気づきメモがつないだもの~短編小説~
🌿 **短編小説
『気づきメモがつないだもの』
整体の帰り道、
彼女はポケットに入れていた“気づきメモ”を落とした。
「首の奥がふっと緩んだ」
「左の股関節が温かい」
「呼吸が深くなった気がする」
ほんの数行のメモ。
でも、彼女にとっては大切な“今日の半歩”だった。
家に着いて気づいたとき、
胸の奥がざわついた。
「せっかくの気づきだったのに…」
でも、深呼吸をしてみると、
身体のどこかが静かに言った。
――大丈夫。覚えてるよ。
その言葉に、彼女は少しだけ安心した。
***
そのメモを拾ったのは、
近くの公園を掃除していた60代の男性だった。
風に揺れる紙切れを拾い上げ、
何気なく目を通した。
「首の奥がふっと緩んだ」
「左の股関節が温かい」
「呼吸が深くなった気がする」
男性は思わず立ち止まった。
最近、妻を亡くした。
胸の奥がずっと重く、
深呼吸をすると涙が出そうになる日が続いていた。
でも、このメモを読んだ瞬間、
胸の奥がふっと揺れた。
――誰かも、こんなふうに
小さな変化を大事にしているんだな。
その気づきが、
彼の心の奥に静かに灯りをともした。
「…よし、今日は少し歩いてみるか」
彼はメモをポケットに入れ、
ゆっくりと歩き出した。
歩幅は小さい。
でも、確かに“前に進んでいた”。
***
その日の夕方。
彼はメモをそっとベンチに置いた。
「誰かの役に立つかもしれない」
そう思ったからだ。
風が吹き、
メモはまたどこかへ旅立っていった。
***
一方、メモを落とした彼女は、
その日の夜、日記にこう書いた。
---
📖〈今日の日記〉
メモを落とした。
でも、身体が覚えていた。
気づきは、紙じゃなくて、私の中に残っていた。
明日も半歩でいい。
半歩なら、きっと進める。
---
彼女は知らない。
そのメモが、
誰かの心をそっと動かし、
また別の誰かへ渡っていくことを。
でも、それでいい。
気づきは、
いつだって誰かの心に届くから。
~完~
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