リモート会議の背景が暴く「格差」 - - ITと技術のよもやまばなし
リモート会議の画面を見ると、いろいろな背景が存在します。
A氏の背景は、広々とした無垢材の壁と、差し込む柔らかい自然光。観葉植物の緑まで整っている。
B氏の背景は、画面いっぱいに寄寄(よせよせ)に撮った顔面と、すぐ後ろにある押し入れの襖。
リモート会議という技術は、距離の壁をあっさりと取り払ってくれました。
けれどもその代わりに、私たちが普段は隠していたはずの生活環境という「格差」を、遠慮なく画面の上に引っ張り出してしまうのです。
背景を「隠す」技術の歴史と、その裏側
そもそも、画面の背景を自由に変えたりぼかしたりする技術は、かつて映画撮影の専売特許でした。いわゆるクロマキー合成。スタジオに巨大な緑色の布を張り巡らせ、特定の色の領域をソフトウェアで認識して別の映像に差し替えるのです。
それが今や、普通のノートPCで、緑の布すらなしで実現できています。これ、実はものすごい技術の進化なのです。
技術的には「リアルタイム・セグメンテーション(領域分割)」と呼ばれる処理が行われています。画面の中に写っている物体を、AIが「人間」と「それ以外」とに一フレームごとに判別する。そして、人間以外の領域にだけぼかしをかけたり画像を重ねたりしているのです。
コロナ禍の初期を思い出してください。あの頃の背景ぼかしは、どこかギコちなかった。ちょっと首を傾けると耳がボカシの中に呑み込まれて消えたり、手元のお茶を飲もうとするとカップごと腕が透明化してホラー映画のようになっていたり。マシンのGPU(画像処理装置)が悲鳴を上げて、ファンが爆音で回り出すことも珍しくなかったはずです。
それを技術者たちは、アルゴリズムを限界まで軽量化しました。デバイスの進化と相まって、現在の滑らかな背景合成が生まれたのです。プライバシーを守るためのシールドとして、この技術は瞬く間に世界へ広がりました。
アナログな格差と、迷走するハックたち
技術がどれだけ進化しても、最後に立ちはだかるのは「物理の壁」です。
郊外の一戸建てで専用の書斎を持っている人は、背景をぼかす必要すら珍しいことでしょう。そのままの部屋を見せること自体が、一種の余裕として機能するからです。
一方で、都市部のワンルーム生活者はそうもいきません。同居人と同時に会議が始まれば、一人は風呂場前の廊下に机を出し、もう一人はベッドの上で壁に向かって座るハメになったりします。
ここで面白いのが、なんとかしてこの格差を埋めようとする人間の「ハック」と「迷走」です。
100円ショップで買ってきた緑の画用紙を背もたれに貼り付けて、自作のクロマキーを作ろうとした人がいました。会議の途中でテープが剥がれ、一瞬で「生活感あふれる万年床」が画面いっぱいに露出。その瞬間、会議室には何とも言えない沈黙が流れました。
あるいは、バーチャル背景の選択に迷い込む心理戦もあります。
あえて海外のリゾートビーチを設定する人は、部屋を隠したい度合いが高いのかもしれません。
デフォルトの無機質なオフィス画像を使う人は、堅実だがちょっとガードが硬いのかもしれません。
ぼかしの強度を最高に設定している人の背景で、時折なにか大きな影が横切ると、参加者は「今のは猫か? それとも同居人か?」と、本題そっちのけで画面の隅に集中してしまいます。
画面を隠そうと知恵を絞れば絞るほど、その泥臭い努力の痕跡から、かえって人間味が漏れ出てしまうのです。
画面の片隅に宿るもの
デジタル技術は、私たちの背景をきれいに切り取り、完璧な虚構を作り出す術を与えてくれました。しかし、GPUがどれほど高速に画素を書き換えても、カメラの前に座っているのは、生活と戦う泥臭い私たちなのです。
完璧に整えられたデザイナーズルームのような背景も素晴らしい。けれども、ふとした拍子にAIの境界線が破れて見えた、折りたたまれた洗濯物や、途中で乱入してきた猫のしっぽ。
そういうものに触れたとき、私たちはなぜか少しホッとしたりします。
リモート会議の画面に映る格差は、たしかに存在します。
でもそれは、格好悪いものでも、隠し通すべきものでもないのかもしれません。
【徒然メモ】リモート会議の背景が暴く「格差」
1. 物理環境・生活感の格差(アナログ格差)
(1)部屋の広さと間取り
A.都心狭小ワンルーム
(ベッドが映り込む/風呂場・トイレ前から参加)
vs
B.郊外・地方の広々一戸建て
(専用書斎・無垢材のデスク)。
(2)家族・生活音の介入
A.ワンルームでの同棲カップル同時会議の攻防、
ペットや子どもの突撃
vs
B.防音完備の静寂空間。
(3)インテリアと光
A.日当たりゼロの暗い部屋+蛍光灯(怪しい取調室風)
vs
B.自然光+おしゃれな観葉植物・デザイナーズ家具。
2. デジタル・IT環境の格差(エンジニア・技術的格差)
(1)マシンスペックによるバーチャル背景格差
A.スペック不足で「グリーンバックなしだと背景ボカシすらカクつく/グラボが悲鳴を上げてファンが爆音」
vs
B.GPU爆速マシンで高精細リアルタイム合成。
(2)回線速度とラグ
A.モバイルWi-Fiで背景の境界線が崩壊し「腕や耳が消えるホラー現象」
vs
B.10Gbps光回線+有線LANで寸分の狂いもない合成。
(3)カメラ・照明アセット格差
A.ノートPC内蔵カメラ下から見上げ
(顔が暗い・二重あご)
vs
B.一眼レフ+Elgatoなどのリングライト+ピンマイク完備
(YouTuber並みの高画質・高音質)。
3. ハック・工夫と迷走の格差(心理・努力格差)
(1)張りぼて・工夫の極み
A.画用紙やパーテーションで自作グリーンバック
vs
B.部屋が綺麗すぎて逆にバーチャル背景を使う必要がない人。
(2)バーチャル背景の選び方による心理戦
・無難な「オフィス風背景」
・自慢げな「ハワイやリゾート風背景」
・部屋を隠したい一心で選んだ「アニメ・ネタ系背景」の浮き加減。
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