ジェンスン・ファンが台湾を熱狂させた14日間 - NVIDIA GTC Taipei 2026
2026年5月23日から6月5日までの14日間、台北は連日、米半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)と同社の創業者・黄仁勲(ジェンスン・ファン)CEOの話題でもちきりでした。ジェンスン・ファンCEOは昨年に引き続き、今年も自社主催イベント「NVIDIA GTC Taipei」に合わせて来台。会場を、台北の街を賑わせました。
NVIDIA GTC Taipei 2026、今年も開催
2026年6月1日から開催される自社主催イベント「NVIDIA GTC Taipei 2026」、同月2日から開催される展示会「Computex (台北国際コンピューター展)」にあわせて、NVIDIA(エヌビディア)の創業者で社長の黄仁勲(ジェンスン・ファン)CEOが5月23日、プライベートジェットで来台しました。到着日の23日から31日まで、ジェンスン・ファンCEOは台湾のAIサプライチェーンを支える経営トップたちと連日のように会談や会食を行っていました。
到着後、台湾IT業界トップと会食
ジェンスン・ファンCEOが台湾に到着した翌日、5月24日はTSMC創業者張忠謀(モリス・チャン)氏の自宅を訪問しています。その模様は台湾メディア各社が報道しました。
時価総額を合わせると数兆台湾ドル企業の経営者と会食
翌日以降もジェンスン・ファンCEOは精力的に会談を重ねました。中でも台湾で大きな話題となったのは昨年に引き続き、今年も行われた「兆元宴」と呼ばれる会食です。
台北市内のレトロ台菜レストラン「磚窯古早味懷舊餐廳」で5月28日に開催された会食は通称「兆元宴」。つまり出席する企業の時価総額を合わせると数兆台湾ドル(日本円で数十兆〜百兆円規模)に達する企業の経営者が一堂に会するという会合。ファウンドリー、サーバーメーカー、システムなど、台湾のIT業界の重鎮が参加していました。

・台積電(TSMC): 魏哲家 董事長
・広達電脳(Quanta Computer): 林百里 董事長、梁次震 副董事長
・鴻海精密工業(Foxconn): 劉揚偉 董事長
・聯発科(MediaTek): 蔡力行CEO
・緯創資通(Wistron): 林憲銘 董事長
・華碩電脳(ASUS): 施崇棠 董事長
・和碩聯合科技(Pegatron): 童子賢 董事長
・仁宝電脳(Compal): 陳瑞聰 董事長
・英業達(Inventec): 葉力誠 董事長
・宏碁(Acer): 陳俊聖 董事長
・微星科技(MSI): 徐祥 董事長
・技嘉科技(GIGABYTE): 林英宇 共同総経理
・緯穎科技(Wiwynn): 洪麗甯 董事長
・雲達科技(QCT): 楊麒令 総経理
・台達電子(Delta Electronics): 鄭平 董事長
・光宝科技(LiteOn): 邱森彬 総経理
・奇鋐科技(AVC): 沈慶行 董事長
・智邦科技(Accton): 李訓德 総経理
・欣興電子(Unimicron): 曾子章 董事長
・勝宏科技(Victory Giant Technology): 陳濤 創業者
・矽品精密工業(SPIL): 蔡祺文 董事長
・京元電子(KYEC): 張高薰 総経理
・アドバンテック(研華): 張家豪 総経理
これだけのメンバーが集まった料理店、値段を見ればわかるように決して高級なお店ではないのです。
このお店、昔ながらの台湾料理やレトロな雰囲気を味わえる料理店として、知られています。
中国のプリント基板メーカー創業者も参加
この「兆元宴」に中華人民共和国のプリント基板メーカー・勝宏科技の創業者である陳濤氏が参加しています。
陳濤氏はもちろん台湾人ではありません。しかし、高性能プリント基板は中華人民共和国に生産が集中していること、その中で同社がNVIDIAのAIサーバー向けサプライヤーとして重要な役割を果たしていることから参加されていたといわれています。
Constellation(コンステレーション)の発表会に参加したファンCEO
昨年、2025年5月、コンピューター関連の展示会「Computex」の開催にあわせて開催された「GTC Taipei 2025」の基調講演で発表されたのが、NVIDIA台湾新本社、アジアにおけるAI開発拠点とする「Constellation(コンステレーション、星座)」。

建設に際して、建設予定地を所有する台北市、地上権を所有していた新光保険グループ、それに建設を目指していたNVIDIA、3社間の交渉はもつれていましたが、2025年10月、台北市が新光との契約を解除。台湾経済部が11月に認可し、2026年2月に台北市とNVIDAが契約を締結し、2030年の完成に向けて、プロジェクトが動き出し始めました。

