Qlair全曲 時系列レビュー
私はアイドル歌謡が好きで、アイドル歌謡史にも興味があって、1990年代初頭のいわゆるアイドル冬の時代の埋もれた楽曲をYouTubeで漁ってたら発掘したのがQlairである。掘れば掘るほど良い曲ばかりで、すっかりのめりこんでしまったので、気持ちが熱いうちに全37曲の感想をグループの成長を後追いしながら時系列で書いていこうと思う。
幸いにもSpotifyに全音源がアップされている。ホントに飛ばしたくなる曲が無くて、ほとんどの曲が耳心地良い。楽曲寄りのアイドル好きの方なら、全曲、何度もリピートして聴いていられるので騙されたと思って聴いてみてほしい。
Qlairとは?
Qlair(1991-1994)は乙女塾出身の女性3人グループのアイドルで、CoCo・Ribbonの後輩にあたる。先輩たちがポニーキャニオンからデビューしたのに対して、Qlairはエピックソニーからのデビューとなり、『3声でハモるアーティスト路線のグループ』がコンセプトだった。
アーティスト路線ということ、アイドル歌謡の枠にとどまらず多彩で良質が楽曲が多い。
吉田亜紀(中音域)、井ノ部裕子(高音域)、今井佐知子(低音域)
いちばん歌唱力があるセンターの吉田亜紀メインが多いものの、全員が歌えるのが強みで、斉唱・3声ハモ・ソロ・掛け合いなど多彩な展開で、聞き手を飽きさせない。
1st Single「瞳いっぱいの夏」(1991/07/07)
私が初めて聞いたのがこの曲だ。まずAメロの「ドドシッドッシッドッシドー」という伴奏が気に入った。そして、サビ後半の「いまキミと(特別な季節を)この空で(太陽にお願い)」というコーラスの掛け合いが新鮮だった。ミディアムテンポでアイドルのデビュー曲にしては落ち着いている。しかし、他の曲も発掘したいと思わせる楽曲だった。
ちなみにこの曲を作曲者の木戸やすひろ氏が2017年にセルフカバーしている。同じ曲でも、歌詞やアレンジで印象がぜんぜん変わると驚かされる。
恋のメダリスト
CWは、一転して普通のアイドル歌謡だ。普通はアイドルデビュー曲としてはこっちがA面になりそうなものだが、あえて実験的な曲をA面にしたところにQlairチームの意思が伺える。
本人たちが気に入ってるのか1993年に再レコーディングしてるが、よりまとまりのあるコーラスワークになっている。
1st Album「Les filles」(1991/11/21)
フランス語で「少女たち」。タイトルどおり少女期のQlairじゃないと表現できない世界。
真夜中のオルゴール(2nd Single C/W)
おもちゃ箱を広げたようなメルヘンチックな3拍子の曲。同じ3拍子の南野陽子の「恋人達のクリスマス」とサビのメロディが似てると思った。こういう雰囲気の曲は、けっこう好き。
笑顔の花束
井ノ部裕子メインの曲。お世辞にも覚醒前の彼女の声は音楽的とは言えないが、これはこれで味があってよい。Aメロの歌いだしがIIIm7なのが新鮮。
見えない涙
バラード曲。サビの3人のハーモニーが素晴らしい。デビュー間もない頃に、これだけしっとりとまとめられるのは、3人の努力が伺える。とにかくハモを猛練習したらしい。そのせいか、Qlairの曲はソロパートよりもハモパートが一段と輝くよう聴こえる。
お願い 神さま(2nd Single)
シャッフルリズムのガーリーな曲。サビの「話したいの〜」が甘酸っぱい。亜紀ちゃんの最高音域あたりを狙って作ったんだろうと思う。
サビはドミナントで中途半端に終わるが、ラストのサビ後に転調してAメロに戻り、そこから新しいメロディで「お願い 神さま〜」を連呼して終わる。かなり凝った構成だと思う。
約束
Qlairでは珍しくディストーションギターが活躍するノリのいい曲。ライブでは必ずラストに歌唱されて盛り上がりを見えたらしい。3番まであり、ソロパートは井ノ部→今井→吉田の順に仲良く分けられてる。
冒険のSunnyday
ボサノバ調。大人びた雰囲気だが、歌詞はカリブの恋を妄想するような内容で、いちおう「少女たち」の範疇にとどまっている。
