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人間は、何日眠らずにいられるのか? 約11日間起き続けた17歳

とある研究者 #003 |身近な疑問を、論文とデータで本気で調べる

徹夜をした翌日、頭がぼんやりして、簡単なことさえ考えにくくなった経験はありませんか?

私はあります。

たった一晩でも、かなりつらいんですよね……。

ところが、過去には約11日間、264時間にわたって起き続けたとして医学的に観察された人物がいます。

11日間。

夜を11回迎えても、眠らなかった計算です。

正直、私は長くても3日ほどが限界だと思っていました。11日という数字を見たときは、さすがに何か条件が違うのではないかと疑いました。

人間は、本当にそこまで眠らずにいられるのでしょうか。

そして、約11日間起き続けられたのなら、それが人間の限界なのでしょうか。

今回は、1960年代に報告された有名な事例と睡眠研究をもとに、人間は何日眠らずにいられるのかを調べました。

※この記事では、健康な人が自分の意思で起き続ける場合を扱います。不眠症や、遺伝性のプリオン病である「致死性家族性不眠症」は、健康な人の徹夜とは原因が異なるため、限界の記録には含めません。


先に答え:11日間の事例はある。でも、限界は分からない

先に結論からお伝えします。

約11日間起き続けたとして医学的に観察された事例はあります。
しかし、人間が完全に眠らずにいられる限界は分かっていません。

この事例の対象者は、当時17歳だったランディ・ガードナーです。

医学報告に記録された時間は、264時間。日数にすると、ちょうど11日ほどになります。

こうして並べると、264時間がどれほど長いか分かります。丸一日の徹夜を、さらに10回繰り返すような長さです。

ただし、ここで気をつけたいことがあります。

264時間は、人間の限界を測った数字ではありません。

「約11日間起きていた事例がある」と「人間は最大11日間まで起きていられる」は、まったく別の話なんです。

約11日間、起き続けた17歳

この出来事は、1963年末から1964年初めにかけて行われました。

ランディ・ガードナーは高校の科学研究として、友人たちの協力を得ながら、どこまで起き続けられるかに挑戦しました。途中からは、睡眠研究者のウィリアム・デメントらも観察に加わっています。

その後、ガードナーの状態と回復睡眠の脳波は医学論文として報告されました。

論文には、264時間の断眠中に、睡眠不足でよく見られるさまざまな行動上の変化が現れたと記されています。一方で、著者らが「睡眠不足による精神病」と呼ぶ状態には至らなかったとも報告されています。

つまり、ネットでときどき見かける、

11日間眠らないと、人は完全に正気を失う

という単純な話ではありません。

もちろん、「大きな問題がなかった」という意味でもありません。長時間の睡眠不足では、集中、記憶、気分、知覚、言葉や計算など、起きて活動するためのさまざまな機能が崩れていきます。

ただし、この図は「何時間後に必ずこの症状が出る」という時間表ではありません。睡眠不足への弱さには大きな個人差があるためです。

同じ時間だけ眠らなくても、影響の出方は全員同じではありません。

では、「11日」が人間の限界なのか?

約11日間起き続けられたのなら、人間の限界は11日前後なのでしょうか。

残念ながら、そうは言えません。

理由は、大きく三つあります。

1.一人の事例だけでは、人類の限界を決められない

睡眠不足への反応には個人差があります。

年齢、体質、健康状態、周囲の環境などが違えば、同じ時間だけ起きていても影響は変わります。

17歳の一人が264時間起き続けたからといって、それをすべての人に当てはめることはできません。

2.264時間で「限界に達した」わけではない

ガードナーは、264時間で挑戦を終えました。

しかし、その瞬間に体が起きていられなくなったから終了したわけではありません。

つまり、264時間は到達した時間であって、それ以上は絶対に不可能だと確認された時間ではないのです。

3.限界まで続ける実験はできない

では、健康な人を本当に起きていられなくなるまで観察すれば、限界が分かるのでしょうか。

理屈の上では、そう考えたくなります。

でも、深刻な健康被害や事故につながる実験を、死亡や意識障害が起こるまで続けることはできません。

そのため、人間について「何日目が絶対的な限界か」を確かめるデータは得られないのです。

ここまでの結論は、はっきりしています。

264時間は、確認された長時間の事例。人間が耐えられる最大時間ではない。

そもそも、「一睡もしない」は証明できるのか?

調べていて、私はここが一番気になりました。

外から見て起きている人は、本当に一秒も眠っていないのでしょうか。

実は、睡眠不足が強くなると、本人の意思とは関係なく、数秒ほどの非常に短い睡眠が入り込むことがあります。

これが、マイクロスリープです。

マイクロスリープは、本人が眠ったことに気づかない場合があります。さらに、目が開いていて、一見すると起きているように見えることさえあります。

体は起きているように見える。

でも、脳は外から入ってくる情報を処理できていない。

……そんな状態が起こり得るんです。

ここは慎重に区別する必要があります。

ランディ・ガードナーにマイクロスリープが起きていた、と断定できるわけではありません。

問題は、264時間の全期間を、現在の方法で脳波などにより連続測定したわけではないことです。

周囲の人が見守っていても、数秒の睡眠をすべて見抜くことはできません。そのため、「一瞬も眠らなかった」と厳密に証明するのは難しいのです。

最初は「何日まで耐えられるか」という単純な疑問でした。

ところが調べていくと、そもそも“完全に起きている”とは何かという問題にたどり着きました。

本当に身近で怖いのは、11日間の徹夜ではない

ここまで読んで、

さすがに11日間も徹夜しないから、自分には関係ない

と思った方もいるかもしれません。

私も最初は、かなり特殊な記録の話だと思っていました。

でも、睡眠研究を調べると、むしろ日常的な寝不足の方が他人事ではありませんでした。

Van Dongenらは、健康な成人を、1日あたりのベッド上の時間が4時間、6時間、8時間となる条件に分け、それを14日間続けて認知課題の成績を調べました。別の実験では、最大3日間の完全徹夜とも比較しています。

