かわいい子が空から降ってくる
不思議な声を聞いたことがある。
あれは、息子が生まれる前。
寝ているときに、左耳のすぐそばで小学生くらいの男の子の笑い声が聞こえた。
もう一人男の子がいてふたりで遊んでいるような声だった。
きゃははは!とか、日曜日の朝のテレビの戦隊ものごっこをするような声。
すっごく元気な。
そんな楽しそうな声が聞こえた後、
「一緒に遊んでね!」と言って、なにかがズバッと左耳に入ってきたような感じがして、びっくりして飛び起きた。
次の月、妊娠していることが分かった。
わたしは、あの声の子だ!と思った。
そうして、息子が生まれて今6歳になった。
あのときの声は息子だったのか聞いてみると、
「え?分かんない」と言った。
そんな夢のないこと言わないでよ。
ほら、生まれる前の記憶とか、空の上からママを見て…とかあるじゃない。
あれないの?
3歳くらいまでが聞き時っていうから、遅かったのかな。
でも、言葉が出るのが遅かったから、どっちにしろ聞けなかったな。
なので、勝手に想像してみることにした。
☆
ここは雲の上。
ふわふわもこもこ、パステルカラーの世界。
これから地上へ生まれていく子どもたちが、生まれ先を探している。
大きなタブレットの画面をタップして、就職活動の求人票を開くように生まれ先を探す。
Aくん(見た目は中学生)は、気になる夫婦をみつけた。
他の赤ちゃん募集票には「男の子も女の子も歓迎!」とか「どんな子も歓迎!」とあるのに、これには「求む、孫!」と書いてある。
どういうこと?
“詳細”をタップする。
募集を出している夫婦の紹介動画があった。
夫の方がしゃべっている。
「孫を見たら親父が元気になるかもしれない」
この人のお父さんが病気で、もうだいぶ悪いらしい。
初孫を見せて奇跡的な回復が起こらないかと考えているようだ。
だけど、この動画はすでに昔のことみたいだ。
最近のは…
今度は妻の方がしゃべっている。
「お義母さんの部屋見た?自分でプリントアウトしたお義父さんの写真がめっちゃ貼ってあった…」
さっきのお父さんが亡くなって、お母さんの悲しみを埋めるには孫しかないと考えているようだ。
いつの間にか仲良しのBくんが、横からタブレットを覗いている。
「この夫婦わるい人じゃないのかも、とか思った?いやいや、よーく考えた方がいいぞ」
そう言って、“夫・性格”をタップする。
・ポテチを食べたあと、こたつ布団で手を拭く
・ロードバイクや車やプラモデルにキャンプ、趣味が多く散財しがち
「な?危険じゃない?経済力」
う~ん、たしかに。
Bくんは“妻・性格”もタップして見せる。
・夫婦で買い物に行って、夫の持つ買い物かごと間違えて、知らない人のかごに商品を入れて驚かせた
・夫が失業したとき、「ここからが力の見せ所!おもしろくなってきたね!」と言ったり、楽観的であまり将来のことを考えていない
Bくんはこの妻の弟夫婦の方がいいなと思っていて、関連でこの募集票を見ていたらしい。
「どっちかがしっかり者ならまだしも、どっちもダメだろ?」
たしかに。
でも、ちょっとおもしろそうじゃない?
Aくんは、“夫婦の出会い”をタップした。
写真のスライドショーと一緒に、ナレーションが流れる。
『二人の出会いは、とあるカフェで開催された婚活パーティ。
会場にはトイレがひとつしかなかった。
友達の付き添いで来た男は、トイレの前でトイレが空くのを待っていた。
そこへ、緊張した様子の女がやってくる。
トイレに人が入っているのに気づかずドアを開けそうになる。
ハッと気づいて、恥ずかしそうにしていると、男と目が合う。
“入れませんでしたね”、男が声をかけた。
“入れませんでした”、女が答えた。
微笑みあった二人は、平和な空気に包まれた』
Aくんは、フッと笑った。
「ぼくここにしようかな。平和が一番じゃん」
「A、正気か?!」
「それに、Bは弟夫婦のとこ行くんでしょ?そしたら、ぼくたち従弟だね!」
「A待て!待てって!」
生まれ先が心に決まると、魂が急速に地上へ吸い寄せられていく。
スカイダイビングでパラシュートを開く前の勢いだ。
AくんもBくんも風と一緒に落ちていく。
「もうどうなっても知らねーぞ!」
「え?なんだって?」
笑うしかないBくん、Aが行くならと弟夫婦に心が決まる。
Aくんはワクワクがとまらない。
あははははは!!
ふたりの笑い声が、わたしの左耳に届いた。
「一緒に遊んでね!」
そう言って、ママのお腹の中へ到着した。
☆
実際に聞いた声と年齢が違うけど、こんな感じかな?
息子は、塩加減に文句を言いながら、海苔を巻いたおにぎりをモリモリと食べる。
こんなにかわいい子が来てくれるなんて、わたしたち夫婦はどんだけラッキーなんだ。
そして、ばぁばとも仲良しになってくれた。
本当は、
どうやってやって来たかより、どんな子なのか知っていくのがおもしろいし、楽しみだ。
夕ご飯のあとは、また家族3人ですごろくをしようか。
こちらこそ、
「一緒に遊んでね!」
おわり。
