夕暮れのサブグラウンドで【4/20 対カープ戦● ※ファーム】
【はじめに】
筆者が新しくオープンしたゼロカーボンベースボールパークを訪ねたので、この日はファーム戦の試合noteをお送りします
「代わった」ではなく「代えられた」のだなってことはすぐに分かった。この日1番でスタメン出場した百﨑蒼生は3回裏の攻撃で代打を出された。まだ初回の1打席しか立っていない。打撃の状態が良くてたくさん打席に立たせたいはずの百﨑が序盤で代わってしまった。
直前のプレーで体を痛めた様子はない。
となれば、やはりあの守りに対してベンチが喝を入れたということになるのか。
話は3回表の守備にさかのぼる。1アウト1,3塁の場面。打球はショート百﨑の正面に飛んだ。打球の勢いからして併殺は確実だ。
だがこのプレーでアウトは1つも取れなかった。グラブを後ろに引きながら捕球を試みた百﨑の股下を打球が抜けていった。ボールが転々としている間に、走者がホームインした。
続く打者の打席でも、中継プレーが緩慢になっている間に2点目の走者の生還を許した。中継に入った百﨑のバックホームが高めに浮き、タッチが遅れた。
このプレーが続いた裏の攻撃で、百﨑は代打を送られた。

試合が終わったあと、せっかくなのでゼロカーボンベースボールパーク内をぐるりと一周見て帰ることにした。
日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎は、レフト側の外野方向にサブグラウンドがある。試合前には投手陣が軽いアップや練習をするのに使っているスペースだ。内野の形をした部分は球場と同じ黒土が敷き詰められていて、ノックが受けられるようになっている。
サブグラウンドが見学できるスペースに人だかりができている。近づいてみると、百﨑がゴロ捕球のノックを受けていた。試合が終わってまだ十数分しか経っていないのに、百﨑のユニフォームが真っ黒だった。

百﨑が守っているところの右に左に打球が飛ぶ。捕れるかどうか際どいところにボールが行くから、百﨑も右に左にダイブする。百﨑がグラウンドに飛び込むたびにユニフォームが泥で汚れていく。よく見たら、真っ黒なのはユニフォームだけじゃない。度重なるダイブで、左手のグローブや右腕まで土まみれだった。疲労で体が動かなくなっていのだろう。足の動きは軽快とは言い難いし、送球のフォームも崩れている。
その光景は華やかなプロ野球の世界とはかけ離れたものだった。僕のようなファンが、こんな練習を見ても良いのだろうか。そう思ってしまうくらい壮絶だった。

周りのお客さんも、百﨑の練習を固唾をのんで見守っている。際どい打球を捕れたら拍手が鳴るし、捕れなかったときは「ああー!」って声が響く。その声は残念がっているというよりは、百﨑と一緒に悔しがっているような感じだった。ヤジを飛ばしたり、冷やかしを入れたりするファンはいない。
必死の形相でノックを受け続ける百﨑を、僕はただ黙って見ることしかできなかった。「頑張れ」なんて言えなかった。だって、誰がどう見ても頑張っているのだから。


試合終了から約30分後、百﨑のノックは終わった。度重なるダイビングキャッチで頬にまで土が付いていた。そこに笑顔はなく、終始うつむいた表情をしていた。試合でやってしまったエラーの悔しさを噛みしめているようだった。
ノックが終わって百﨑が引き上げようとしたとき、大きな声が聞こえてきた。「ずっと応援してるから!!」
ずっと練習を見守っていたファンの声だった。
……そうだよね、僕らファンは選手を後押しすることしかできない。応援のスタイルは人それぞれで、押しつけるつもりはないけれど、僕はしんどいときに背中を押してあげられるファンでいたい。選手が悔しがっているときは一緒に悔しがって、喜んでいるときは一緒に喜ぶファンでありたい。だって、百﨑が代打を出されたとき、僕も悔しかったもの。

24日のファーム戦、百﨑は2番・ショートでスタメン出場して3安打を放った。5回に放ったライトへのヒットがタイムリーになって、これが決勝点となった。昨シーズンは打率1割台だった百﨑が、今は打率.321を記録している。打撃と守備の違いはあれど、あの日の悔しさをバネにして、百﨑は更に大きく成長しようとしている。
また応援に行くよ。今度は百﨑と一緒に喜びたいから。
