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【世界のオンチェーンプロジェクト File.011】Project Acacia

トークン化市場には、どの種類のマネーが必要か

CBDC、トークン化預金、ステーブルコイン—「全部必要」なのか

最終更新:2026年8月

これまで見てきたオンチェーン金融プロジェクトでは、決済に使うマネーがそれぞれ異なっていました。

Project Agoráは商業銀行預金と中央銀行準備。mBridgeはホールセールCBDC。EnsembleTXはトークン化預金と既存RTGS。Pontesは中央銀行マネーへの接続。BLOOMはトークン化銀行負債と規制ステーブルコインを対象にしています。

では、トークン化された金融市場にとって、最も適したマネーはどれなのでしょうか。

オーストラリア準備銀行、RBAとDigital Finance Cooperative Research Centreが実施したProject Acaciaは、この問いを正面から検証したプロジェクトです。

2026年5月に公表された最終報告では、20のホールセール市場ユースケースについて、従来の中央銀行口座残高、パイロットwCBDC、トークン化商業銀行預金、ステーブルコインという複数の決済マネーを使い分けて検証しました。RBAはさらに、パブリックDLTとプライベートDLTの双方にパイロットwCBDCを発行しています。

Project Card

主体: Reserve Bank of Australia/DFCRC
対象: オーストラリアのホールセール・トークン化市場
検証: 20ユースケース
決済マネー: ESA残高、wCBDC、トークン化預金、ステーブルコイン
到達点: 最終報告公表済み。商用市場への移行を支える次期施策へ移行。


Acaciaが面白い理由

多くのCBDC実証は、

「CBDCを発行できるか」

を検証します。

Acaciaの問いは少し違います。

「本当にCBDCでなければならないのか」

です。

トークン化債券を決済する。トークン化担保を移動する。レポを自動化する。ファンドを即時償還する。

これらを実現するために、必ず中央銀行マネー自体をDLTへ載せなければならないとは限りません。

既存のRBA Exchange Settlement Account、ESAを外部DLTと同期させてもよい。

銀行預金をトークン化してもよい。

条件によってはステーブルコインでもよい。

Acaciaは、「資産をトークン化する」と「マネーをトークン化する」を分けて考えています。


4種類のマネーは何が違うのか

第一は、既存の中央銀行マネーです。

金融機関がRBAに持つESA残高をそのまま利用し、DLT上の資産取引と同期します。

メリットは、既存制度、流動性管理、法的ファイナリティを大きく変えなくてよいことです。

第二が、CBDC (ホールセールCBDC、wCBDC)です。

中央銀行マネーそのものをDLT環境へ置けば、資産と資金を同じ基盤、あるいは密接に連携した基盤上でプログラムできます。

DvP、条件付き決済、24時間利用との相性は高くなります。

第三が、トークン化商業銀行預金です。

企業や機関投資家が日常的に使う銀行預金をそのままプログラマブルにできます。一方、発行銀行が異なる預金をどう相互運用し、銀行間で最終決済するかという問題が残ります。

第四が、ステーブルコインです。

外部のデジタル資産市場との接続性が高く、パブリックチェーンでも使いやすい反面、発行者信用、準備資産、償還、規制設計が銀行預金や中央銀行マネーとは異なります。


Acaciaの結論は「wCBDCが勝者」ではなかった

ここが最も重要です。

RBAは最終的に、

相互運用可能なトークン化預金やステーブルコインはトークン化市場を支え得る。一方、中央銀行マネーは将来の金融システムでも基礎的役割を維持する

と整理しています。

そしてさらに、

トークン化の便益の多くは、既存のESA残高でも実現できる

としています。wCBDCの研究は継続するものの、「トークン化市場=wCBDC必須」とは結論づけていません。

これはかなり重要な示唆です。

中央銀行マネーに必要なのは、

必ずしも「トークンであること」ではなく、デジタル資産取引と安全かつ同期して決済できること

だからです。


Pontes、Helvetiaとの関係

この考え方はECBのPontesと非常に近いものです。

Pontesは、資産DLTと既存TARGET Servicesを橋渡しします。

一方、次回取り上げるProject Helvetiaでは、

wCBDCをDLTへ直接載せる方式と、
既存RTGSとDLTを同期する方式

を同じ中央銀行が並行して検証しています。

つまり世界の中央銀行で共通してきた問いは、

「CBDCを作るか、作らないか」

ではなく、

「中央銀行マネーをトークン化市場へ、どのインターフェースで提供するか」

へ変わっています。


Project Acaciaが示したこと

Acaciaの最大の示唆は、「デジタルマネーの勝者」を決めなかったことです。

トークン化市場には、

中央銀行マネーが必要な場面もある。

銀行預金が最適な場面もある。

公開市場との接続にはステーブルコインが適する場合もある。

重要なのは、すべてを一種類のマネーへ統一することではありません。

異なるマネーが額面価値と流動性を維持しながら相互運用できること。

タイトルの問いへの答えは、

トークン化市場に必要なのは、一つの「正解のマネー」ではない。
用途に応じて複数のマネーを使いながら、中央銀行マネーを最後の信頼のアンカーとして維持することである。

となります。

主な参照資料: RBA・DFCRC Project Acacia Final ReportおよびRBAによる最終結果概要。


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