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【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ④

こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。

▼ プロローグはこちら。

▼ スピンオフ さわこ編 前回の第③話はこちら。


さわこ ・ エピソードⅣ ‐ 新たなる希望 - (後編)


登校する足取りが軽い。

学校が楽しいと思えた事は、さわこにとって初めての体験だった。
それまでの学校生活は、さわこにとっては周囲からいかに存在を隠せるかが最重要で、その事にかなりの神経を使っていたからだ。

ただ、それ自体が当たり前になってしまっていたので、今の様にそこまで気を遣わずに過ごせる学校生活は、さわこにとって身体が軽くなったような感覚も感じさせていた。

すこし遅れて入学した田梨木高校の生活は、そんな理由もあって日を追うごとに楽しくなっていっていた。

ただ、10数年続けてきた習慣は身体に染みついていた事と、その間に培われた内向的な性格はそう簡単に変えれるものではなかったし、さわこ自身がその可能性に気がつかないでいたので、本人は田梨木高校での学生生活を楽しんではいたが、周囲には一切悟られることはなく気がついたら2年生になっていた。



さわこにはお気に入りの場所があった。

時々、校舎の屋上の貯水槽の裏側の人目につかない場所に腰をかけてビン底黒縁メガネを拭きならが遠くに見える山を見て目を休ませている。そこがさわこのお気に入りの場所だった。

そこは安全のため簡単に立ち入れないように土台も高くなっていて更にかなり高い柵も張り巡らされているので普通の高校生が入ってくる事はできないのだが、さわこにはそれは障害にならなかった。

おそらく下級生だろう、時々美しい歌声が聴こえてくる事もあって、それを期待するようにもなっていた。
さわこは音楽に疎かったので曲の事はよくわからなかったが、綺麗な澄んだ高音の歌声は聴いていてとても心地よかった。

今日も昼休みにこの場所を訪れて休んでいたさわこは、ビン黒縁メガネを外して遠くに見える山に目を凝らしてみた。

おばあちゃんが、遠くの山の木の一本一本を見るようにすると視力がよくなるのよ、と教えてくれてから、ここに来たら必ずそうするようにしている。

ただ、さわこには遠くの山がなんとなくわかるくらいで、ボヤけて山の輪郭もはっきり見えないのだが、それでもその中の木の一本を見つけようとして目を凝らしてみる。

自然と目が細くなって眉間に皺がよってしまうので、さわこには自覚なく裸眼で焦点を合わせようとすればするほど、睨みつけるような表情になってしまうのだった。

そもそも人前で裸眼を晒す事などしないさわこだったが、2年生になってすぐの頃に、あの事故が起こった。

あの時の事を思い出すと、今でもさわこは恥ずかしい気持ちになってしまう。眼鏡を拭いていた指先に自然と力が入る。

ここは屋上だ。
誰にも見られる心配もない。

あの時の事を思い出そうとするさわこの頬は、自然と緩んでいくのだった。



その日、さわこはいつも通りの日常を満喫していた。
誰にも気にされず、誰とも会話せず、教室内でクラスメイトが色んな会話や遊びをしているのをビン底眼鏡の奥から、こっそり観察していた。

そういう時は、いつも次の授業の教科書か、さっきの授業の教科書を読んだフリをするようにしている。

最初は小説等自分が興味がある本を読んでいたり、読むフリをしていたのだが、その小説が他者の興味を引いてしまって話しかけられる危険性があったので、予習か復習をしているように見える教科書を読んだり読むフリをするのが一番安全だった。

似たような事をしている生徒がいる事は、入学してすぐに気が付いていた。
教壇の真ん前で級長をしている吉田君だ。
彼はいつも教科書に「お笑いマニュアル」を挟んでお笑いの研究をしている。そんな吉田君の読んでるフリから着想を得て、今の教科書スタイルに行きついたとも言えるので、さわこは勝手に吉田吉夫に感謝していた。

また、何より彼がかけている黒縁眼鏡が、とてもカッコよかった事もさわこが吉田吉夫に興味を持つキッカケになっていた。

( ・・・きっとEYEVANアイバンの眼鏡だわ、似合ってるし素敵・・・ )

ちなみに、さわこ愛用のビン底黒縁眼鏡は、LOZZAロッツァの特注である。

そんな事を思いながら、同じ黒縁眼鏡愛好家として吉田吉夫に勝手にシンパシーを感じたさわこは、無自覚に眼鏡のレンズ面が照明を反射して真っ白に輝く角度になるように中指でクイっと上げた。

