古今東西(片想い文芸部8/4お題)
偶然って、あるのだと思った。
「片口鰯せんべい!」
そう叫んだ瞬間、確かに誰かとラップした。
え、まさか、嘘だろ?
土産物で、そんなシブいおやつを選ぶくらいなのは俺くらいだと思っていたのに。
目の前の子が、気まずそうに目を逸らしていた。
「おーい、徳高。お前もちろん暇だよな。今日欠員が出たんだ。付き合え」
職場の5つ上の先輩、古西さんの指名はいつも唐突だ。俺は陰キャの暇人として『確実なコンパ補欠要員』と見なされていた。
「え、なんのはなしですか?今日はこれから帰って道玄坂45の緊急生配信が…」
「お前なぁ、届かないアイドルより届く天使だ。今日こそ射止めろ。な!」
古西さんは笑いながら肩を叩くが、俺がそんなことを実現できるとは微塵も思っていないだろう。それでもしっかり会費は回収される。
ミート&グリートのチャンスを1回逃すだけの費用を召し上げられる。きつい。
行っても俺は引き立て役。
幹事である古西さんの何の話かわからない小話を全力で盛り上げ、あとは適当に相槌を打つだけの場。
一体、俺は何をしているんだろうか?
そんな思いで会場の居酒屋に着き、促されるまま席につくと、俺は目の前の女性に目を奪われた。
完全にタイプだ。
いかんいかん、俺は補欠だ。
引き立て役が邪魔をしてはいけない。
5対5の中で女性陣と目線が合わないように、ただただお通しとビールを行ったり来たりするのであった。
今日の古西さんの小話はいつもにも増して難解だった。どうやらお気に入りに振り向いてもらうために冒険したようだ。
完全に場がシラケている。ど、どうしよう。そんな状況で咄嗟に思いついたのが、古今東西だった。
「…そんな話からの、古今東西ぃ!!全員でお題を出して、もし男女1人ずつ揃ったら連絡先交換!1人1問で全10問!いかがですか?ね?」
「い、いいんじゃない、やろやろ!」
慌てた5つ上の先輩、舞斗さんが乗ってくれた。
古今東西は始まったものの、シラケた女性陣は明らかに外しにかかっている。9題目までひと組も合わないまま、最後に俺の番になってしまった。
こうなったらヤケクソだ。
「好きなお土産!」
パンパン
「片口鰯せんべい!」
え?
誰かと合った。合うはずのない、俺のお気に入りのマニアックな一品なのに。
誰だ?
目の前の彼女が、恥ずかしそうな顔をしている。
場は妙な空気に包まれた。
「は、はいー。藤吉さんと徳高!連絡先交換ですー」
舞斗さんが仕切ってくれた。
古西さんの視線が痛い。今日のターゲットは藤吉さんだったようだ。
俺は言葉が出なかった。
目の前の藤吉さんが恥ずかしそうにQRコードを差し出す。俺はそれを読み取ってこう言うしかなかった。
「あ、ありがとうございます…」
藤吉さんは、恥ずかしそうに首を縦に振るだけだった。
コンパが終わって解散後、帰りの内なる興奮の冷めやらぬ俺は早速藤吉さんにお礼のメッセージを送った。
『今日はありがとうございました。まさか片口鰯せんべいがお好きだとは思いませんでした。よろしければ今度お茶でも一緒しませんか?』
帰りの駅まで既読はつかず、鞄にしまったスマホに通知のきたのは、アパートの部屋の鍵を開けた時だった。
慌てて鞄からスマホを取り出し、メッセージを読んだ。
『今日はありがとうございました。片口鰯せんべいは私の地元のお土産なんです。
ところで、非常に申し上げにくいのですが、私にはお付き合いしている人がおり、数合わせで参加させていただいていました。ごめんなさい。
重ねての失礼は承知していますが、この連絡先もブロックさせていただきます』
あまりの内容に、俺はスマホを足の指に落とし、いろんな意味で悶絶するのだった。
ようやく拾い上げたスマホのディスプレイは割れ、程なく画面が完全に消えた。最後に映っていたのはメッセンジャーの「退室」と「ブロック」の文字だった。
画面が消えて映る自分の情けない顔に、ようやく冷静さを取り戻した俺は、苦笑いするしかなかった。
「そうだ、俺も数合わせだった」
(了)
※ナルさん、
これで満足でしょ!そろそろ変化球も考えます。
※コニシさん、
ネタに使って申し訳ありません。