その結果、4時間または6時間の条件では、日を追うごとに認知機能の低下が積み重なりました。

研究全体の結論では、1日6時間以下に制限された睡眠を続けると、最大で2晩の完全徹夜に相当する認知機能の低下が生じ得るとされています。

さらに気になるのは、本人が感じる眠気です。

主観的な眠気は最初に強くなったものの、その後の増加は比較的小さく、
4時間条件と6時間条件をはっきり区別しませんでした。
一方、客観的な課題成績は悪化を続けていました。

つまり、

寝不足の感覚に慣れても、脳の働きまで元に戻ったとは限らない。

ということです。

「徹夜さえしなければ大丈夫」とは限りません。

毎日少しずつ足りない睡眠も、気づかないうちに積み重なっていく可能性があります。

眠らないと、人は死ぬのか?

ここまで来ると、もう一つ気になる疑問があります。

人間は、眠らないと死ぬのでしょうか。

結論から言うと、健康な人が睡眠不足だけで何日目に死亡するのかは分かっていません。

人を死亡するまで眠らせない実験はできないからです。

動物実験の結果を、そのまま人間の日数へ置き換えることもできません。また、「致死性家族性不眠症」は睡眠だけの問題ではなく、脳に異常なプリオン蛋白が蓄積して進行する病気です。健康な人の徹夜とは分けて考える必要があります。

ただし、「死亡までの日数が分からない=そこまでは安全」という意味ではありません。

睡眠不足は、限界よりはるかに前から、注意、判断、反応に影響します。
特に運転中のマイクロスリープは、わずか数秒でも重大な事故につながります。

答えの分からない限界へ近づく前に、すでに現実的な危険は始まっているのです。

絶対に真似しないでください

今回紹介した264時間は、挑戦するための目標ではありません。

  • 長時間起き続ける記録へ挑戦しない

  • 強い眠気がある状態で車や自転車を運転しない

  • カフェインで眠気が薄れても、能力が完全に戻ったと考えない

  • 意識の混乱、知覚の異常、強い体調不良がある場合は無理を続けない

  • 不眠が続き、日常生活に支障が出ている場合は医療機関へ相談する

マイクロスリープは、自分の意思だけでは防げず、本人が気づかないこともあります。

「まだ起きていられる」という感覚を、安全の証拠にはしないでください。

最終回答:人間は、何日眠らずにいられるのか?

約264時間、つまり約11日間起き続けたとして、医学的に観察された有名な事例があります。

しかし、これは人間の絶対的な限界ではありません。

この挑戦は、限界に達したから終わったわけではありません。また、一人の事例だけで、人間全体の限界を決めることもできません。

さらに、睡眠不足が続くと、本人が気づかない数秒程度の睡眠「マイクロスリープ」が起こる可能性があります。

そのため、長時間の挑戦で「一瞬も眠らなかった」と完全に証明すること自体が難しいのです。

したがって、現時点での答えは、

約11日間起き続けた事例は確認されている。しかし、人間が完全に眠らずにいられる限界は分かっていない。

となります。

そして、私たちにとって本当に身近なのは、11日間の徹夜ではありません。

毎日の睡眠が少しずつ足りないだけでも、本人が思っている以上に、注意力や判断力が低下していく可能性があります。

もし誰かに一つだけ話すなら、こう伝えてみてください。

人間には約11日間起き続けた事例がある。
ただし、それは人間の限界ではなく、完全に一睡もしなかったと証明することも難しい。

脳は、私たちの意思だけで、いつまでも起こしておけるものではなかったんです。

次回:人間は、何℃の暑さまで耐えられるのか?

第1回から第3回では、息止めと睡眠を通して、人間の限界を調べてきました。

では、次は夏に身近な「暑さの限界」を見てみましょう。

気温35℃を超える猛暑日でも、私たちは外で生活しています。

一方、サウナでは80℃を超える空間に入ることもあります。

それなら、人間は何℃の暑さまで耐えられるのでしょうか?

調べてみると、人間が耐えられる暑さは、気温だけでは決まりませんでした。

湿度や風、日差し、滞在時間によって、体への負担は大きく変わります。

そして、人間の限界としてよく挙げられるのが、**「湿球温度35℃」**という数字です。

次回は、研究データを手がかりに、

  • 人間は何℃の暑さまで耐えられるのか

  • 気温だけでなく、湿度が重要なのはなぜか

  • 「湿球温度35℃」は本当に人間の限界なのか

を、本気で調べます。

ほかにも「本気で調べたら面白そうな疑問」があれば、ぜひコメントで教えてください。

あなたの疑問が、次の研究テーマになるかもしれません。


主な出典

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