( いつか仲良くなれるかな・・・ )

教科書を読んでいるフリをしてこっそり観察しているはずが、黒縁眼鏡の事で我を忘れてしまってうっかりボケーっと教室の前の方を見てしまっていたので、不意に眩しい輝きが視界に入ってしまった。

不思議な事に田梨木高校は、全体的に明るいのだ。
さわこにはちょっと眩しい。

それが、このクラスの中はもっと眩しい。

入学してしばらくは目が慣れなくて本当に眩しくて大変だったのだが、しばらくしてその眩しさにも慣れてきたのだが、それでもクラスメイトの数名が異常な輝きを放っていて眩しかった。
さわこは彼女たちを直視できなかった。眩しすぎて。

そう、眩しさを感じるのは女生徒に限られていた。
なぜだかわからない。

性格が明るいと本当に眩しく見えるんだな、とさわこは思っていたので、クラスメイトが会話の中で、〇〇輝いてるね!とか、眩しいね!とか言っているのを聞くと、やはりそうなんだ、と納得していた。

今回、さわこの視界に不意に入って来た眩しい女生徒は、貝差彩子だった。

『おい!宇利!・・・おいこら盛男!』
『・・・なんや聞こえてへんのか?おーいバナナ落ちてるぞー!』
『誰がゴリラやねん!バナナどこ?どこ?』
『やっぱりゴリラやないかぃ!キンキンに冷えたコーラないの?』
『そんなもんあるか~い!いきなり何やねん・・・え?告白?』
『あほか!そんなわけあるかい!ショーもな!さっぶ!』

いつものように宇利盛男と貝差彩子がじゃれ合っているのだが、ちょうどさわこの真正面で繰り広げられており、さわこもうっかり視線を上げていたものだから直視してしまったのだ。

彩子の眩しさをうっかり直視してしまったさわこは、目を閉じて視線を外し、眼鏡を外して目をパチパチして光の刺激を緩和した。

ちょうど机の上に眼鏡を持った方の腕を片肘をついた状態で頭を下げて目をパチパチしていたので、宇利が誰かに呼ばれて廊下に向かう途中で、さわこの前を通りかかった時に、眼鏡を持った手に宇利の手が当たってしまう事を避けられなかった。

不意に感じた手への衝撃とふわっとした宇利の体毛と、手から滑り落ちてしまう眼鏡の感触を一度に感じたので、さわこは一瞬パニック状態になった。

(・・・え?何?このふわっとした感触・・・)

遅れて眼鏡が落ちてしまった事を自覚したさわこは、思わず声が出てしまった。

『 あ・・・ 』

( しまった、油断した・・・ )
( 誰かと接触してしまった・・・ )

『  あ!ごめんごめん、ごめんやで~ 』

( この声、宇利君だ・・・ )

クラスの人気者で元気者の宇利盛男は、さわこにとって憧れの異性だった。
今までこんな異性には出会った事がなかった。
誰にでも優しくて分け隔てなく接してくれてみんなを笑わせてくれる。
この人なら、こんな自分でも仲良くしてくれるかもしれない・・・
そう思わせてくれる存在だった。

そんな宇利盛男が今、さわこの目の前にいる。
しかも、さわこに話しかけてくれて、落ちた眼鏡を拾って手渡してくれているのだ。

手と手が触れる。
宇利君の体温が伝わってくる。
凄く、すごく熱い・・・
(・・・私の手が冷たかったからだろうか・・・)
(・・・あ、でもゴリラって体温高いのかしら・・・)

緊張のあまり触れた手が震えてしまう・・・。

今までのさわこなら、そのまま時間が過ぎ去り、宇利が過ぎ去っていく事をただただ静かに待っていただろう。

しかし、今回のさわこは少しの勇気を振り絞って顔を上げてお礼を言った。
心臓が爆発しそうだ。

『 あ、ありがとう・・・ 』

宇利の顔を直視する。

( あ、眼鏡し忘れていた・・・宇利君の顔がはっきり見えない・・・ )

さわこは、ぼやけて見える宇利の顔に浮かび上がる大きな瞳に目線を合わせてじっと見つめた。

( 宇利君と見つめ合ってる・・・ )

