桜の散る季節に、君は。 九枚目
九枚目 テスト?
四時間目終了のチャイムが鳴った。
教科書を閉じる。
昼休みだ。
その時だった。
「おーい」
教壇の前で先生が手を叩く。
教室が少しだけ静かになった。
「もうすぐ期末テストだからなー」
教室のあちこちから不満の声が上がる。
「えー」
「だる」
「まだ大丈夫っしょ」
先生は笑った。
「泣くのはお前らだからな」
そう言い残して教室を出ていく。
僕は静かに机へ突っ伏した。
「終わったな」
後ろから声がした。
振り返る。
大輝だった。
「なんでだよ」
「今の顔」
大輝は笑う。
「絶対やってないだろ」
図星だった。
「……」
「やってないんだな」
そこへ悠人も振り返る。
「なに騒いでんだ?」
「早瀬が終わったらしい」
「終わったな」
「お前もかよ」
「いや、まだ三週間あるだろ」
悠人が言う。
「三週間しかないだろ」
僕が言う。
「理科どのくらいだっけ」
大輝が聞いた。
「五十ぐらい」
「英語は?」
悠人が聞く。
「五十いけば嬉しい」
「数学」
「……」
「数学?」
「聞くな」
数秒。
二人は吹き出した。
「分かりやす」
「うるさい」
「何点くらい?」
「四十ぐらい」
「終わったな」
「終わったな」
二人同時だった。
「だからお前らなんなんだよ」
僕は鞄を持って立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「屋上」
そう答えると。
大輝と悠人が顔を見合わせた。
なんだその反応。
屋上へ続く扉を開く。
強い日差しが差し込んできた。
「暑い……」
思わず呟く。
七月に入ったばかりだというのに。
夏はもうすぐそこまで来ていた。
「早瀬くん」
聞き慣れた声がする。
振り返る。
栞麗だった。
「どうしたの?」
そう言いながら隣に来る。
「期末テスト」
僕は即答した。
栞麗は少しだけ笑う。
「ああ」
その反応で分かった。
どうやら栞麗は余裕らしい。
「何点くらい取るんだ?」
聞いてみる。
「うーん」
栞麗は少し考える。
「八十くらい?」
「嘘だろ」
「なんで」
「その言い方で八十取るやつ初めて見た」
栞麗は吹き出した。
「早瀬くんは?」
「聞くな」
「聞く」
即答だった。
僕はため息をつく。
「国語と社会は大丈夫」
「うん」
「理科」
「五十ぐらい」
「英語」
「五十いけば嬉しい」
栞麗は少しだけ嫌な予感がしたらしい。
「数学」
「……」
「数学?」
「聞くな」
数秒。
栞麗は吹き出した。
「分かりやすい」
「うるさい」
「何点くらい?」
「四十ぐらい」
「思ったより重症だった」
僕はフェンスにもたれかかる。
風が吹く。
青々とした桜の葉が揺れた。
「勉強嫌いなんだよな」
「好きな人いるの?」
「いない」
「それはそう」
栞麗は笑った。
ガチャッ。
その時だった。
屋上の扉が開く。
「勉強の話してる?」
声がした。
振り返る。
玲奈だった。
「してる」
栞麗が答える。
「やめて」
玲奈は即答した。
僕は思わず笑う。
「玲奈は?」
栞麗が聞く。
「聞く?」
「聞く」
玲奈は少し考える。
「毎回ギリギリ」
「どのくらい」
「三十一」
「リアルだね」
「でしょ」
玲奈は少しだけ誇らしそうだった。
「誇るな」
栞麗が呆れたように言う。
「でも毎回生きてる」
「それはすごい」
僕が言うと。
「分かる?」
玲奈が真顔で頷いた。
「赤点回避の才能あると思う」
「そんな才能いらない」
栞麗はため息をつく。
風が吹く。
青々とした桜の葉が揺れた。
「あのさ」
玲奈が僕を見る。
「ん?」
「早瀬くん」
「なんだ」
「勉強してる?」
「してない」
「私も」
少し沈黙。
栞麗が額を押さえた。
「だめだ」
「なにが」
「このままだと二人とも終わる」
「ひどくない?」
玲奈が言う。
「事実だよ」
即答だった。
再び沈黙。
それから栞麗は小さくため息をつく。
「勉強会する?」
僕は思わず顔を上げた。
玲奈は数秒固まる。
それから。
「神?」
真顔だった。
栞麗が吹き出す。
僕も笑う。
「神だな」
思わずそう言うと。
「でしょ」
玲奈は少しだけ得意そうに笑った。
