唐揚げへの片想い
「片栗粉がベストよ!」
「いやぁ、たまには醤油漬けの唐揚げが食べたいな」
「作るのは誰だと思ってるのよ」
「…ぜ、ぜひ竜田揚げでお願いします」
俺、ナルは海月との同棲を始めて3ヶ月が経つ。付き合い始めた当初から趣味や好み、生活スタイルなどバッチリ合っていて、理想の相手を見つけたと思っていた。
それだけに同棲もすんなり決まったのだが、判明したのがこの問題だ。
「鶏肉の揚げ物は竜田揚げ一択。それ以外は邪道」
まさかの海月の拘りに、俺はあ然とした。
遠く離れた俺の実家では鶏と言えば醤油漬けにした唐揚げが定番で、俺の大好物だ。
しかし、俺の料理の腕は母さんや妹の久美までさじを投げるほどの不器用ぶりなので、ここでは海月に従うしかない。
確かに、海月の竜田揚げはうまい。
その辺の定食屋に負けない味だ。
でも違うんだ。
あの衣にまとった醤油のコクが俺を頬を落とすんだ。
そんな俺は、あるときとある作戦を実行した。
献立が竜田揚げの前日に、片栗粉を隠したのだ。
スーパーへは自転車でも15分はかかる。
そんな手間をかけてでも、竜田揚げを作ろうとはしないはずだ。
今日はきっと唐揚げが食べられる。
足取り軽く、俺はアパートへの家路を急いだ。
「ただいま~」
「おかえりなさい、ナル」
部屋に入った途端、想定外の酢の匂いが俺の鼻を刺激した。なぜ?どうして?
「ちょっと聞いてよ!私ったら竜田揚げしようとしたのに片栗粉買い忘れちゃって!本当、なんのはなし?って感じよね。仕方ないから買ってあったポン酢で鶏のさっぱり煮にしちゃったわ。ポン酢があってよかったぁ」
いや、なんのはなしですかはこっちのセリフだ。
竜田揚げ準備して片栗粉がなかったら、当然唐揚げでしょ?何でさっぱり煮!?
完全に唐揚げの口で帰ってきた俺は動揺を隠すように笑いながら言った。
「災難だったけど、さすがの機転だね!海月」
夢にまで見ている『海月特製鶏の唐揚げ』を味わうのは当分先のようだ。とほほ。
(了)
路地裏でナルさんの企画に応募します。
これで文句ないでしょ(笑)
