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ベストなバッグは、存在しない ── こんどこそ、近づけるか(Peak Design Travel Backpack 2-in-1)

2-in-1の脱着を見せる動き(製品写真:Peak Design)

人生において、一つとして同じ旅はありません。

同じ場所へ行くにしても、季節が違う。撮る対象でレンズも変わる。手にしている機材だって、時間とともに入れ替わっていく。だから「これ一つあれば、どんな旅も大丈夫」という万能バッグは、永遠にやってきません。

だからこそ、我々バッグマニアは、バッグを買い続けます。毎回「今度こそ」と思いながら、次の一つに手を伸ばす。なかなか業の深い趣味です。冷静に考えれば、これは「最適化」ではなく「逃避」に近いのかもしれません。それでもやめられないのですが。

そんなバッグマニアの渇きに、いちばん応えてくれるメーカーが、私にとってはPeak Designです。だからPeak DesignがKickstarterで新作を出すとなれば、私は必ず買う。彼らの一番最初のバッグから、ずっと欠かさず。今回もまた、当然のような顔をして新作をプレッジしました。


ところが、危うく"無難な方"を選ぶところでした

ただ、プレッジするとき、私は間違えかけました。

Peak Designは2026年3月に「4 new travel bags」と銘打って、4つの新作トラベルバッグを一気に発表しました。私が今使っているのは、2018年のキャンペーンで手に入れた Travel Backpack 45L。もう8年来の相棒です。詰めればいくらでも入る。ありがたい収納力です。ただ、さすがに経年劣化してきて、背負うと「重い」と感じる場面が増えてきました。だから今回はその反動で、ひと回り小さい 20Lのバックパックを買おうとしていたんです。無難で、堅実な選択。人柱を名乗っておきながら、私は安全な小型に逃げかけていたわけです。

それを香港仲間の山根博士(香港在住の携帯研究家・山根康宏さん)に話したら、一喝されました。

「それは違う! どう見たって、今回の4つでPeak Designが一番推してるのは 2-in-1 だ。そのど真ん中にチャレンジしないで、どうする。それでモバイラーと言えるのか。人柱と言えるのか。俺流トラベルガジェットをやってる人間として、胸を張れるのか」

——痛いところを突かれて、「うっ」ときました。ぐうの音も出ません。冷静に考えれば「メーカーが一番推している=自分にとっての正解」とは限らないのですが、その場の私にそんな反論を組み立てる余裕はありませんでした。

私はその場で注文内容を変えて、2-in-1をプレッジし直しました。(間に合ってよかった)


台湾で、あらためて思い知ったこと

しかも、タイミングが効いていました。このバッグが届く直前、私は台湾で「やっぱりあの大きいバッグには問題があるな」と再認識したばかりでした。

前回の Travel Backpack 45L は、確かに優秀です。大概のものが入る。Peak Designが揃えている複数のインナーバッグをうまく重ね合わせれば、ほぼ何でも収まってしまう。収納力という一点では、文句なし。

でも、台湾に着いたその日の夜、ちょっと出かけようというとき——あの大きいバッグを背負って出たいかというと、出たくないんです。夜くらい、もっと小さくコンパクトなバッグで、身軽に歩きたい。

だからこそ私は、いつも旅にトートバッグを一枚忍ばせてきました。ところが、ここで私の身体的な弱点が立ちはだかります。私、筋金入りのなで肩なんです。トートバッグというトートバッグが、肩からするすると滑り落ちていく。もし整形が許されるなら、肩の先っぽを少し尖らせて、ついでに滑り止めでも付けたい——本気でそう願うくらい、私の肩はトートと相性が悪い。それでも結局、トートが一番手軽だから、またトートに戻ってしまう。この堂々巡りを、何年も続けてきました。
(参考:わたしの所有バッグ一覧

大きいバッグは夜の街に重く、トートはなで肩を滑り落ち、ちょうどいいバックパックには旅の荷物が入らない。——この三すくみに、今回の2-in-1はきっと効くはずだ。台湾にいるあいだ、私は家に届いているはずの新しいバッグを、子どものように心待ちにしていました。

帰宅して、開封して、今まさにそれを眺めているところです。
ここから紹介していきます。


「親子亀」のように、二つに分かれます

今回手に入れたのは、Peak Design Travel Backpack 2-in-1。一番の特徴は、名前のとおり「2-in-1」、つまり二つに分かれるところです。

