【公認PJTインタビュー】芸術体験の最前線:脳科学と芸術がつくる新しいメンタルケア──「The Hearth」 黄 松毅さんに聞く
UT-LABについて

東京大学本郷キャンパスのすぐそばに拠点を構えるUT-LABは、学生の能力を社会課題の解決に活かすことを目的に、2024年6月に設立されたオープンイノベーション拠点です。AIやブロックチェーンなどの先端技術を軸に、学生・研究者・起業家が領域を超えて集い、多様なプロジェクトが日々生まれています。
公認プロジェクト制度について

2025年には、明確な課題意識と目標を持ち、自律的に活動を進めているプロジェクトを公式に認定する仕組み「公認プロジェクト制度」を始動しています。
認定されたプロジェクトは、UT-LABからのメンタリング、人材支援、広報支援などのサポートを受けながら、より大きなインパクトの創出を目指すことができます。
今回インタビューを行ったのは、そんな公認プロジェクトの1つ
「The Hearth」 の代表を務める 黄 松毅さん。
芸術と脳科学をつなぎながら、「芸術の力で社会課題を解放する」ことを目指すこのプロジェクトに込められた想いや、その先に描く未来についてお話を伺いました。
Q1. まず、簡単に自己紹介をお願いします。

黄:東京科学大学 情報理工学院・情報工学系の修士1年で、芸術創造・鑑賞時の脳活動を研究しています。
作品を見たり聴いたりする瞬間に脳の中でどのような変化が起きているのかを計測し、芸術が人に与える影響を神経科学として明らかにすることを目指しています。
学部時代は早稲田大学で人工知能を学びましたが、5歳から続けているバイオリンは自分の原点でもあり、この二つの領域をつなぐ形で現在の研究に至りました。
小学生の頃はいわゆる問題児でしたが、中学生で初めて人前で演奏し、感情が音として他者に届く体験をしたことが大きな転機になりました。
その後、AIの進展を間近で見ながら、「AIの時代に、人間は何をもって幸せに生きるのか」「人ならではの価値とは何か」という問いが強く残りました。
Q2. 現在取り組まれている公認プロジェクトについて教えてください。
黄:「The Hearth」は、芸術の力を持続可能な形で社会に還元することを目指すプロジェクトです。
芸術は本来、人の心に深く働きかける力を持っていますが、その価値は可視化されにくく、「芸術では食べていけない」と語られるほど、ビジネスとして成立しづらい領域でもあります。
私はそこに課題があると考え、「芸術家と社会課題をつなぐ触媒として芸術の力を社会に還元する」ことをミッションに活動しています。
取り組みは大きく二つあります。
1つ目は、高齢者施設への出張型芸術体験プログラムです。
単なる演奏提供ではなく、入居者の方々が身体や声を使って参加し、場を一緒につくっていく双方向型のプログラムを実施しています。
これまでに100回以上開催してきましたが、音楽をきっかけに表情が明るくなったり、新しい挑戦を始められる方もいて、芸術が持つ回復力と創造性を強く実感してきました。
2つ目は、現代のストレス社会に向けた新しい芸術体験です。
これは、負の感情を抑え込むのではなく、「そのまま受け止め、ほぐす」という禅的思考に基づくものです。
ドイツを中心に効果が示されつつある最新手法を取り入れ、ビジネスパーソンや学生など幅広い層に向けて、UT-LABやSHIBUYA QWSでのPOC(概念実証)を実施しています。

私たちが目指しているのは、芸術を心のケアにとどめるのではなく、社会全体の感情と創造性を解きほぐす新しいインフラとして実装することです。
芸術が誰にとっても身近な選択肢となり、心の豊かさが自然と循環していく社会。その未来の入口をつくることが、The Hearth の目指す姿です。
Q3. このプロジェクトを始めたきっかけは何ですか?
黄:芸術と脳科学の道を選んだ原点には、自分自身が芸術に救われた経験があります。小学生の頃の僕はいわゆる「問題児」で、エネルギーの向け先が見つからず、周囲に迷惑をかけてばかりだったと思います。
でも、中学生になって初めてまったく知らない人の前でバイオリンを演奏し、自分の内なる感情を音楽に乗せて届けられたとき、「破壊ではなく創造で、自分を表現できるんだ」と気づいたんです。
そこから、行動も人生も劇的に変わりました。
同時に、人工知能を学ぶ中で「AIが多くの仕事を代替していく社会で、人間は何を拠り所に生きていくのか」という問いにも向き合うようになりました。
そんな時、スイス・インターラーケンで経験した大自然の中での「AWE体験」が、僕の考えを決定的に変えました。
圧倒的な自然の前で自分の存在が小さく感じられ、「自分の限られた人生を、もっと誰かのために使いたい」と心から思えました。
その経験が、芸術で人の心に触れ、それを科学の言葉で解き明かし、社会に還元していくThe Hearthの活動へと繋がっていきました。

