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桜の散る季節に、君は  十一枚目

十一枚目 普通

「栞麗」

翌日の朝。

教室に入った瞬間だった。

「ん?」

「昨日のあれ何」

「どれ」

「お二人で頑張ってー」

玲奈は少し考える。

「言ったかも」

「言ったよ」

「覚えてない」

絶対覚えている。

「あと早瀬くんのことよろしくねーも」

「あれは覚えてる」

「覚えてるんだ」

「面白かったから」

栞麗は額を押さえた。

「もう」

玲奈は小さく笑う。

「で?」

「なにが」

「勉強会どうだったの」

「普通」

「へえ」

玲奈は頬杖をつく。

「普通ねー」

その言い方が気に入らない。

栞麗は視線を逸らした。

「普通だったよ」

「ふーん」

玲奈は笑う。

絶対信じていない。

だけど。

本当に普通だった。

少しだけ気まずくて。

少しだけ話しにくくて。

それなのに。

嫌ではなかった。

「栞麗」

玲奈の声で我に返る。

「なに」

「顔赤い」

「赤くない」

「赤い」

「赤くない」

玲奈は楽しそうに笑った。

本当に面倒くさい。



昼休み。

屋上へ続く扉を開く。

夏の風が吹いた。

青々とした桜の葉が揺れている。

「早瀬くん」

いつもの場所。

いつもの背中。

春翔は振り返る。

「あ」

「おはよう」

「もう昼だぞ」

「そうだった」

思わず笑う。

春翔も少しだけ笑った。

それだけなのに。

なぜか少しだけ安心する。

玲奈のせいだ。

きっと。

「どうした?」

春翔が首を傾げる。

「なんでもない」

「そうか」

本当にいつも通りだった。

それなのに。

自分だけ少し変な気がする。

風が吹く。

栞麗は小さく息を吐いた。

「そういえば」

「ん?」

「昨日の続き」

「ああ」

「またやるから」

少しだけ間が空く。

「来てね」

春翔は少しだけ笑った。

「分かった」

栞麗は小さく頷く。

それだけだった。

それだけだったはずなのに。

なぜか少しだけ嬉しかった。



僕たちは放課後によく勉強するようになった。

「分からん」

「どこ」

「全部」

「全部はだめ」

そんなやり取りを何度も繰り返した。

最初は三人だった。

だけど。

「あ、私帰る」

玲奈はよく帰った。

「また?」

栞麗が言う。

「ごめん」

玲奈は笑う。

「頑張ってねー」

そう言って去っていく。

何を頑張るのだろう。

よく分からなかった。

玲奈がいなくなる。

図書室は少しだけ静かになる。

「で、どこ?」

栞麗は僕の問題集を覗き込む。

「ここ」

「また?」

「また」

栞麗は小さくため息をついた。

「できた」

問題集を見せる。

栞麗は少し驚いたように目を丸くした。

「本当だ」

「先生のおかげだな」

「だから先生じゃないって」

そう言いながら。

栞麗は少しだけ嬉しそうだった。

気付けば。

期末テスト前日になっていた。

「明日だね」

栞麗が言う。

「だな」

「緊張する?」

「ちょっと」

「私も」

それは意外だった。

「栞麗も?」

「するよ」

そう言って栞麗は笑う。

それから。

「じゃあ頑張ろうね」

僕は少しだけ笑った。

「先生もな」

「だから先生じゃないって」

栞麗は呆れたように言う。

だけど。

少しだけ嬉しそうだった。

翌日。

教室。

問題用紙が配られる。

先生の声が響く。

「始め」

僕は静かにシャーペンを握った。

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