#14 ルックス重視の代償
「ねえ、店長って馬鹿なの?」
それまで温厚だと思っていた男性上司に言われた言葉だ。それは冗談めいた口調ではなく、マジなトーンだった。
当時私は24歳で、赤文字系アパレルブランドの店長に就任し、売り上げもなかなか好調。正直「私ってできる人間じゃーん」なんて、ちょっと浮かれていたときだった。
上司の逆鱗に触れたのは、私のアルバイト採用の結果についてだった。
私の店の売上が好調だったので、本部から10万円ほどのアルバイト採用の予算がおり、タウンワークや求人案内など、紙媒体の求人雑誌に掲載してもらえたのだ。(当時はスマホなんてない時代なので、フリーペーパーで募集するのが主流だった。)
その求人情報を見ての応募の件数は30件ほどで、私は応募してくれた人たち全員と面接をした。数字にしてみると、1人15分の面接と仮定しても合計7.5時間ほど。忙しい仕事の合間をぬいながら2週間かけて面接を繰り返し、やっと30名の中から2名を選んだ。
「アルバイトさん、決まりました!さっすがタウンワークですね!もう応募者がすごくて、私だいぶ面接官スキルが身につきましたよー」
なんて上司に笑って報告したとき、冒頭の「馬鹿なの?」という言葉で空気が一変した。
「あのさ、店長が採用した子って2人とも学生だよ?しかも大学3年生。つまり試験期間や就活やらの時期に、同時に2人ともい・な・く・な・る!ってこと。考えたら分かるよね?だいたいさ、なんで30人も来たのに、この2人を採用したの?!」
私は上司の指摘に何も言えないでいた。
採用理由・・・それは100%ルックスだった。採用した学生は2人とも165センチ以上で手足がすらっと長く、なおかつ顔も可愛くて読者モデルばりのルックスだったのである。私は面接の時点で、この2人は採用と決めていた。
「こんな子にうちのブランドの服を着こなしてほしい!」ただそれだけの理由で採用した。
よって上司からの指摘で初めて、同学年の学生2人を雇うリスクに気づいたのだ。
「はあああ、もう僕も面接に立ち会えばよかったよ。まあしょうがないよね、新人店長だから、採用とかまで任せちゃった僕が悪いんだよね」
こんな上司の言葉に一瞬落ち込んだが、なにくそ精神が強かった当時の私は「大丈夫ですう!売り上げは必ずアップさせますからあ!」と気持ち悪いくらいの作り笑いを返した。
そして上司の予想は見事に的中。
試験期間や大型連休は2人とも同時に休みたいという日もあり、パーフェクトなシフトは作れなかった。もうそこは『必殺、サービス残業!』で乗り越える。そしてしばらくは「自分の首を自分でしめるとはこのことか」と毎晩23時まで思い知らされることとなった。
しかし、アルバイト採用から1ケ月ほど過ぎた頃、月の売上報告を深夜にまとめていたら、驚くべき事実が判明した。
日々の忙しさで数字の管理を怠っていた私だったが、きちんと計算してみると、その月の売上は前年比の130%という数字をたたき出していたのだ。細かく分析すると、売り上げが高かった日は、全て新しく採用したアルバイト2人が入っていたシフトの日。そして売れているのも、アルバイト2人が着ていたトップスとボトムス。私がおおよそで把握していた3倍の枚数は売れていた。
私がその2人と一緒に入っているときは顧客様に「あのスタッフが着ているのがこちらなんですよ」と商品を勧めることがあっても、新人アルバイトの2人はまだ笑顔でお店に立っているのがやっと。つまり彼女たちの接客で売れているわけではない。
さらに私がいない日も、この2人の着用アイテムは売れている。そこで私は気づいた。
「マネキンを増やしたからか」
私の任されているお店は、ストックルーム含め20㎡に満たない狭いお店だった。
よってメインのマネキンは2体しかなく、サブマネキンは奥に引っ込めて配置されていた。
つまり、狭い店舗ではたくさんのマネキンを置けないというリスクを、新人アルバイトの2人がカバーしてくれていたのだ。
なんせ2人はスタイルも顔も良い。店の前を歩く人が二度見してしまうほどのルックスだった。
さらにマネキンよりも実際の着こなしを360°確認できるので、お客様にとっては着こなしのイメージが湧きやすい。試着室はあまり稼働することなく売れていた。
月報を提出した数日後、私は上司に「新人アルバイトさん、2人ともすごーく頑張ってくれて売上あがったんですよー」と伝えた。
上司は「あ、そ。良かったね」と作り笑いを浮かべながら、月報や週報に捺印していた。
おそらくドヤ顔の私にムカついているであろう上司に「じゃ、休憩入りますね」とバックヤードに入った私。だが、ランチの前にやらねばならぬのは、日々のサービス残業でこしらえたクマをコンシーラーで隠す作業。これが、1年続いた。
さらに採用から1年半後、アルバイト2人が就活を理由に同時に退職するというパンチをくらう。
本当は指摘されたときから、うすうす気づいていた。助言を無視して強行突破した私は、上司の言う通り、馬鹿だった。
しかし、馬鹿な自分を認めたくない気持ちから、必死にサービス残業をし、「私の採用を正解にしてやる!」という精神で耐え忍んだ。
そして「今後は二度とルックスだけで採用なんてしちゃだめだ」と、誰にも言えない反省を、私は心に刻んだ。
そんな私も、28歳のとき結婚を機にアパレル企業を退職した。
しかし、私はまたやらかしたのだ。
私の夫は、身内だからと遠慮せずに言ってしまえば、控えめに言って(出会った当初は)玉山鉄二似のイケメンだった。しかし何を隠そう、結婚生活10年のうち5年間は無職だったのである。
やはりルックスを重視した人生の代償は大きい。
