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ニューヨーク・シティ・セレナーデ- - 映画と音楽の遊悠エッセイ

ニューヨーク・シティ・セレナーデ
 原題:"Arthur's Theme " ("Best That You Can Do")
 主題歌:クリストファー・クロス
映画:ミスター・アーサー (Arthur)

Once in your life you find her
Someone that turns your heart around
And next thing you know
You're closin' down the town

 「人生で一度だけ出会うんだ。心を一変させるような女性に。
  気がつけばもう、街じゅうを一緒に歩き回ってる」

 この甘く、そしてどこか切ない歌い出しを耳にしたとき、あなたはどんな情景を思い浮かべるでしょうか。

 この珠玉の言葉たちは、1981年に全米を席巻して、翌年にはアカデミー歌曲賞までをも手中に収めた名曲、「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」の冒頭を飾る歌詞です。
 クリストファー・クロスの優しい歌声に乗って、バート・バカラック、キャロル・ベイヤー・セイガー、クリストファー・クロス、ピーター・アレンというそうそうたる顔ぶれが共同で紡ぎ出したメロディと歌詞は、発表から40年以上経った今もなお、私たちの心に深く響き続けています。

 この曲が主題歌として使われたのが、同じく1981年に公開された映画「ミスター・アーサー」です。

 ニューヨークに暮らす大富豪の御曹司でありながら、世間知らずで酒浸りという、まるで成長しきれないお坊ちゃま、アーサー・バック。彼が、真実の愛を見つけるまでのドタバタを描いたロマンティック・コメディです。
 主演はダドリー・ムーアとライザ・ミネリという、どちらかというと「愛すべき個性派」の二人。美男美女のしっとりとしたラブストーリーとは一線を画す、ユーモアと人間味とが溢れる作品に仕上がっています。


 ストーリーはこんな感じです。

 ニューヨークの大富豪の御曹司、アーサー・バック。生まれたときから欲しいものは何でも手に入ってきた彼にとって、人生とはまさに「退屈しのぎの高級バー」。朝から晩まで酒と気ままな遊びに明け暮れる毎日。政略結婚の婚約者スーザンという女性がいても、彼の心は、寂しさを抱えていたのです。

 そんなアーサーの人生に、ある日、突如として「万引き犯」という名の竜巻が吹き荒れます。父親へのプレゼントのネクタイを万引きして捕まった若い女性、リンダ・マロッラ。ウェイトレスのアルバイトをしながら女優を目指す、飾らない魅力と正直さを持った彼女に、アーサーはたちまち心を奪われます。

 「これはただの嵐じゃない、恋のハリケーンだ!」とばかりに、彼は猛アタックを開始。やがて二人は、ニューヨークの街を舞台に、恋という名のジェットコースターに乗って、めくるめく時間を過ごすことになります。
 しかし、世の中はそう甘くはありません。アーサーの両親は、リンダとの交際を断固として認めず、もし彼女と結婚するなら莫大な遺産は相続させないと通告します。
 財産かリンダか、アーサーは人生最大の二択問題に直面し苦悩します。


If you get caught
Between the moon and New York City
The best that you can do
Is fall in love

 「もし君が、月とニューヨークの間で迷ってしまったら
  君に出来る最善策は恋に落ちることだよ」

 ニューヨークという街は、私たちに多くの選択肢と可能性を与えてくれる場所です。
 摩天楼の輝きは夢を誘い、五番街のショーウィンドウは物欲を刺激し、セントラルパークの緑は心の安らぎをくれる。まるで、人生のあらゆる要素が凝縮された巨大なカプセルのようです。

 しかし、だからこそ、私たちはこの街で迷子になることもあります。
 選択肢が多すぎて、何を選べばいいのか分からなくなってしまう。都会の喧騒の中で、本当に大切なものを見失いそうになる。そんなとき、この歌は私たちにそっと語りかけてくれるのです。「そのとき君にできる最善のことは、恋に落ちることさ」と。

