音楽制作に物足りなさを感じたら、The Rootsを聴いてほしい
AIで曲を量産できる時代に、なぜThe Rootsの生演奏ヒップホップを聴くべきなのか
AIで曲を作るのは、もう難しくありません。
プロンプトを入れて、ボタンを押すれば、数十秒でそれっぽい曲ができます。
最初は感動します。
しかし、何曲か作っていると、ふと疑問が出てきます。
この曲は、本当に自分の音なのか。
便利なツールを使っているはずなのに、なぜか自分の手触りが残らない。
そんな違和感がある人に、今こそ聴いてほしいアルバムがあります。
The RootsのDo You Want More?!!!??!です。
1995年、サンプリングがヒップホップの中心にあった時代に、生演奏で真正面から挑んだアルバムです。
彼らは、便利な方法を選ばなかった。むしろ、不便な制約を選びました。
だからこそ、30年近く経った今も、古びないグルーヴが残っています。
この記事では、Do You Want More?!!!??!を手がかりに、AI時代のクリエイターがなぜ「あえて不便な制約」を持つべきなのかを考えていきます。
1. The Rootsはなぜサンプラー全盛期に生演奏を選んだのか
わたしは普段、Logic Proというソフトなどを使って自分のオリジナルトラックを制作しています。

何時間も画面に向き合い、自分で鍵盤を弾き、ドラムを一音一音泥臭く打ち込んで重ねていく。
それは手軽さとは程遠い、地味でアナログな作業です。
しかし、そうして自分の手を動かして泥臭く作り込んだ音にこそ、初めて自分の熱量とグルーヴが宿るのだと日々体感しています。
だからこそ、テクノロジーがどれだけ進化しても、自らの手で音を紡ぎ出すことの面白さは決して色褪せないと信じています。
The Rootsがメジャーデビュー時に直面した状況も、これと似ています。
彼らは、当時のヒップホップの中心にあったサンプリングという方法を、そのままなぞる道を選びませんでした。
代わりに、自分たちの身体と楽器で、ヒップホップのループ感や粘りを再現するという、不便で遠回りな道を選んだんです。
つまり、彼らがやったのは、単なる生演奏へのこだわりではありません。
自分たちが勝てる制約を、先に決めたということです。
これは、今のAI音楽にもそのまま当てはまります。
何でもできる時代ほど、何をやらないかを決めた人が突き抜けます。
2. サンプラー全盛期に、生演奏で勝負するという選択
当時のヒップホップシーンは、サンプリング手法が主役であり、常識でした。
そんな中でThe Rootsが本作で提示したのは、サンプルに頼らない生演奏ヒップホップというアプローチでした。
彼らは、既存レコードのサンプリングに大きく依存する当時の主流とは異なり、生演奏と自分たちの感覚を軸にヒップホップのグルーヴを構築しました。
これは当時のシーンに対する、非常に挑戦的で反逆ともとれるスタイルでした。
しかし、この制約こそが、彼らをその他大勢のサンプリングプロデューサーから一瞬で差別化することになったんです。
つまり、他人が「当たり前」と信じている便利な技術をあえて制限することが、独自のブランドを作る最大の武器になります。
便利な時代ほど、あえて面倒な工程を残した人の音が残るのです。
ツールが自動でやってくれる部分をあえて手作業に置き換えることで、初めて他者と違うオリジナリティが生まれます。
もちろん、サンプリング技術が容易ではないことは承知のうえです。
3. サンプラーの質感を身体で再現したQuestloveのドラム
このアルバムで最も狂気的なのは、ドラマーであるQuestloveの姿勢です。
彼は、人間らしい温かみのある生演奏を目指したわけではありません。
むしろ、「サンプリングマシンのように正確で無機質なドラムを叩くこと」に徹底的にこだわったんです。

