僕が自分の声を愛せるようになるまで
初めて歌を歌ったのは12歳の頃。
兄のバンドのボーカルが直前に逃げ出し、急きょ小学生だった僕が舞台に立つことになった。
緊張もしたし、シャイだったので恥ずかしかった。
でも──褒められるのは嫌いじゃなかったし、バンドの真ん中に立つのも気持ちよかった。
初めて自分の何かに自信を持てた瞬間だった。
14歳の秋、文化祭の出し物でアカペラを歌った。
変声期のこともあり、録音で初めて聴いた自分の声にショックを受けた。
大好きだった音楽の授業でさえ、歌うのが恥ずかしくなってしまった。
15歳の時、母に連れられて声楽のレッスンへ。
初めてのレッスンは新鮮で楽しかった。
そして何より、レッスン後に聴いた録音に衝撃を受けた。
「この声なら歌ってもいいかもしれない」──そう思えた。
僕はクラシックが好きなわけでも、オペラが好きなわけでもない。
人前で演じたり表現するのはむしろ苦手だ。
それでも声楽を15年以上続けてきたのは、唯一「自分の声を愛せるかもしれない」と思えたジャンルだったからだ。
とはいえ、オペラを続ける中で自分の声が嫌いになる瞬間は何度もあった。
録音を聞き返すのは、僕にとって苦悩の時間だった。
ところが最近、僕はリハーサルの後に自分の声を聴くのが楽しみになった。
今の先生に出会ったのは2年前。
習ったのはほんの1年ほどだけれど、大きなブレイクスルーを迎えたのはこのレッスンの中だ。
先生はいつも言う。
「これは僕のメソッドじゃない。自然のことわりなんだ。君がそれに抗うことをやめただけなんだよ」
確かに、僕は先生のレッスンで「こんな声を出そう」などとは考えない。
ただ響きと音楽に導かれるままに声を出す。
そして不思議と、何の抵抗もなくその声を受け入れられる。
先生の話はとても長い。
エクササイズも多く、曲を歌うのはせいぜい10分。
それでも僕は、こっそり録音ボタンを押して
カバンに携帯をしまってからレッスン室に向かう。
1ページ分の歌声をトリミングして、大切に何度も聴き返す。
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