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③ 長期入院という構造 ― 日本の精神医療の特徴

前回の記事では、精神科医療における入院制度について見てきました。精神科には任意入院、医療保護入院、措置入院といった制度があり、それぞれ異なる条件のもとで入院が行われています。

しかし、制度を理解するだけでは精神医療の実態は十分に見えてきません。重要なのは、その制度が実際の医療現場でどのように運用されているのかという点です。

精神医療をめぐる議論の中で、しばしば指摘される特徴があります。
それが 入院期間の長さ です。


日本の精神科入院はどれくらい長いのか

令和6(2024)年の医療施設(動態)調査・病院報告によると、日本の精神科病床における平均在院日数は 255日(約8か月) とされています。一方、一般病床の平均在院日数は 15.5日 です。
精神科の入院期間は、一般医療の入院と比べて 約15倍以上も 長いことになります。

また、国内での比較だけでなく、国際的な比較もあります。日本の精神科医療の特徴が一部見えてきます。

ただし、精神科病床の定義は国ごとに異なるため、国際比較には一定の限界があるとこれまでも指摘されています。それでも、可能な限り定義を揃えたうえで病床の国際比較を行っている研究があります。
(出典:菊池安希子『精神保健医療福祉制度の国際比較』2019)

この報告によると、救急・急性期の精神科病床数は国際的な平均と大きな差はありません。しかし、在院日数は日本が120日を超えているのに対し、OECD諸国の平均在院日数は40日程度です。
さらに、長期ケアやリハビリテーションを目的とした精神科病床数を人口当たりで比較すると、日本は他のOECD諸国と比べて突出して多いことが指摘されています。

日本の精神科病床にはこうした長期療養を前提とした病床が多く存在しています。そのため、精神科病床全体で見ると平均在院日数は255日となり、入院期間がさらに長くなっていると考えられます。

日本の精神科入院が長期化している傾向は、これまでも多くの研究で指摘されてきました。


平均だけでは見えない入院の実態

在院日数について、さらに理解を深めます。
平均が長いということは、すべての患者が長期間入院しているという意味ではありません。入院期間の分布を見ると、日本の精神科入院には大きなばらつきがあることが分かります。短期間で退院する人もいれば、非常に長期間入院する人も存在しています。

資料:厚生労働省 精神保健福祉資料(630調査)

630調査とは、国が毎年6月30日時点の入院や外来の状況を全国の精神科病院に調査した統計資料です。R6年の結果から精神科入院患者の入院期間を見ると

  • 3か月未満:23%

  • 3か月以上1年未満:18%

となっています。つまり、それ以外の 59%は1年以上の入院 となります。

入院患者の半数以上が1年以上入院している
これは、日本の精神医療の大きな特徴の一つです。


長期入院は例外ではない

精神医療において、長期入院は決して例外的な出来事ではありません。
R6年の630調査結果より、日本の精神科病床には 約25万人以上の患者 が入院していることが報告されています。そのうち 1年以上入院している人は約15万人 にのぼります。これは、精神科入院患者の 半数以上 にあたります。

さらに、長期入院の中には非常に長い期間の入院も存在します。

先に挙げた調査によると、20年以上の入院患者も全体の約7% を占めています。中には 50年以上入院している人 もいます。

20年の入院は約7300日
50年の入院は約18250日になります。
人生の大半が病院の中で過ぎていく時間でもあります。

資料:厚生労働省 精神保健福祉資料(630調査)



社会的入院という問題

こうした状況の中で生まれているのが、いわゆる 社会的入院 と呼ばれる状態です。
社会的入院とは、医学的には退院可能であるにもかかわらず、生活環境などの問題によって退院が困難になっている状態を指します。
前回の記事で触れた『運用の見えにくさ』が、この退院困難な状況に拍車をかけている側面もあります。
つまり、これは単なる医療の問題ではありません。医療だけでなく、福祉や地域社会の仕組みとも深く関係しています。

背景には、

  • 病状の慢性化

  • 家族による受け入れの困難

  • 退院後の生活基盤の不足

  • 地域支援体制の不足

  • 精神科病院から地域へ移行させる仕組みの弱さ

といった複数の要因が関係しています。

精神医療における長期入院を理解するためには、医療制度だけでなく、福祉や地域社会を含めた 社会全体の構造 を視野に入れる必要があります。


長期入院はどこから生まれるのか

では、なぜ日本ではこれほど多くの長期入院が生まれているのでしょうか。

長期入院は、個々の患者の問題だけで説明できるものではありません。そこには、日本の精神医療が長年かけて形成してきた 医療制度と病床構造 が深く関係しています。

次回は、日本の精神医療のもう一つの特徴である 精神科病床の多さ に焦点を当てます。

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