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市川憂人『もつれ星は最果ての夢を見る』…紙魚の手帖vol.27(2026年2月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2

【編集部から:この記事は東京創元社の文芸誌〈紙魚の手帖〉vol.27(2026年2月号)掲載の記事を転載したものです】


 市川いちかわ憂人ゆうと『もつれ星は最果ての夢を見る』(PHP研究所 二〇〇〇円+税)は、「壮大」という言葉がふさわしい長編SFミステリ。

 西暦二一〇九年。プログラマーの夜河ヤガワ零司レイジは、制御AI『ディセンバー』を搭載した宇宙船で、地球から十光年離れた未開の星を目指していた。量子テレポーテーション通信により、遠い星と星の間でも交信ができるようになった時代。業界のトップランカーたちがしのぎを削る宇宙開発コンペに、格下の中小企業勤めの身ながら参加することになったのだ。

 地球に近い環境の惑星に着陸した夜河は、課題である水源の確保と生活可能な拠点の構築に取り掛かるべく調査を進めるが、思いも寄らない光景を目にする。見知らぬ宇宙船の近くで、宇宙服らしきものを身に付けた人間が倒れている。どうやら背中を銃で撃たれたらしいが、周辺に凶器も犯人らしきひと影もない。いったいこの人物は、なぜここで殺されたのか。殺人犯は何者で、どうして殺すに至ったのか。非常事態に直面した夜河だったが、コンペの運営本部との通信がつながらず、さらなるピンチが降り掛かる……。

 惑星規模のクローズドサークルミステリ&緊迫のサバイバル劇は、さらにコンペの参加者たちがつぎつぎと命を落とす連続殺人事件に発展していくのだが、中盤で思わず息を吞むとんでもない事態が発生し、度肝を抜かれた。SFならではのスケール感もさることながら、無数の伏線を駆使した極上の本格ミステリ&予断を許さないスペクタクルとしても圧巻。そのうえで、人間とAIの在り方、望みを失わずに苦難に立ち向かう人類の強さが示され、読み終えてページを閉じても熱く胸に残る。SF要素がミステリのための材料に留まっていない点も素晴らしく、SF小説・本格ミステリ、どちらのつもりで読んでも高い評価は揺るがないだろう。二〇二六年、作家生活十周年を迎える著者の充実ぶりを改めて感じさせる、新たな代表作といっても過言ではない見事な出来栄えだ。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。