「どこまでも〜〜青い〜〜」と伸びるロングトーンのハモは往年のコーラスグループ「サーカス」を想起させる美しさ。
1st Albumにして既にアイドルの域を超えつつある。このアルバムの中で一番好きな曲。
素直な疑問符
今井佐知子メイン。彼女の声は渡辺満里奈に似ていて可愛い。(渡辺満里奈も中低音域が魅力だった)
16ビートの曲で、途中にStevie WonderのSir Dukeに似た伴奏があってニヤリとする。
雨の帰り道
雨のチャプチャプをシャッフルビートで表現した曲。この曲も出だしのコードがIIIm7が印象的。最後はスローダウンして、二人の帰り道がどこまでも続けばよいのに、と後ろ髪引かれつつアルバムが終わる。
3rd Single「さよならのチャイム」(1992/01/22)
卒業をテーマにしたQlairの春曲。実際に今井と井ノ部の高校卒業時期と重なっており、LIVEでは涙の熱唱だったとか。大瀧詠一ばりにリバーブをしっかり効かせたサウンドが良い。
ハッピーバースディカウントダウン(C/W)
ここからのシングル3作品はC/Wで3人のソロ曲が配置されてる。この曲は今井佐知子さんのソロ。どういうわけか3曲ともセリフパートがあるのだが、セリフはこの曲がいちばん可愛い。今井さんはトークでみんなをリードすることが多くて、3人の中では一番明るくてしっかりしてると思う。そんな彼女のポジティブな明るさを感じるセリフ。
4th Single「眩しくて」(1992/05/21)
初夏の爽やかな曲。編曲は新川博さんが「タイトルが『眩しくて』でしょ。だからどこまでもキラキラにアレンジしちゃいました」と言ったんじゃないかと思うくらいに実にいい仕事。当時のテレビ番組のオープニングに使えそうなイントロ、最後のE7(b9)のフックに畳み掛けるようにウィンドチャイムがキラキラ鳴るのがツボ。
1番が終わった直後のLydian DominantコードF#7(#11) もさり気なくカッコいい。
Spotify再生数において、本曲がQlair楽曲の中で一番人気のようだ。
君住む街
井ノ部裕子ソロ。この頃から彼女のボーカルが覚醒。作曲は外間隆史さんということで、遊佐未森を彷彿とさせる独特な世界観の構築に成功している。
外間さんの起用は井ノ部さんの希望なのか知らないが、後にこの曲が縁でお二人は結婚されたようだ。
2nd Album「CITRON」(1992/06/21)
夏をコンセプトにした2nd。1stから半年ちょっとしか経ってないのに「少女たち」は成長して、夏を楽しむ女性の姿が描かれている。それに比例するようにQlairのコーラスワークと表現力に磨きがかかっている。
CITRON
シトロンサイダーの炭酸が弾ける音から始まる表題曲。夏到来のワクワク感を表現した1曲目。
タヒチアンラブ
ワウギターが印象的で、当時流行っていた渋谷系を取り入れたような16ビートサウンド。密林の鳥たちの鳴き声、島の部族の太鼓も聴こえる凝った作り。
アルバム中で最も夏らしい曲で、彼女らの説明によると「アルバムの代表曲」とのこと。
泣かないでエンジェル
大澤誉志幸のメロディセンスが光る。サビで盛り上げるのではなく、落ちついた雰囲気で「泣かないで(Angel)、大丈夫(Angel)」と輪唱で聴かせるのがプロの技。個人的にも大好きな曲。
思い出のアルバム
前曲と並んでこれも個人的に大好きな曲。サビの木戸やすひろ広谷順子夫妻の鉄壁のコーラスワークとの絡みがよい。アルバム曲ながら、こういったイベントで歌われてたので、メンバーたちも気にいってたと思う。
パジャマでドライブ
鈴木祥子さん作曲で、編曲には「成田忍・佐橋佳幸・西平彰」と3人が名を連ねており、それだけにサウンドに工夫が見られる。
一緒に見た風
本アルバム唯一のバラード。メンバのお気に入りの曲でもあり、Qlairの最後のTV出演でも歌われた、という意味でも特別な曲。唐突な活動停止で、まさに「私もうまく言えないけれど 困らせたこと許してほしい」という気持ちだっただろう。歌唱の最後に3人の目が潤んでる。