ドラムマシンが吐き出すタイトなループ感を、クリックに頼り切るのではなく、自らの肉体を鍛え上げることで再現しようとしました。
機械の質感を生演奏で再現するという、変態的な逆転の発想。
制約の中で何かを極めようとするとき、人間はテクノロジーすらも模倣し、自らの肉体へとインストールすることができます。
自動化できるからこそ、どこを自分の手で残すのかが問われます。
AIの出力の綺麗さをただ受け取るのではなく、その質感を自分の手作業でコントロールしようとする執着心こそが、本物のクリエイティビティを生み出すんです。
4. 生演奏を「ただのジャズ」にしなかったBob Powerの仕事
この生演奏ヒップホップをメジャー流通に乗せるため、多くの才能が制作の核心を担いました。
A.J. Shine、Kelo、The Grand Negazらがプロデュースの核となりました。
さらに音作りの面では、Bob Powerの関与が重要でした。
Bob Powerは、A Tribe Called Questの「The Low End Theory」や「Midnight Marauders」周辺の音作りでも知られる、90年代ブラックミュージックの重要エンジニアでありプロデューサーです。
彼の関与によって、The Rootsの生演奏は単なる綺麗なジャズバンドの録音ではなく、ヒップホップとして太く鳴るビートを獲得していきました。
わたしも、Logic Proで曲を作っているときに何度も失敗しました。
ベースを入れているはずなのに、スマホで聴くとまったく鳴っていない。
キックを太くしたつもりなのに、全体が濁ってしまう。
AIで出てきた曲も同じで、そのままだと綺麗ではあるけれど、自分の体温が入っていないことがあります。
だから最後は、音量、低音、間、展開を自分の手で触るしかありません。
独自のアイデアを世の中に届けるためには、コンセプトだけでなく、それを形にするエンジニアリングとの融合が不可欠です。
AIでどれほど面白いアイデアが出せても、それを最終的に一つの作品として着地させるための、こうした職人技のような手作業がクオリティを左右するんです。
5. 異物だらけのメンバーが、ひとつのグルーヴに溶けた瞬間
このアルバムの魅力は、豪華なプレイヤーたちとジャズ人脈の化学反応から生まれています。
Black ThoughtとMalik B.の二枚看板MCに加え、のちに重要MCとなる若きDice Rawも本作からカメオ参加を果たし、その才能の萌芽を見せています。
鍵盤では、初期メンバーであるScott StorchがProceedなどの代表曲で浮遊感のあるメロウな響きを提供し、本作の音楽的骨格を決定づけました。
そして、ベーシストのLeonard Hubbardが奏でる生々しい低音と、ヒューマンビートボクサーのRahzelが口だけでスクラッチやドラムを再現する圧倒的なパフォーマンスが、グループのライブ性を極限まで高めました。
さらにSteve ColemanやCassandra Wilsonといったジャズの越境ゲストが加わることで、唯一無二のオーガニックヒップホップジャズが完成したのです。
これだけの異質な才能が集まりながら、それぞれが自分の個性を妥協せずにぶつけ合い、ひとつの極上のグルーヴへと統合されている。
クリエイティビティの本当の面白さは、整った予定調和ではなく、異物同士の衝突から生まれる摩擦にあります。
ここに、AI制作の次の課題があります。
AIが提示する平均的で綺麗な調和をあえて壊し、自分の中にあるノイズや異物感を混ぜ込むことで、初めて心に刺さる作品になります。
6. 20年かけてゴールド認定された名盤が教えてくれること
本作は、専門誌The Sourceの「100 Best Rap Albums」にも選ばれるなど、高く評価されました。
さらに発売から20年後の2015年には、RIAA Gold認定 に達しました。
これは本作が即時のミリオンセラーヒットではなく、長い時間をかけて世界中のリスナーに評価と売上を積み上げられたカタログクラシックであったことを物語っています。
本作で提示された生演奏、ジャズ、ヒップホップの融合は、後のThe Rootsの活動や、Soulquarians期のネオソウルやオルタナティブヒップホップへとつながる土壌の一つとして読むことができます。
自分だけの制約とこだわりを突き詰めて作ったものは、即座に消費されることなく、長い時間をかけて残る資産になります。
便利な時代ほど、あえて面倒な工程を残した人の音が残る。
流行りに乗って瞬時に消費されるコンテンツを量産するのではなく、何年も語り継がれるような自分だけの偏執的な一作を作ることに、時間を投資することも大切です。
7. AI時代のクリエイターは、自分だけの不便さを持て
サンプリングという手法が過去の音楽の再発見を担っていた時代に、The Rootsは自らの手と楽器で過去の偉大なるグルーヴを現代に生み出すという至難の業に挑みました。
現代のわたしたちにとって、その対象はAIです。
AIは非常に賢く、指示を出せばすぐに綺麗な答えを返してくれます。
しかし、だからこそ、あえて不便なことや自分だけの制約を作って、そこに偏執的なこだわりを注ぎ込んでみてください。
手軽にできる時代だからこそ、あえて不便なことをしてみる。
ツールがどれだけ進化しても、クリエイターの価値は、そのこだわりや泥臭さの中にしか宿りません。
The Rootsがドラムを叩き続け、鍵盤を叩き続けたように、わたしたちも自分の手を動かし続ける必要があります。

AIで最初の曲を作ることから、あなたのストーリーは始まります。
このシリーズでは、ヒップホップの名盤を読み解きながら、AI時代のクリエイターがどう自分の表現を作るかを考えていきます。
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