左がDay Pack、右がBase Pack /ジッパーで合体する仕組み(製品写真:Peak Design)

大きい方が Base Pack、小さい方が Day Pack。この二つが、背面のジッパー一本でガチャッと合体して、合わせて 40L の機内持ち込みサイズになります。公式のインフォカードによれば、合体しているときの配分はBaseが30L、Dayが10L。そして面白いのは、切り離すとそれぞれが少しふくらんで、Base Packは34L、Day Packは16Lの“独立したバッグ”になるところ。私はこれを勝手に「親子亀」と呼んでいます。大きな親亀の背中に、小さな子亀がジッパーで張り付いている、あの感じです。

参考までにわたしのカメラとドローンを収納してみました。

左=子亀 Day Packには衣類を/右=親亀 Base Pack にはM10とレンズ3本、ドローンNeo2も

私の使い方は、もう決まっています。移動日は40Lで合体させて、これを一つ背負う。荷物を抱えたまま国境の出入境を何度もくぐるような移動でも、身一つで済みます。そして目的地に着いたら、子亀=Day Packだけをジッと外して、身軽に街へ出る。大きい親亀のBase Packは、ホテルに置いていく。

これまで「大きいバックパック+別持ちのトート」でやっていたことが、一つのバッグの中で完結します。もう、滑り落ちるトートを別に一枚連れていく必要は、ありません。


メーカーが言っているのは「妥協しない2-in-1」

二つに分かれるバッグ自体は、世の中に昔からあります。デイパックが付属する大型バックパック、というのは珍しくありません。

ただ、その手の"2-in-1"を使ったことがある人ならわかると思いますが、たいていどちらかが我慢を強いられている。付属のデイパックはペラペラで単体だと心もとなかったり、逆にデイパックを背負うために本体側に不自然な作りが残ったり。「2-in-1なんて、結局どっちも中途半端」——これはわりと広く共有されている定説だと思います。

Peak Design は、まさにそこに喧嘩を売ってきました。公式の言い方を借りると、彼らが目指したのは「従来のハイブリッドパックにつきまとう妥協なしに、ワンバッグ旅の身軽さを楽しめる」こと。離していても、合体していても、どちらも単体で美しく実用的な二つのバッグにする、と言い切っています。

「中途半端じゃない2-in-1を作った」と宣言したわけです。私がこの記事で見たいのは、まさにその一点。その宣言は本当か。正直に言えば、メーカーの惹句なんて話半分で聞くものですし、ここまで言い切られると、かえって粗を探したくなるのが人柱の性分です。


子亀が、おまけじゃない


上=合体させた親子亀(実際に詰めて量ったら約9kgでした)、下=子亀の上部ポケットに入れたパスポートと財布

その宣言が本物かどうかは、私の場合、子亀で決まります。

切り離したDay Packは16L。街歩きには十分すぎるくらいの容量で、カメラとレンズ、上着、水、ガジェット類を入れてもまだ余ります。そして地味に効くのが上部のポケット。ここにパスポートや財布をさっと放り込めるので、街歩きの貴重品入れにちょうどいいんです。もっとも、すぐ手の届く上部に貴重品をまとめるのは、スリの多い街では逆に危ういとも言えます。ここは便利さと引き換えの設計だと、頭の隅に置いておくべきでしょう。

単体で見ても、普通に「いいデイパック」。ここが、従来の"おまけデイパック"と決定的に違うところでした。本体のおこぼれではなく、最初から一個のバッグとして作られています。


細かいところが、いちいち効きます

使い込むほどに効いてくるのが、細部です。

まず、16インチのノートPCが、Base PackとDay Packそれぞれに入る。本体に1台、子亀にもう1台。さすがに2台は持ち歩きませんが、「子亀にもちゃんとPCスリーブがある」という事実そのものが、子亀がおまけ扱いされていない証拠です。

素材は再生素材のVersa Shell、底面は900Dの頑丈な生地です。ジッパーはPeak Designご自慢のUltraZip。質実剛健で、安心して放り投げられる作りです。スーツケースの持ち手に通すラゲッジパススルーもあって、これが後でローラーと効いてきます。カメラを持ち歩く人間としては、別売のカメラキューブをそのまま放り込める設計なのも見逃せません。——ただ、その「別売」が積み重なって財布に効いてくるのも、Peak Design流ではあります。

