あべにうの炭火は、秋葉原の奥でゆっくり話す
駅前の光がまだ背中に残っているのに、少し路地へ入るだけで街の音は不思議と遠くなる。秋葉原という速い街のそばに、魚を焼く匂いだけが時間をゆるめる場所がある。便利な店を探していたはずなのに、気づけば今日はきちんと食べたいと思っている。
駅前の熱から、少しだけ外れる
秋葉原の賑わいから少し離れると、神田佐久間河岸の空気は急に静かになる。その一角に、魚のうまさを知る人がふらりと戻ってくる店がある。
「炭火焼 築地本鮪 あべにう 秋葉原店」は、にぎやかな街のすぐそばで少し違う時間を持っている。食べログでも高い評価を集めているが、数字より先に炭の匂いが店の記憶になる。
毎朝、豊洲市場で魚を見て、選び、店へ運ぶという当たり前の手間がここには残っている。皿の上に並ぶ魚は派手に語らず、身の張りや脂の光り方でその日の顔を見せる。
本マグロは、静かに主役でいる
築地の流れをくむ本マグロは、この店の真ん中に静かに置かれている存在だ。流行の料理ではなく、長く食べられてきたものが、炭火の前で少しだけ表情を変える。
看板の本鮪大とろカマ炭火焼は、名前を聞いただけで腹の奥が少し動く。脂を含んだカマが炭火で焼かれ、外は香ばしく、中は箸でほどけるように崩れていく。
値段は小800円ほどから大1500円ほどまでで、気軽さと満足感の間に置かれている。高いものを食べたというより、魚をきちんと食べたという感覚が残る。
皿の上に、その日の海が並ぶ
お造り盛り合わせには本マグロの中トロが入り、季節の魚が皿の上に並ぶ。赤身の深さや白身の透明感を見ていると、魚にもその日の機嫌があるように思えてくる。
炭火焼きはマグロだけでなく、地鶏や野菜、秋刀魚なども揃っている。余計な飾りを重ねず、火と素材の距離を見ながら仕上げているように見える。
日本酒の品揃えも広く、季節の地酒や利き酒セットが魚の味を静かに支える。酒が前に出すぎず、焼き目の香りや刺身の余韻を後ろから押してくれる。
任せてみる夜も、悪くない
おまかせコースは4400円ほどからで、店の流れを一通り味わいたい日に向いている。自分で選ぶ楽しさもあるが、今日は任せてみるという夜も悪くない。
店内は約40席ほどで、カウンターとテーブルが無理なく並んでいる。仕事帰りの一杯にも、少し改まった食事にも使える距離感がある。
営業は月曜から木曜が17時から22時まで、金曜は23時までとなっている。土日祝は休みで、秋葉原駅から歩いて6分ほどという近さも使いやすい。
炭火の匂いは、帰り道まで残る
忙しい日ほど、ちゃんと焼かれた魚の匂いに足が止まることがある。早く済ませる食事ではなく、少しだけ自分の速度を取り戻すための食事が欲しくなる。
秋葉原の明るさは、店を出るころには少し違って見えるかもしれない。街の速さから少し外れた場所で、炭火の音だけがゆっくり残っている。