5月27日、現地で行われた発表会で、ファンCEOは新オフィスを「リモートワークしたくなくなるオフィス」と紹介。また、エレベーターを設置しないと宣言しています。「エレベーターを待つのも、エレベーターに乗ってから目的の階に到着するのを待つのも嫌」とその理由を説明しました。
この発表会では蒋萬安台北市長が登壇し、ファンCEOに栄誉市民の称号を授与しています。
2026年のGTC Taipeiで発表された製品・技術

今年のNVIDIA GTC Taipei、開幕に先駆けて5月31日、台北市南港区の台北流行音楽中心でファンCEOによる基調講演が開催され、多くの新製品・技術が発表されました。
ファンCEOお気に入りのお店紹介から始まったNVIDIA GTC Taipei 2026

昨年同様、CGで作り込まれたオープニングムービーの後に登場してきたNVIDIAの創業者、ファンCEO。スクリーンに投影されたのはNVIDIAが、ファンCEOがお世話になった各社のロゴでした。その中にあった4つが紹介されたとき、会場は笑いと和やかな雰囲気に包まれたのでした。




画像をクリックするとお店の様子をみることができます。どのお店も台湾人にとって庶民的な料理店であり、こういったお店を「パートナー」として紹介するところがファンCEOの人気につながっているのです。
ファンCEOが定義した「AI Factory」はトークンを生産する
ファンCEOお気に入りのお店紹介から始まった基調講演。トレードマークとなった黒いライダースジャケットをまとったファンCEOはプレゼンテーションを始めます。
まず紹介したのが、AI時代のデータセンターを「トークン」を生産する「AI Factory(AI工場)」として位置付ける考え方です。トークンはファンCEOがさまざまな講演で用いるキーワードで、AIにおけるデータの最小単位を指します。次世代の産業はこのトークンを生産する工場になるという考え方だと説明しました。
LLMからエージェント型「Agentic AI」の時代へ
ファンCEOがこの基調講演で強く訴えたのが「これからAIは対話型のLLMから自律型のAgentic AI(エージェント型AI)へと進化していく」というAIの未来像でした。しかし、エージェント型AIと聞いても、これまでのAIとの違い、多くの人はイメージが湧きにくいのではないでしょうか。
これまでのAIはLLMと呼ばれるものでユーザーの質問に対して、回答となるテキストを生成するだけでした。これに対して、ファンCEOが次世代のAIとして紹介したエージェント型AIはユーザーの要望に応じて自ら考え、ツールを使って行動・実行します。その背景でNVIDIAのGPUと呼ばれるチップが大量の計算処理を担います。
たとえば「来週の会議の準備をしておいて」と指示を出せば、AIが自律的に関連するデータをリサーチして資料を作成し、関係者にメールでアジェンダを送り、空いている会議室を予約する、あるいはZoomやGoogle Meetのスケジュールを設定して、連絡するといった、有能な秘書の役割を果たしてくれる、これでイメージが湧いてくるのではないでしょうか。
あるいは「来週の出張準備をして 」と指示を出すと、AIが自律的にスケジュールを確認し、必要なフライトとホテルを調べ、ブラウザをAIが起動して、航空券とホテルの候補を検索して、予算も考慮して上で移動効率が悪ければ、AIがよりコストパフォーマンスがよい別ルートを調べ直し、確定させて予約を行い、社内の承認システムに申請を出して、自動的に決済して、カレンダーに予定を同期する、こういったことまでを一気にやってくれるようになるのがエージェント型AIです。
AIスーパーコンピューター用プラットフォーム「Vera Rubin(ベラ・ルービン)」

こういったエージェント型AIを利用するためのAI Factoryで中核を成すのが、2025年のGTCで発表された「Rubin」を進化させたという、次世代超巨大AIスーパーコンピューター用プラットフォーム「Vera Rubin(ベラ・ルービン)」です。
NVIDIAによるAIサーバーのプラットフォーム「Blackwell」の次の世代であり、Agentic AI時代の基盤となるものです。
この名前、実在したアメリカの女性天文学者、ヴェラ・ルービンさんの名前が由来となっています。ヴェラ・ルービンさんは「ダークマター(暗黒物質)」の実証をしたことで知られています。
「目に見えないけれど、ものすごい質量を持っている」という暗黒物質、「目的を達成するために裏で莫大な量の計算を行っている」というAIスーパーコンピューター用プラットフォーム、ということで「ベラ・ルービン」と命名されたのです。
データセンター向けCPU「Vera CPU」