こういう「あって当たり前だけど、無いと地味に困る」部分が、ひととおり丁寧に押さえてある。これはさすがPeak Design、という印象です。

相棒として、ローラーも一緒に来ました

Roller Pro。左が閉じたところ、右が開いて中を見せたところ

実はこのバックパックと同時に、Peak Design の Roller Pro という機内持ち込みサイズのローラーバッグも手に入れました。これまで使っていた Xiaomi の小さなキャリーがくたびれてきたので、その後継です。

パッキング例(製品写真:Peak Design)

このローラーがまた面白くて、フタが前ヒンジの「ドローブリッジ」式に、パカッと前に倒れて開きます。狭いホテルの部屋でも全開にできる。これが地味にうれしいんです。トロリーはカーボン製で薄く、こちらもカメラキューブが収まります。

そして、さっきのラゲッジパススルーの出番です。ここで役者が三人に増えます。移動の大物はRoller Proに任せ、その上にBase Packを載せて転がし、街歩きはDay Pack。バッグが二つから三つにまたがっても、Peak Designの"親子"思想は一本の線でつながったまま。ホテルにはローラーとBaseを残し、子亀だけ連れて出かける。今いちばんしっくりくる体制です。とはいえ、ここまで来ると「ワンバッグ旅の身軽さ」という当初の触れ込みからは、だいぶ遠ざかっている気もします。

Roller Proのハンドルに通して載せたところ。左が子亀(Day Pack)、右が親亀(Base Pack)


ただ、手放しで褒めるには、まだ早い

ここまで良いことばかり書いてきたので、正直な引っかかりも書いておきます。

一つは、お金です。定価で揃えれば、軽く十数万円のシステムになります。とはいえ正直に明かすと、私が実際に払ったのはKickstarterのバッカー価格——本体$319、Roller Proが$499、送料を足してプレッジ総額$863でした。定価よりは抑えられたとはいえ、決して安い買い物ではありません。「妥協しない2-in-1」は、値段の方も妥協していない。財布の方が先に、こちらに妥協を迫ってくる勢いです。そもそも、この金額を出せる時点で「ベストなバッグは存在しない」という悩みは、かなり贅沢な悩みなのだと思います。

もう一つは、重さと大きさ。40Lで合体させた状態は、当然ながら軽くはありません。一番上のM型ライカとレンズ3本、洋服などを入れて 量ってみたら、合体状態で約9kg。子亀を背負った親亀は、それなりの存在感がある。身軽になるための装備が、まず背中で重い。本末転倒のような気もしますが、それでも欲しくなるのがバッグマニアです。身軽さを手に入れるための"母艦"は、母艦らしい重量があるということです。


それで、三すくみは解けたのか

フルに詰めた状態の親子亀(製品写真:Peak Design)

何年も引きずってきた、あの三すくみ。少なくとも今のところ、Peak Design の親子亀は、その三つに同時に手を伸ばしてきた数少ないバッグです。母艦で運び、子亀で歩く。トートはもう持っていかない。これまで「大きいバックパック+別持ちのトート」でやっていたことが、一つのシステムの中にきれいに収まった——その手応えだけは、もう確かにあります。

ただ、「中途半端じゃない2-in-1を作った」という宣言に、私が心から頷けるかどうかは、もう少しだけ保留にしておきます。深圳通いはたいてい日帰りなので、この親子亀の真価が問われるのは、次の日本への帰省か、どこかへの撮影旅行のとき。何泊かの荷物を詰めて移動して、現地では切り離した子亀だけを背負って歩いてみて——そのとき初めて、この親子亀が本物かどうかが分かる気がするからです。

ベストなバッグは存在しない。その持論は、たぶんこれからも変わりません。来年にはまた、性懲りもなく別の新作に手を伸ばしているのでしょう。それでも——こんどこそ、少しはベストに近づけたんじゃないか。今はそんな期待を、Sageの親亀ごと背負っています。

もっとも、こうして「今度こそ」と書くのは、思い返せばこれが何度目かも分からないのですが——あなたの「今度こそ」は、何本目のバッグでしたか。その答えは、また旅の後で書きます。


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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ここからは台湾の最終日、寄り道の話です。このバッグが届くのを待っていた、あの一日の記録を少しだけ。

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