こんなにドキドキした事がなかったので一瞬の出来事だったが何分にも何十分にも感じた。

さわこにとっては、永遠に続くかもしれない一瞬の出来事だった。

だが、さわこは知らない。

さわこが見ていたのは、宇利盛男の大きな鼻の穴だった事を。

一生懸命見つめようとして、目を凝らしてしまったがために、宇利に恐怖を感じさせた事を。

さわこが手渡された眼鏡を装着した頃には、宇利は逃げるようにその場を立ち去っていた。

( 宇利くんも恥ずかしかったのかな・・・ 慌てて行っちゃった )

事実を知らないさわこは、しばらくの間、宇利盛男と見つめ合っていた感覚を反芻して次の授業の内容も何も頭に入ってこなかった。

( いつか仲良くなれるかな・・・ )

そして、さわこの視界の外で普段目立たない”あの人”が、椅子をガタっと鳴らせてさわこを凝視している事にも、この時は気が付かなかった。



屋上で手に持ったビン底黒縁眼鏡を拭きながら、宇利盛男との出来事を思い出していると、あの時の感情がよみがえってきたのでさわこは深呼吸をした。

屋上の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
長く長く吐き出す事で肺の中の空気を空っぽにしていく。
空気と一緒に浮ついた感情も吐き出されていく、そんな感じで気持ちが落ち着いていく。

あれから宇利盛男とは特に何も起こる事もなく、それまで通りの距離感が続いていた。それがさわこにとっては嬉しかったし、なんだか安心できたりもしたので、静かに宇利の様子を観察する事が日課になっていた。

( いつか仲良くなれるかな・・・ )

宇利盛男を思い浮かべると、いつももう一人思い浮かぶ顔がある。
黒縁眼鏡の吉田吉夫だ。

次の授業は、文化祭の準備でクラス劇の配役を決める時間になっている。
もう少し時間があるので、さわこは吉田吉夫との、あの出来事を思い出していた。

さわこの頬が、自然と紅みを帯びていく。



下校の時、さわこのずっと前を吉田吉夫が歩いている事に気が付いたのは、2年生になってすぐの頃だった。

毎回同じではないが、時々同じタイミングで下校しているようで、必ず吉田吉夫が前を歩いて、さわこが後ろを歩いていた。

最初は、黒縁眼鏡が似合う吉田君だ、くらいに思っていたのだが、ある時、吉田吉夫がブツブツと何かしゃべりながら歩いている事に気が付いた。

さわこは吉田君が何を独り言を言っているのか気になって、話の内容が聞こえる距離まで接近して内容に耳を傾けた。

どうやら吉田君本人は自覚してないようだが、一人で漫才をしているようだった。頭の中でイメージしている事が、勝手に口から出てしまっている、そんな感じだった。

普段から授業中もこっそりお笑いの研究をしている吉田吉夫の事は知っていたので、そんな一生懸命な吉田吉夫の独り言が可愛く感じた。

( うっかり独り言で漫才なんて可愛い・・・ )

それから、吉田吉夫と下校が同じになる時には、うっかり独り言漫才をこっそり聞くのが、さわこの楽しみになっていた。

そして、あれが起こった。

吉田吉夫のうっかり漏れ出す脳内漫才を聞きながら、さわこもさわこなりにボケの吉田に対してのツッコミを考えて、自分なりにツッコミを入れて楽しんでいたのだが、一度だけ、そう、たった一度だけ、吉田のツッコミとさわこのツッコミが完全にシンクロした。

そう、ちょうど今から半年ほど前の事だったと思う。
あれからシンクロする事はないのだが、あの時の二人でシンクロした感覚は今でも忘れられない。

思わずうっかり小さく拍手してしまい、吉田君がびくっとして振り返ってしまうというアクシデントもあったので、さわこのドキドキはしばらくは収まらなかった。
反射的に一瞬で近くの民家の屋根の上に姿を隠したので、吉田君に気取られる事はなかったが、この心臓の拍動が、急な運動によるものなのか、または別の理由によるものなのかは、さわこには解らなかったが、心地が良い事だけは解っていた。

その後しばらく経ってから、ちょっと勇気を出して吉田君に話しかけたな・・・

どうしても黒縁眼鏡の事が聞きたくて・・・というのはタテマエで、仲良くなりたかったので話しかけたのだが、緊張しすぎて変な事を言っただけで何も聞けずに席に戻ってしまった。