IN YOUR EYES
冒頭のCITRONのメロディをオーケストラサウンドに編曲した短いエピローグ。ヒグラシの鳴き声が楽しかった夏に終わりを告げる。。
(閑話休題)1992年夏のQlair
このころの彼女たちは、「聖PCハイスクール」というPCエンジンの番組にレギュラー出演、海外での写真集・ビデオ撮影、ライブ、イベント、アルバムレコーディングなど勢力的に活動していた。アイドルとしての最盛期だと思う。と同時に多感な頃にたくさんの経験をすることで表現者としても自我も芽生えつつあり、それが1993年以降の活動変化に繋がっていったと思う。
5th Single 「秋の貝殻」(1992/10/21)
Qlairの秋曲。これまではアルバムではレベルが高い楽曲を披露しつつも、シングルは分かりやすいアイドルポップを展開してきたが、ここに来てマイナー調の大人びた曲。今剛さんのドリアン味のあるギターイントロが渋い。
アイドル脱皮を意図したこの変化は本人たちも戸惑いがあったようだ。Wink中期のようなサウンド。
新しいシャツ
C/Wは吉田亜紀ちゃんのソロ曲。作曲はKANさんで、彼女がKANさんの大ファンということで実現したとのこと。「愛は勝つ」や「さよならだけどさよならじゃない」のようなカノン進行の王道4つ打ちポップス。
KANさん本人は「フツーのポップスを書いてしまった」と少し後悔してるようだが、彼女にとっては最高の宝物になったに違いない。
私もKANさんの大ファンなので、このコラボが実現しただけでもうれしい。QlairというグループのB面を作曲したということはうっすら知っていたが、ここにきて繋がって感慨深い。
3rd Album「Sanctuary」(1992/11/21)
2nd Albumからわずか半年で、早くも3rd。CITRONが夏なら本作は冬。両作とも名盤と呼ぶに相応しい完成度だと思うし、本作はQlairのアート表現の一つの頂点だと思う。
Sanctuary
表題インスト曲。鳥のさえずりから始まり、最後にはクリスマスの鐘の音も聴こえる。Sanctuaryは「聖域」という意味の他に「野生動物の保護区域」という意味もあるからかもしれない。
リボンのないプレゼント
前作の「タヒチアンラブ」のような立ち位置のアルバムを代表する曲。転調感のあるオシャレな16ビートの曲を歌いこなす彼女たちの成熟ぶりが伺える。
うたたねのソファー
今井佐知子メイン曲。前述のように彼女の声は渡辺満里奈に似ているが、本局はシャッフルリズムなので、よりいっそう「マリーナの夏」のように感じる。
スノーブーツのWish
1stアルバムの曲だがクリスマスソングなので再登場。クリスマスをイメージしたシンセベルと、後半登場するサックスソロが印象的。
夢見るヴァイオリン
ヴァイオリンソロが活躍する曲。井ノ部裕子さんメインだが、彼女の高音がが同じくMayumiさん作曲の斉藤由貴の名曲「May」のように聴こえる。
それにしても1st「笑顔の花束」あたりと比べると、井ノ部さんのヴォーカリストとしての成長は著しいものがある。
暖かな森
6分超えのQlair最長の曲だが、その長さを感じさせない。鳥たちが住む湖と暖かな森。まさにSanctuaryと呼べる世界。
個人的にこの曲がQlairの中でいちばん好き。完璧なハーモニー。彼女たちの聖域、一つの完成形だと思う。
Sanctuary ~The Light of three stars~
冒頭曲のリプライズ。今度は3人のコーラスが入る。Sanctuaryに3人の天使が降り立ったような感じ。
6th Single「SPRING LOVER大作戦」(1993/03/21)
3rdアルバム「Sanctuary」でアーティストとしての個性が確立したと思った半年後に、この路線変更である。もともと髪が短めな亜紀ちゃんがベリーショートにして、「こういうのがやりたかったんだよ」と言わんばかりに楽しそうに歌ってるのを見ると、彼女の要望が楽曲に反映されたのかなと勝手に想像してる。(アイドルの中期特有の自我の発露?)
