天国に旅立った先輩の愛した、角煮入りのスープカレー
2021年、夏。
お世話になった大先輩が、天へ旅立った。
定年間近だったのに。
娘さん、まだ小学生なのに。
亡くなる3日前にはすれ違って、挨拶したのに。
そんな大先輩の愛した味が、僕の地元にある。
入社して配属された職場には、ふたりの鬼がいると聞いていた。
仕事のことになると熱くなり顔が真っ赤になる『赤鬼』。同期でコワモテの『青鬼』。
特に、青鬼さんには評価を中心にいろいろお世話になった。
怒らせると「成敗だ!」と教育的指導(非暴力)を受けたが、実験区での評価中に「休憩」と称して自販機コーナーで昔話をよくしてくれた。
「親の死に目に会えると思うな!と上司によく言われた」
「タバコで図面を焦がして慌てた」
「若い頃は車の車検を通したことがない(ほど買い替えていた)」
「冬期試験終わりにスキーに通った」 などなど。
そんなある日、青鬼さんから1通のメールが着た。評価品の不備か?と焦ったが、どうやらそうではない。
「1週間ほど札幌で実地評価をすることになった。せっかくだから流行りのスープカレーのうまい店を教えてくれ」
当時未婚の僕は、連休の度に札幌に帰っては小学校の同級生のアテンドでスープカレー屋巡りをするのが楽しみだった。
札幌だけでも隅から隅までお店があり、スープ、具材、調理方法、ご飯の量(大盛りを超える「キンタマーニ」まであった!)でしのぎを削る名店20件以上は回っただろうか。
その中で札幌駅から公共交通機関で行ける範囲。
悩んだ僕の出した結論は、「GARAKU」だった。
すすきのに本店を構え、行くと必ず行列ができている。
今は北海道各地や東京方面にもあるが、僕が行くにも本店が一番行きやすいかもしれない。
和風だしのスープもさることながら、ここの名物はトッピングの「角煮」だ。
ホロホロ。
この例えの難しい擬態語を完璧にマッチさせる食感を持つ角煮は、GARAKUでしか味わえない。
豚バラを丁寧に長時間煮込まないと出てこないであろう、絶品である。
青鬼さんに、GARAKUを紹介した。
出張から戻った青鬼さんに感想を聞くと、満面の笑みを浮かべて衝撃の答えが返ってきた。
「あまりにうまくて、1週間に3回も通っちゃったよ!」
スープカレーは普通のカレーと違い、大きなゴロゴロの肉や野菜が入っており、ご飯並盛でも簡単に満腹になる上、10年前のデフレ下で1000円を超えるそれなりの「ごちそう」だった。
聞くと、札幌駅の「エスタ地下街」で安売りしているカニとスープカレーを交互に堪能していたようだ。
そこまでお気に召すとは。恐るべしGARAKU。
それからも、ことあるごとに「あのスープカレーはうまかった」とよく声をかけてもらった。
情報提供しただけなのに、地元の味を褒めてもらえることは自分ごとのように嬉しかった。
しばらくして、工場に異動した青鬼さんの具合がよくないことを知った。
ガンが見つかった。
膝の調子が悪い。
胸に水が溜まる。
それを入院手術しては、生還してきた。
青鬼の名前は伊達じゃない、と思っていた。
たまに本社に顔を見せ、すれ違う度に「体調には気をつけろよ」と声をかけてもらっていた。
それなのに。
週末の朝、家庭菜園で心臓発作を起こし、そのまま帰らぬ人になった。
訃報を知ったときは、ショックだった。
コロナ禍が終息しつつあり、最後のお別れに行くか悩んだが、当時すでにメンタルをやられつつあった僕は二の足を踏んだ。
結局、不義理をした。
同期の赤鬼さんは失意もあったのか体調を崩し、定年を待たず会社を去っていった。
思うところがあったのだろう。
青鬼さんが亡くなってからというもの。
コロナ禍と僕のメンタル不調が立て続けに起こり、スープカレーはおろか、まともにゆっくりした帰省ができていない。
あの、「ホロホロの角煮」もしばらく堪能できていない。
スープカレーが、札幌が、恋しい。
いつか再びあの角煮を頬張るとき、青鬼さんの決めゼリフが頭をよぎるのだろうか?
「成敗だ!」