 そう、恋とはまさに、人生の迷路を照らす一筋の光なのかもしれません。
 愛する人がいれば、たとえどんなに高い壁にぶつかっても、どんなに深い谷底に落ちそうになっても、前に進む勇気が湧いてくる。お金では買えない価値が、そこには確かに存在するのです。

 アーサーもまた、リンダという存在を通して、本当の豊かさとは何かを知り、人生の意味を見つけていくのです。

 ダドリー・ムーア演じるアーサーは、決してヒーロー然としたハンサムな男性ではありません。どちらかといえば、ちょっと情けなくて、でもどこか憎めない、お茶目な中年男性です。ライザ・ミネリ演じるリンダも、華やかな女優志望でありながら、どこか素朴で人間らしい女性。この二人の組み合わせだからこそ、映画は単なるラブストーリーに留まらず、人生の機微や、真の幸福とは何かを、私たちに教えてくれます。

 「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」は、単なる映画の主題歌ではありません。
 それは、人生の岐路に立ち、何を信じて進めばいいのかわからなくなった私たちに、そっと寄り添ってくれる友のような歌です。

 月明かりの下、ニューヨークの街を二人で歩く。そんなロマンチックな情景を思い描きながら、私たちは人生における「本当に大切なもの」について、もう一度考えさせられるのではないでしょうか。

 もし今、あなたが何か大切な選択を迫られているとしたら。あるいは、都会の喧騒の中で、ふと立ち止まってしまったとしたら。目を閉じて、この曲のメロディに耳を傾けてみてください。きっと、あなたの中に眠る「恋に落ちる」という選択肢が、静かに光り出すことでしょう。

 夜は更けて、ニューヨークの摩天楼の灯りは、一つ、また一つと消えていきます。しかし、私たちの心の中には、この美しいセレナーデが、いつまでも優しく響き続けることでしょう。
 そして、また新しい朝が訪れたとき、私たちはきっと、昨日よりも少しだけ、自分に正直になれているはずです。

 さあ、あなたも一緒に、月とニューヨークの狭間で、恋に落ちてみませんか?
 その先に広がる世界は、きっと想像以上に素晴らしいものですよ。



・『ミスター・アーサー』(Arthur)
監督 スティーヴ・ゴードン
脚本 スティーヴ・ゴードン
製作 ロバート・グリーンハット
製作総指揮 チャールズ・H・ジョフィ
出演者 ダドリー・ムーア
ライザ・ミネリ
ジョン・ギールグッド
音楽 バート・バカラック
主題歌 クリストファー・クロス『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』
配給 ワーナー・ブラザース
公開 アメリカ1981年7月
・アカデミー賞では4部門でノミネートされ、助演男優賞と歌曲賞を受賞した。
・1988年に続編の『ミスター・アーサー2』が公開された。

・ダッドリー・ムーア
 イギリスの俳優、コメディアン、ミュージシャン
 主な映画出演
 ・1966  The Wrong Box
 ・1967  悪いことしましョ!
   Bedazzled
 ・1969  モンテカルロ・ラリー
   Monte Carlo or Bust!
 ・1969  リチャード・レスターの不思議な世界
   The Bed Sitting Room
 ・1972  不思議の国のアリス
   Alice's Adventure in Wonderland
 ・1979  テン
   10
 ・1981  ミスター・アーサー
   Arthur  ゴールデングローブ賞 受賞
 ・1982  オータム・ストーリー
   Six Weeks
 ・1988  ミスター・アーサー2
   Arthur 2

・ライザ・ミネリ
 アメリカの女優、歌手。
 主な映画出演
 ・1949  グッド・オールド・サマータイム
   In the Good Old Summertime
 ・1969  くちづけ
   The Sterile Cuckoo
 ・1970  愛しのジュニー・ムーン
   Tell Me That You Love Me, Junie Moon
 ・1972  キャバレー
   Cabaret
 ・1974  ザッツ・エンタテインメント
   That's Entertainment!
 ・1975  ラッキー・レディ
   Luckey Lady
 ・1977  ニューヨーク・ニューヨーク
   New York, New York
 ・1981  ミスター・アーサー
   Arthur
 ・1988  ミスター・アーサー2
   Arthur 2

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