、病気の治療だけでなく、予防にも力を入れていました。
・公衆衛生の意識
江戸の町では、清潔を保つ工夫がなされていました。例えば、下水道が整備されたり、排泄物を定期的に回収して農地の肥料として再利用するシステムが確立されていたりしました。これは、当時の世界でも類を見ないほど衛生的だったと言われています。
4. 質の高い教育をみんなに
(Quality Education)
教育は一部の人だけのものではありませんでした。
・寺子屋の普及
武士や裕福な商人だけでなく、一般の庶民の子どもたちも「寺子屋」で読み書きそろばんを学ぶことができました。身分を問わず学べる環境があったため、当時の日本の識字率は世界でもトップクラスだったと言われています。
・藩校での専門教育
各藩には「藩校」があり、武士の子弟を中心に学問や武術、儒学などを教えていました。これは、社会を支える人材を育成するための大切な役割を果たしていました。
5. ジェンダー平等を実現しよう
(Gender Equality)
現代とは異なる形ですが、女性も社会の中で重要な役割を担っていました。
・多様な女性の働き方
女性は家事や育児だけでなく、農業や商業、手工業など、様々な分野で重要な働き手でした。特に農村では、男女が協力して田畑を耕し、家族の生活を支えていました。
・女性の教養
武家の女性には、家を守るための教養や礼儀作法が重んじられました。また、寺子屋では男女が一緒に学ぶ機会もあり、基本的な読み書きは多くの女性が身につけていました。
6. 安全な水とトイレを世界中に
(Clean Water and Sanitation)
清潔な水は生活の基本です。
・上水道の整備
江戸の町には、多摩川から水を引いてくる「玉川上水」などの上水道が整備されていました。これにより、人々は安全な水を生活用水として利用することができました。
・糞尿の肥料化
都市部で排出される糞尿は、汚物として捨てるのではなく、農村に運ばれて貴重な肥料として再利用されました。これは、都市の衛生を保ちつつ、農地の生産性を高めるという、見事な資源循環システムでした。
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
(Affordable and Clean Energy)
江戸時代には化石燃料という概念がありませんでした。
・再生可能エネルギーの活用
薪や炭は森から得られる、菜種油は植物から採れる、まさに再生可能なエネルギー源でした。人々は自然の恵みを無駄なく活用し、生活のエネルギーとしていました。
・人力・畜力
工場や機械を動かす現代とは異なり、主な動力は人力や、牛や馬などの畜力でした。これにより、二酸化炭素の排出を抑え、環境への負荷が非常に少なかったのです。
8. 働きがいも経済成長も
(Decent Work and Economic Growth)
職人の技が光る社会でした。
・職人の技術継承
伝統工芸や建築、様々な分野で、親方から弟子へと代々技術が受け継がれる「徒弟制度」がありました。これにより、高い技術が守られ、発展し、質の高い「ものづくり」が支えられていました。
・地域経済の発展
各地で独自の特産品が生まれ、宿場町や問屋街が栄えるなど、地域ごとに特色ある経済が発展していました。これは、地域活性化の模範とも言えるでしょう。
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
(Industry, Innovation and Infrastructure)
現代のような大規模な産業はありませんでしたが、基盤となる整備は着々と進んでいました。
・インフラ整備
物流や人の移動を円滑にするため、江戸と各地を結ぶ「五街道」や、道しるべとなる「一里塚」などが整備されました。これは、現代の交通インフラの礎とも言えるものです。
・伝統工芸の発展
陶磁器や染物、漆器など、日本の豊かな文化を支える伝統的な技術が発展し、世界にもその美しさが知られるようになりました。
10. 人や国の不平等をなくそう
(Reduced Inequalities)
身分制度はありましたが、それだけでは語れない側面もありました。
・身分を超えた活躍
武士、農民、職人、商人という身分制度はありましたが、商人の中には大金持ちになり、武士を助ける者もいました。また、学問や芸術の分野では、身分を超えて才能を評価されることもありました。
・相互扶助の精神
先に述べた五人組制度のように、地域社会の中では、困っている人を助けるという相互扶助の精神が強く根付いていました。
11. 住み続けられるまちづくりを
(Sustainable Cities and Communities)
江戸の町は、まさに持続可能な都市でした。
・コンパクトな都市構造
江戸の町は、職場と住居が近い「職住近接」の構造が一般的でした。多くの人が徒歩や船で移動し、エネルギー消費が少なかったのです。
・リサイクル社会
「もったいない」の精神が根付いていたため、物を捨てずに修理して長く使うことが当たり前でした。古着屋、古紙回収、下駄直しなど、物を再生させることを専門とする商売が数多く存在していました。
12. つくる責任 つかう責任
(Responsible Consumption and Production)
現代の私たちが最も学ぶべき点かもしれません。
・「もったいない」の精神
