【第8話】『息子の奇跡の軌跡』〜不安よりも信頼を胸に、小さな命と歩んだ日々〜
高卒認定試験を全科目一発合格で突破し、高額な塾代にパパと二人で頭を抱えながらも(笑)、息子は「京大合格」という大きな夢に向かって、一歩一歩、確実に前へと進んでいました。
しかし、2021年の夏。そんな息子の行く手を阻むように、またしても不整脈の発作が頻発するようになってしまったのです。
「このままじゃ、思うように受験勉強に集中できない……」
大学受験という人生の大きな勝負を翌年に見据え、私たちは思い切って、主治医の先生と相談し、不整脈の根本的な原因をカテーテルで治療する「アブレーション手術」をすることに決めました。
あくまで「受験の年までに、この苦しい発作を完全に治してあげたい」という、親心と息子の強い願いを込めた決断でした。
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。
手術に挑んだものの、息子の不整脈の原因となっている場所が想像以上に悪い位置にあり、思うような処置ができなかったのです。結果、手術からわずか2週間ほどで不整脈は再発。そればかりか、まともに塾へ通うことすらできないほど、体調は悪化していってしまいました。
進んでいくカレンダーと、思い通りに動かない息子の体。
そして迎えた2022年12月。
受験のためのアブレーションが失敗に終わり、そこからの薬物治療もうまくいかないまま、あろうことか大学受験の「共通テスト」を目前に控えた一番大切な時期に、息子は最悪の事態で入院することになってしまったのです。
この時の私の心の中は、不安と、そして言葉にできない激しい怒りでいっぱいでした。
病院で仕事をしている私は、自分の職場の薬剤師の仲間たちにも色々と相談し、専門的な視点から「このお薬の組み合わせはどうですか?」と治療の提案をしたりもしました。それなのに、息子の主治医の先生はお薬をうまく調節することができず、一向に不整脈をよくしてくれないのです。
塾にも行けず、共通テスト直前という一番焦る時期に入院させられている息子の姿を見て、私は主治医に対して「どうしてちゃんと薬を合わせてくれないの!?」と、激しいイラ立ちを覚えたのを今でも鮮明に覚えています。母親として、そして医療の現場を知る一人の人間として、やり場のないもどかしさに胸が引き裂かれそうでした。
病気のせいで、思うように勉強ができない。体調がコントロールできない。
そんな出口の見えない暗闇の中で、息子は模試で「京大B判定」という素晴らしい結果を叩き出すところまで、死に物狂いで食らいついていました。
這いつくばるようにして努力を続け、合格の手前まで手を伸ばしていた息子。
そんな彼の心が、度重なる不整脈の再発と直前の入院によって、どれほど深く、静かに傷ついていたのか――。当時の私は、まだ本当の意味では気づけていなかったのかもしれません。
私たちは、共通テスト前日という、運命の夜を迎えることになります。
(第9話へつづく)
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