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ある船乗りの忘れられない恋バナ

前回の記事で予告した通り、先輩から託された話を書かせてもらう。

彼は若い頃、船乗りとして世界中の港を渡り歩いていた。
当時の船乗りは、一年の大半を海の上で過ごす。
その間は当然、家族や恋人とは会えない日々が続くのだ。
寄港地から手紙を送り、帰国してようやく会える。
そういう生き方だった。

その宿命が、恋愛にも深い影を落としていた。

彼には、同時期に気になる女性が二人いた。
K子さんとM子さんだ。
航海中、二人から手紙が届いた。

K子さんからは「もし結婚しても、傍にアナタがいない生活なんて耐えられない」と。
M子さんからは「お兄ちゃんのお嫁さんになりたいと言ったら、どんな顔をするかしら」と。

その手紙を読んで、彼の心はM子さんへ傾いた。

しかしM子さんとの交際には、やっかいな邪魔者が立ちはだかっていた。
M子さんの義理の叔母にあたる女性だ。
「船乗り家庭の辛さや惨めさ」を切々と語り、姪をそんな目に遭わせたくないと言った。
博多でのデートに同席してきた叔母は、二人に「よく話し合ってください」と言い残して去って行った。

二人で話し合って出した結論は、M子さんが叔母の意見に従うというものだった。
「幸せになってね」という言葉を残して、博多駅で別れた。

その後、紆余曲折を経て一度は復縁し、結納まで進んだ。
しかし、またしても叔母の猛烈な反対により、結局、完全に別れることになった。

アメリカ航路を終えて帰国した彼のもとに、M子さんから分厚い手紙が届いていた。
「将来、お兄ちゃんと別れたことを後悔するかもしれない。そのときは、自分で選んだ道だからと自分に言い聞かせます」と書かれていた。

その手紙への返事は、書かなかった。

その後、彼はS子さんという明るく気さくな女性と出会い、結婚した。
一度会っただけで、すぐにファンになったという。

その後、時代は平成に変わり、彼は、船乗りからテレビの世界へと転身することとなる。

ある日、彼は仕事で訪れた地で、道端にいた初老の男性と目が合った。
M子さんの父親だった。
お互いに「ハッ」とした表情になったが、彼の乗った車は発車してしまった。

「他の人が同乗していなければ、M子のその後の消息をお聞きしたかったです」
先輩の手紙は、その言葉で締めくくられていた。

船乗りという宿命が、何度も恋愛を引き裂いた。
その甘酸っぱい思い出を、先輩は病床の中で綴り、私に託してくれた。

この話を拝読して、私は思った。
人生というのは、答え合わせのできない問題が多すぎる。
でも、その問いを抱えたまま生きていくことが、人間であるがゆえの宿命なのかもしれない。

事実は小説より奇なりというが、まるでドラマのような素敵な話を聞かせてもらった。

その話を私に託してくれたことに、心から感謝したい。

先輩、ありがとうございました。

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