サウンド面でもキラキラした80年代的シンセサウンドから、硬質化した90年代以降の音に変わっている。
個人的には、このQlairは別物感があるが、これはこれでありかも。良い曲ではあるし。
お引越し
C/Wは、カップルが同棲生活に「バッハッハーイ」とピリオドをつける、アイドルらしからぬ歌詞。だが、彼女たちもすっかりアイドルを脱皮して大人びており全然違和感ない(笑)。
6th Single「SUMMER LOVER大作戦」(1993/07/21)
そしてラストシングルはまさかの前作の替え歌という「赤い鳥逃げた」もビックリの展開である。なんでもカルピスの中の人が「SPRING~」を気に入って、CMタイアップで再リリースの運びとなったようだ。
瞳いっぱいの夏 Radioactivity(瞳いっぱいの夏〜白いパラソルメドレー)
C/Wは、デビュー曲の「瞳いっぱいの夏」の色彩感を打ち消すようなディストーション全開のRemix。そしてなぜ松田聖子?という感じだが、何度も聴いてるうちに「これはこれであり」と思えるようになってきた(笑)。私がこういうジャンルを聞き慣れてないだけかもしれない。
Best Album「Palette」(1993/11/21)
1992年は精力的にアルバムリリースしていたQlairだが、1993年はベストアルバムの発売にとどまる。
HAPPY BIRTHDAY
ベストアルバムに唯一新曲として挿入された新曲。「冒険のSunnyday」以来のボサノバ調で、その延長線上にある佳曲。この路線でもう少し活動していれば、と思うと残念だが、これがQlair活動期間の最後の曲となってしまった。
Qlair Archives(2005/11/30)
短い間に精力的に活動して、成長した彼女たちだが、1994年3月に経営層から活動休止を宣告されてしまう。売れない中でも採算度外視で楽曲制作してきたQlairチームだが、アイドルだってマネタイズが最重要。エラい人に「あのクレアっていつまで続けるつもりなん?」とか言われたのだろう。予定されていた8thシングルも凍結されてしまった。
しかし、時を経て12年。Qlairが残した楽曲は一部ファンや業界関係者には好評だったのだろう。再評価の声もあってか、アイドルミラクルアーカイブスシリーズの一貫で全曲がCD化された。
その中で凍結された8thシリーズのために12年ぶりにメンバが集まって(2005 Miracle Recording)と銘打って「永遠の少年」が歌われたのである…
永遠の少年
ラストの楽曲は最後を飾るにふさわしいバカラック調。(といっても当時の吉田亜紀さんの好みの可能性あり)
とにかく歌詞が素晴らしくて、私は後追いで聴いたのに、アルバムを出すたびに成長する彼女たちの様子が伺えてボロボロ泣いてしまった。
本来は当時のファンたちのための歌だが、私のような後追いで聴く者にも当時の想いが時空を超えて伝わってきたような不思議な感覚だった。
作詞の只野菜摘さんのコメント:
Qlairの「永遠の少年」は、バックトラックまで録音されて封印された曲に、解散から約12年たって、あらたにヴォーカル・レコーディングをした歌でした。新しい詞を永遠の少女にしなかったのは、少女だけでなく、解散の時の姿の、応援してくださった少年たちの眠りも醒ましたいと思ったからです。
— 只野菜摘 (@tadanonatsu) September 4, 2012
作曲の片寄明人さんのコメント:
昨日今井さんが『Qlair Archives』 についてtweetされていたので、『永遠の少年』の作者片寄明人さんが当時出していたコメントを再掲。#Qlair#QlairArchives#今井佐知子#片寄明人#永遠の少年 pic.twitter.com/Bf4VBzG6wh
— ぴーと a.k.a 白いもわもわ (@peteronius) December 1, 2021
終わりに
Qlair活動休止発表コメントを引用する。
長きに短きにわたり、Qlairを応援頂きありがとうございました。
私達は、良質な作品を3年間にわたり提供してきました。
スタッフとQlairの意志と愛情の表現でした。
コンサート・アルバム・ビデオ・シングルとクリエイティブに関しては、誰にもひけをとらない“Girl’s Pop”を提供してきたと自負しております。
ただ時代の背景があり、良いものが必ずしも売れる、うけるとは限りません。もっと妥協して、時代・人に迎合した方が良かったのかもしれませんが、Qlairとスタッフには強い意志があり、できませんでした。どうか御理解下さい。
三人の三人のためのハーモニーはどれが欠けても成立しません。
今一人づつQlair時代をベースに自分の信念の道へ歩み出します。
もしよろしければ個人各々をこれからも見守ってやって下さい。
ただしQlairというネームは永遠に残し、ひたむきに歩んだ三人の少女の足跡をたたえてやりたいと思います。
本当に残念ですが....全力で駆け抜けた3年間...
心よりみなさまに感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
メリーゴーランド
代表 森本精人
乙女塾出身なのにアーティスト路線、ということで、旧来のアイドルファンにも伝わりづらく、音楽好きなレイヤーにも見つかりづらいニッチな存在だったかもしれない。
しかし、「誰にもひけをとらない良質な"Girl's POP"を3年間にわたり提供した」というのが全く誇張ではないことは、楽曲を聴けばハッキリと伝わってくる。
Qlairは当時のソニーの良心の結晶だと思う。今後ますます再評価が進むことを期待して執筆した。
素敵な楽曲を提供してくださった制作陣と、短い活動期間を駆け抜けて一気に成長した3人に敬意を表しつつ本稿を終わります。