Q4. 今後このプロジェクトをどう発展させていきたいですか?
黄:これまでの取り組みは高齢者施設や特定のコミュニティに向けた活動が中心でしたが、今後は対象を大きく広げ、ビジネスパーソンや学生など、現代社会で不安や悩みを抱えるすべての人に芸術の力を届けていきたいと考えています。
芸術は本来、心の深い部分に働きかけ、感情の滞りや閉塞感をほぐす力があります。その価値をより多くの人が日常的に受け取れる仕組みを構築したいと考えています。
最終的に目指しているのは、芸術が「特別な体験」ではなく、心のケアや自己理解のための社会インフラとして根づく未来です。
誰しもが抱えるモヤモヤや不安、心の奥にあるわだかまりに対して、芸術を通じてそっと寄り添えるような社会。
そこでは、見返りを求めない貢献や、自然や他者を思いやる利他的な感性が循環し、争いや分断の少ない世界へと広がっていくと信じています。
The Hearth の活動が、そんな未来の入口になるように、私たちはこれからも、芸術を介して社会全体の心の豊かさを高める取り組みを続けていきたいと思っています。
Q5. 今後どのような人と出会いたいですか?どんな機会を作っていきたいですか?
黄:まずは、芸術の力をまっすぐに体験してくれる人たちと出会いたいです。The Hearth のワークショップは、ただ「癒やし」や「体験」を提供するものではなく、自分の内面と丁寧に向き合う特別な時間になるように設計しています。
だからこそ、学生でも社会人でも、心の奥にモヤモヤや疲れを抱えている人に、ぜひ一度参加してほしいと思っています。必ず「来てよかった」と感じていただけるはずです。
そしてもう一つは、芸術を“社会の価値”として再評価したいと考えている仲間です。
0→1の創造を大切にする経営者・研究者・起業家、あるいは芸術と社会課題の接続に興味のある人など、バックグラウンドは問いません。
私自身、人生そのものを「一つの芸術作品」だと捉えており、その理念に共鳴してくれる方と、新しい取り組みを一緒に生み出したいと思っています。
The Hearth は、芸術を通して人の心に光を灯し、それを社会へ循環させていくプロジェクトです。そんな世界観に少しでも共鳴してくださった方がいれば、ぜひお気軽にご連絡ください。
Q6. 黄さんにとって、UT-LABとはどんな場所ですか?
黄:UT-LABは、社会課題に本気で向き合う人たちが集まる、めずらしい場所だと感じています。
私の周りには、こうしたテーマに関心を持つ仲間がほとんどいなかったので、ここに来て初めて「こんなにも真剣に社会を良くしたいと思っている学生がいるんだ」と驚きました。
それぞれが異なる分野や背景を持ちながら、自分の関心領域で挑戦していて、その一人ひとりとの対話が、自分の世界を一気に広げてくれるんです。
話しているうちに、「この領域と芸術を組み合わせたら、こんなことができるんじゃないか」と新しい発想がどんどん生まれてくる。まさに化学反応が起こる場所ですね。
ギスギスした雰囲気は一切なく、むしろ互いの挑戦を自然と応援し合える空間。
興味や専門がバラバラのメンバーだからこそ、想像もしなかった接点が見つかるような心地よさと刺激が同時に味わえる場所だと感じています。
Q7. これから公認プロジェクトに挑戦する人たちへメッセージをお願いします。
黄:公認プロジェクトに挑戦するというのは、時に不安や迷いも伴ういばらの道だと思います。社会課題の領域は、すぐに成果が見えたり、お金になるわけではありませんし、途中で何度も立ち止まってしまう瞬間があるはずです。
でも、その「苦しい」「怖い」「これで合っているのかな」という感情こそ、豊かな人生を歩んでいる証拠だと僕は思っています。
ずっと楽しいだけの毎日よりも、波があるからこそ景色は鮮やかになる。ビールの苦味に深みを感じるように、挑戦の葛藤には必ず大切な気づきが隠れています。
だから、自分の中に湧いてくる負の感情さえも「今、自分は前に進んでいるんだ」と肯定してほしい。
そして、本当に辛くなったら 遠慮なく頼ってください。
私自身、多くの大人に支えられてきましたし、その恩を次の挑戦者に返したいと思っています。
ワークショップに参加してみるのもいいし、直接相談してくれても大丈夫です。UT-LABの仲間は、あなたの挑戦を全力で応援してくれるはずです。
小さな一歩でもいい。あなたが踏み出すその一歩が、きっと誰かの未来を変える力になると思います

挑戦したいあなたへ
UT-LABでは、起業・研究・地域活性など、さまざまな分野で“挑戦したい”学生を応援する仕組みを整えています。公認プロジェクト制度もその一環であり、自らのビジョンを持ち、社会に問いを投げかける学生たちの後押しをしています。
先端技術を活かしながら、社会に変化をもたらす。そんな志を持つ学生の挑戦が、今まさに形になろうとしています。
UT-LABでは、現在新規メンバーや公認プロジェクトへの応募者を随時募集中です。
興味のある方は、ぜひ一度UT-LABを訪れてみてください。
▼ UT-LABに関心を持たれた方へ
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