この言葉は、江戸時代から受け継がれてきた日本の美しい文化です。物を粗末にせず、使い切る、修理して使う、再利用するという考え方が日常生活に深く根付いていました。
・資源の循環
例えば、使った油は行灯の燃料に、灰は肥料に、というように、あらゆるものが次の用途に回され、徹底的に再利用されていました。ごみを減らし、資源を大切にする暮らしが実践されていたのです。
13. 気候変動に具体的な対策を
(Climate Action)
現代のような地球温暖化の概念はありませんでしたが、自然との調和を重んじました。
・自然との共生
江戸時代には、現代のような工場排煙や車の排ガスはありませんでした。人々は自然のサイクルの中で暮らし、太陽や風、水の力を借りて生活していました。化石燃料に依存しない暮らしが、結果として気候変動への対策にもなっていました。
14. 海の豊かさを守ろう
(Life Below Water)
海の恵みを未来へつなぐ知恵がありました。
・漁業資源の管理
地域によっては、魚の乱獲を防ぐために漁獲量を制限したり、特定の時期には漁を禁止したりするなど、自主的なルールを設けていました。これにより、海の資源が枯渇しないよう配慮していたのです。
15. 陸の豊かさも守ろう
(Life on Land)
森や山も大切な資源として守られていました。
・森林管理
家を建てる木材や燃料の薪など、木は生活に欠かせない資源でした。そのため、伐採するだけでなく、計画的に植林を行い、森を育てるという視点が重要視されていました。
・里山・里海の概念
人間が自然と適度に関わり、手入れをすることで、かえって豊かな生態系が維持される「里山」や「里海」のような環境が、日本各地に存在していました。
16. 平和と公正をすべての人に
(Peace, Justice and Strong Institutions)
約260年間、大きな内乱もなく平和が続きました。
・鎖国による平和の維持
徳川幕府は、対外的な争いを避けるために「鎖国」という政策をとりました。これにより、国内の安定と平和を長く保つことができました。
・町奉行・代官などによる統治
江戸の町では「町奉行」が、地方では「代官」が、法に基づいて公平な統治を行い、治安を維持していました。
17. パートナーシップで目標を達成しよう
(Partnerships for the Goals)
地域社会のつながりが非常に強固でした。
・地域コミュニティの連携
村や町内では、祭りや共同作業、困った時の助け合いなど、地域の人々が力を合わせて生活を支え合っていました。現代の地域活性化や防災のヒントにもなりますね。
・参勤交代による交流
大名が江戸と自領を行き来する「参勤交代」の制度は、全国の特産品や文化、情報が交流するきっかけにもなりました。これは、日本全体のネットワークを形成する役割も果たしたのです。
いかがでしたでしょうか。江戸時代の人々は、SDGsという言葉を知らなくても、その精神を暮らしの中に息づかせ、持続可能な社会を築き上げていました。彼らの知恵と工夫は、現代を生きる私たちに、多くの示唆を与えてくれます。
大量生産・大量消費の現代社会において、私たちは江戸時代の「もったいない」精神や、資源を循環させる知恵、そして自然との共生という考え方を、もう一度見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
江戸時代に学ぶことは、決して過去を懐かしむことだけではありません。むしろ、未来をより良くするために、古き良き日本の知恵を現代の課題に応用して、私たち自身の暮らしや社会のあり方を再構築していく大きな可能性を秘めていると私は考えます。
未来の世代に、より豊かな地球と社会を引き継ぐために、江戸の知恵を胸に、今日からできることを始めてみませんか。
ところで、江戸時代の頃の地球は「小氷期」と呼ばれるほど気温は低めだったそうです。
そもそも「地球温暖化」ではなかったようなのですが、まあ、そこは聞かなかったことに・・・。
・江戸に学ぶエコ生活術 単行本(ソフトカバー) – 2011/2/19
アズビー・ブラウン (著), 幾島 幸子 (翻訳)
CEメディアハウス (2011/2/19)
日本建築やデザインの美しさに魅了されたアメリカ人研究者が、新たに着目したのがサステナブルな社会を実現した江戸の暮らしです。
自給自足で生きる農民、究極のリサイクル社会を実現した町人、簡素な美を重んじた武士。彼らは私たちと同じように、エネルギーや資源などの問題を抱えていたはずなのに、その多くを克服し、活気ある社会を築き上げました。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
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すばる舎 (2024/11/8)
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本書ではそれに合わせ、小学生に大人気のイラストレーター・いとうみつる先生が描いた可愛いキャラ絵で、江戸時代のさまざまな文化・風俗、人々の暮らしぶり、当時世界最大の都市であった江戸の成り立ちなどをわかり易く解説。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
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