『 その黒縁メガネ、カッコいいですね。 』

( 本当は、メーカーとかレンズの研磨方法とかもっと沢山聞きたかったのに・・・ )

でも、吉田君も戸惑ってたみたいで、おどおどしていたのもちょっと可愛かったナ・・・。

( 仲良くなったら私の眼鏡も褒めてくれるかな・・・ )

そういえば、吉田君が朝のホームルームのギャグでみんなの爆笑をさらった時、なんだか自分だけの吉田君がみんなに取られたみたいで嫌だったな。

それに、その反応で浮かれて喜んでいる吉田君の顔も見たくなかったな。
もっとお笑い頑張って欲しいから、気が付いたら睨んじゃってたナ。

( あの時の漫才の方が面白かったんだよ、って )

( 何だろうこの気持ち・・・ )

( いつか仲良くなれるかな・・・ )



そろそろ時間かな。

劇の配役決めの際、さわこは書記を担当する事になっている。

いろんな委員会や担当があるが、さわこは意図的に時々立候補するようにしている。

こういう委員会等の担当は、決まらないといろいろと面倒だし、手を挙げない事が逆に人目をひく場合もあるので、書記という役回りはさわこにとっては願ってもない担当だった。

言われた事を書くだけでいいし、ほかの司会や発表などの目立つ役回りを避ける事もできるからだ。

文化祭でみんなと仲良くなれたらいいな。

本当は、女の子とも仲良くなりたい気持ちが強いのだが、過去の親友と思っていた女の子に裏切られた経験が邪魔をして女の子を簡単に信じられないようになってしまっていた。

それでも、このクラスの女の子はみんな良い人ばかりでそんな事をするようなクラスメイトではない事は、さわこ自身もよくわかっていたのだが、まだそこに踏み出す勇気は持てないでいた。何より皆が眩しくて直視できない事も大きな理由だった。



劇の配役が決まっていく。

文化祭へ色んな事が動き出していく。
さわこも、この機会に新しい自分になってみようと思ってみたり、思わなかったりしていた。

黒板に配役を書き出して、決まった担当者の名前を書いていく。

さわこは、劇全体を取り仕切る橋田壽賀美にだまって配役の一覧に勝手に”殺陣”を追加していた。

さわこ渾身のボケだったのだが、いろんな経験が浅すぎるさわこのボケはボケとして機能しなかった。壽賀美も殺陣などという配役がない事はわかっていたのだが、普段の関わりもあまりなく、どんな性格なのかもよくわからないさわこの渾身のボケは逆方向に作用して、ただただ不気味だった。

そして、何も知らない大門寺ナナコが殺陣の担当に名乗り出た事で、さわこ渾身のボケは完全に誰にも知られる事なく完璧に封殺されたのだった。

さわこはただただ恥ずかしかったし、穴があれば飛び込みたかった。

( 宇利君も吉田君も凄い・・・ )

普段から笑いを取っている二人への尊敬の念を更に強くしつつ、さわこの胸は期待に膨らんでいた。

目の前で繰り広げられる宇利と彩子の主役争奪戦をビン底黒縁眼鏡の奥からあまりの眩しさに直視できずに伏し目がちに観察しながらさわこは思った。

( みんなと仲良くなれるかな・・・ )

未だに見つからない”うりも”と、”あの人”に拾われたと思われる木札の行方は気になるものの、今はこの楽しいお祭り騒ぎを、さわこも一緒になって楽しみたかった。

さわこにとって、失い続けてきた人生の中でやっと見えてきた新しい希望だった。

( みんなと一緒に笑えたらいいな・・・ )



その日の放課後。

田梨木高校の校庭の外れ、人気ひとけのない焼却炉の傍に人影があった。

その人物は、何か小さなモノを焼却炉に放り込むと、足早にその場を立ち去って行った。




その光景を一匹の黒猫が、不思議そうに眺めながら校舎の方に歩いていく。



❝ ここが二本脚が集まっているガッコウという所か ❞





つづく

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今回は、以下の方に登場してもらいました。

▼ 宇利盛男役のうりもさん

▼ 吉田吉夫役のよしよしさん

▼ 貝差彩子役の彩夏さん

▼ 橋田壽賀子役のららみぃたんさん

▼ 大門寺ナナコ役のだいなさん

▼   屋上で歌う下級生(小室友美)役のTKさん


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