Vera Rubinプラットフォームのサーバーシステムに搭載されるのが「Vera CPU」です。ファンCEOは「自律的に動くエージェント型AIや次世代AIインフラに特化したデータセンター向けのCPU」として紹介しました。つまり自分で考えて行動してくれるAIの頭脳となります。
次世代AIサーバーであるVera Rubinでは専用に開発されたVera CPUが複雑な段取りや命令などを行い、AIによる学習や推論は同じくNVIDIA製のGPUが行います。CPUとGPUが同じNVIDIA製となり、NVIDIAの独自技術で直結されたことから、処理速度が大幅にスピードアップする、とファンCEOはアピールしました。
これまでサーバー用のCPUとして使われてきたのはインテルやAMD製でした。これに対してNVIDIAが勝負してきた、といえるのではないでしょうか。
DSX AIエコファクトリーは世界規模の企業連携ネットワーク

今回のGTC Taipei 2026ではAIデータセンター(AIファクトリー)を建設・運営するための世界規模の企業連携ネットワークである「DSX AIファクトリー・エコシステム」も話題の中心となりました。
その連携先としてスクリーンの映し出された中には少ないのですが日系企業のロゴがありました。AIクラウド分野でGMOインターネット、エネルギーと冷却システム分野で日立製作所と三菱電機、またインフラ・設備分野ではNTTが仲間入りしています。
GPUだけでなく、電源設備、冷却設備、通信網、運用ソフトウェアまで含めてAIファクトリーを構築するためのエコシステムがこの「DSX AIエコファクトリー」なのです。
AI PC向けプロセッサー「RTX SPARK」、ライバルはアップル?

ファンCEOはGTC Taipei 2026でマイクロソフトとの協業を宣言。昨年のGTC Taipeiで開発計画が明らかにされたAI PC向けプロセッサーが「RTX SPARK」として完成したことを報告しました。
「RTX SPARK」はスマートフォン向けのチップで圧倒的なシェアを誇る台湾のファブレス半導体メーカーのMediaTek(メディアテック)とNVIDIAがタッグを組み、英ARM社の設計をベースにして、「Grace CPU」と「BlackwellアーキテクチャRTX GPU」を1つのチップに融合。台湾の半導体受託製造会社TSMCで生産された3ナノメートルプロセスのチップです。

最大の特徴はクラウド上の大規模AI環境に匹敵する処理能力を1枚のチップに凝縮して載せているということ。しかもこの「RTX SPARK」搭載パソコンは低消費電力なのです。
「1枚のチップに凝縮した」「低消費電力」と聞いて、アップルコンピュータがプレミアムノートPCのMacBookに搭載しているチップ、「Mシリーズ」の対抗馬、ライバルとなるのでは、と思う方もいるでしょう。
おそらくその通りです。このRTX SPARKもアップルのMシリーズ同様、CPU、GPU、超高速な共有メモリーであるユニファイドメモリーで構成されます。しかもマイクロソフトのOSであるウインドウズがこのRTX SPARKに最適化させています。
「RTX SPARK」搭載のパソコンはSurface、ASUS、MSI、Lenovo、Dell、HPなどから今年秋に発売することが公表されています。
自動運転で協業するメーカーの中には日産自動車のロゴが

さらには自動運転の「NVIDIA DRIVE Hyperion Robotaxi Platform」、人型ロボット「Isaac GR00T」、デジタルツインの最新デモなども公開されました。
自動運転の協業パートナーとして公表された企業の中にはドイツのメルセデスベンツや欧州自動車メーカー連合体のステランティス、中国のBYDなどと並んで、2026年3月、すでに発表されていたとおり、日本の自動車メーカーで唯一、日産自動車やいすゞ自動車のロゴが映し出されました。
NVIDIA GTC Taipeiは大盛況でComputexにつなぐ

NVIDIA GTC Taipei 2026の基調講演、最後は今回発表した製品群をまとめて紹介するものでした。次々とでてくる発表、サプライチェーンの中核となるのが台湾企業です。翌日から開催されたコンピューター関連の展示会「Computex 2026」もNVIDIA祭りではないか、というくらい、各社NVIDIAとの親密さをアピールするような展示となっていたのでした。
NVIDIAが発表した「Vera Rubin」「Vera CPU」「DSX AIファクトリー・エコシステム」「RTX SPARK」、そのいずれにも台湾企業が深く関与しています。AI時代の主役は米国のNVIDIA、そして同社を率いているのはルーツを台湾に持つジェンスン・ファンCEO。AIを支えているのは台湾、そして台湾の半導体・電子機器サプライチェーンであることを、GTC Taipei 2026は改めて印象づけるイベントとなったといえるのではないでしょうか。
