『気づく人』~短編小説~
🌿 短編小説
『気づく人』
首の痛みは、いつからだったか覚えていない。
左肩に広がり、股関節に響き、足のしびれへとつながっていった。
彼女は、痛みと共に暮らしていた。
変形性股関節症。
診断されたとき、
「そうか、やっぱりか」と思った。
でも、それでも動かなきゃいけない。
4歳の男の子が、彼女を待っているから。
***
彼女は、英語の家庭教師をしている。
育児の合間に、静かに教える。
言葉の響きに耳を澄ませるように、
生徒の表情を見ながら、
その日の“心の調子”を感じ取る。
彼女は、そういう人だった。
“気づく人”。
***
大型犬を3匹飼っていた。
彼女の心を支えてくれていた存在。
でも、去年、みんな他界した。
その喪失は、
身体の痛みよりも深かった。
でも、ようやく――
彼女は整体に来ることができた。
「今年は、自分の身体をちゃんと見てあげたいんです」
その言葉に、
彼女の“半歩”が詰まっていた。
***
施術中、彼女は静かだった。
でも、僕の顔色を見て、
「先生、少し疲れてませんか?」と声をかけてくれた。
僕が入院前に病んでいた頃。
誰にも言っていなかったのに、
彼女は気づいていた。
“気づく人”は、
自分の痛みにも、
他人の痛みにも、
静かに触れることができる。
***
首の奥の小さな筋肉が、
少しだけ緩んだとき、
彼女はふっと目を開けて言った。
「今、ここ、緩みましたよね?」
僕は驚いた。
その感覚は、
僕の手の中でしかわからないはずなのに。
でも、彼女は感じていた。
身体の奥で、
小さな変化が起きたことを。
***
帰り際、彼女は笑顔で言った。
「また来ますね。
今日、身体が“動きたい”って言ってる気がするんです」
その言葉に、
僕は静かにうなずいた。
行動活性療法。
“やる気”を待たず、
“動きたい”という身体の声に耳を澄ませること。
彼女は、
その一歩を踏み出していた。
***
その夜、彼女は日記を書いた。
---
📖〈今日の日記〉
首の奥が、少しだけ緩んだ。
先生の手が、静かに触れてくれた。
その瞬間、
身体が「ありがとう」と言った気がした。
痛みはまだある。
でも、
“動きたい”という感覚が戻ってきた。
私は、
気づける人でいたい。
自分の身体にも、
誰かの心にも。
---
彼女の物語は、
まだ始まったばかり。
でも、
その“始まり”は、
確かにTokidoki整体の空間の中で生まれた。
~完~
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