ある日の夕方の帰り道
大学時代、私は大学の近くに下宿していた。
月々5万円の古いマンション。
大学には実家から通える距離だが
「1人暮らしをしてみたい」という気持ちがあった。
その代わり、「仕送りは無し」というのが親からの条件だった。
そのため、土日はフルタイムでバイトをした。
実家の近くの家電量販店。
時給が高いことが決め手だった。
そのバイト先に彼女がいた。
背は低め、黒髪ロングを後ろに縛り、目が大きい。
小動物を思わせるような子だ。
容姿なのか雰囲気なのか笑顔なのか。
私は自然と彼女のことを目で追うようになっていた。
バイト以外では全く接点がない彼女と
どのようにして仲良くなればいいのか。
大学生の私には大問題だ。
朝、会ったときのあいさつ。
バイトで分からないことを教えてもらう。
逆に彼女が困っていたら手伝う。
帰りのときもあいさつ。
バイトの合間に他愛のない会話もした。
彼女は職場の近くに住んでいること。
大学は私と同じ他県にあること。
同じ理系大学生であること。
共通点を認識すればするほど、
惹かれていった。
当時は分からなかったが、今はそう思う。
・・・
ある日のバイトの休み時間に休憩室に行くと彼女がいた。
彼女はひとり。
狭い休憩室の中、人口密度はとても高い。
彼女の隣が空いていた。
スッと隣に座った。
と書けたらどんなに良かったか。
ためらっている間に席は埋まってしまった。
・・・
バイトからの帰り道、そこには彼女の姿があった。
彼女の帰る方向は私と同じだった。
ここで声を掛けないと…
「あの⋯、もしかしてこっちの方向ですか?」
「そうですよ」
「僕もこっちなんですよ。途中まで一緒ににいいですか?」
「いいですよ」
この時、何を喋ったのかは覚えていない。
ただLINEの連絡先はスマホが覚えていた。
・・・
LINEでのやり取り。
バイト先での会話。
日々を重ねていった。
もっと同じ時間を一緒に過ごしていたくなっていた。
「お好み焼き作るの得意なんだ。
もしよかったら今度食べに来ない?」
「いいよ」
誘ってしまった。
自分で誘っておきながら
どうしようもなく動揺していた。
女性を下宿先に誘ったのは初めてだった。
・・・
その日は思ったよりもすぐにやってきた。
「実は、すった長芋と溶かしバターを
生地にいれると美味しいんだ!」
特性お好み焼きの完成である。
コタツに横並びで2人で入り、一緒にお好み焼きを食べた。
彼女も美味しそうに全部食べてくれた。
時間はゆっくりと、しかし、確実に流れていった。
このまま彼女をただ帰したくない。
時間に背中を押され、彼女の後ろに座わった。
後ろから首に腕を回し、抱きついた。
「好きなんだ」
彼女からは否定の言葉はなかった。
肯定の言葉もなかった。
そのまま時間は過ぎていった。
何分経ったのだろうか。
日が傾いてきていた。
もう帰る時間になっていた。
「駅まで送っていくよ」
「ありがとう」
外に出ると少し肌寒さを感じた。
彼女はゆっくり歩いていた。
僕も合わせてゆっくり歩いた。
歩きながら彼女が左手を少しこちら側に出してきた。
僕は自然にその手をとった。
指が絡み合った。
その日、彼女は僕の『彼女』になった。
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