桜の散る季節に、君は。 十二枚目
十二枚目 結果
「終わった……」
最後の教科の終了チャイムが鳴る。
僕は机に突っ伏した。
ふと、隣の席に視線を向ける。
そこに栞麗はいない。
それなのに。
「終わったねー……」
そんな声が聞こえた気がした。
栞麗がいたら、多分そう言っていた。
本当に、隣の席から聞こえてきそうだった。
数日後。
答案返却の日だった。
教室にはいつもより少しだけ緊張した空気が流れている。
「早瀬」
先生に名前を呼ばれる。
前に出て答案を受け取った。
席に戻る。
まず国語。
七十二点。
悪くない。
社会。
七十六点。
悪くない。
理科。
五十八点。
生きてる。
英語。
六十一点。
かなり上がった。
そして。
最後の一枚。
数学。
僕はゆっくり答案を裏返した。
五十五点。
「……お」
思わず声が漏れた。
前回より少し上がっている。
赤点も回避できた。
「どうだった?」
後ろから悠人が聞いてくる。
僕は答案を見せた。
「五十五」
悠人は一瞬固まった。
「おお」
「その反応なんだよ」
「いや……まあ」
少しだけ肩の力が抜けた。
「数学以外は?」
「国語七十二」
「おう」
「社会七十六」
「へえ」
「理科五十八」
「生きてるな」
「英語六十一」
「かなり上がったな」
「だろ」
悠人は苦笑した。
「数学もちゃんと生還したじゃん」
その言葉に僕も苦笑した。
少し間が空く。
「悠人は?」
僕が聞く。
「ん?」
「どうだったんだよ」
「あー」
悠人は少し考えた。
「まあ全部八十は超えた」
「嫌味か?」
「聞いたのお前だろ」
それもそうだった。
昼休み。
屋上へ続く扉を開く。
夏の風が吹いた。
青々とした桜の葉が揺れている。
「早瀬くん」
聞き慣れた声がした。
振り返る。
栞麗だった。
「どうだった?」
そう言いながら隣に来る。
僕は答案を取り出した。
「数学」
栞麗は答案を見る。
数秒。
「え」
小さく声を漏らした。
「五十五」
「本当だ」
栞麗はもう一度答案を見る。
それから。
少しだけ笑った。
「上がってる」
「だろ」
「よかった」
その言葉に。
少しだけ照れくさくなる。
「栞麗のおかげだな」
「私じゃなくて早瀬くんが頑張ったからだよ」
「いや」
僕は答案を見た。
五十五点。
少なくとも。
一人じゃ無理だったと思う。
「結構栞麗のおかげ」
栞麗は少しだけ困ったように笑った。
「じゃあ半分だけ」
「半分か」
「半分」
思わず笑う。
栞麗も笑った。
風が吹く。
夏の匂いがした。
ガチャッ。
屋上の扉が開く。
「結果発表会?」
聞き慣れた声だった。
玲奈がこちらへ歩いてくる。
「そんな感じ」
栞麗が答えた。
「どうだった?」
玲奈は僕を見る。
「数学五十五」
「おお」
玲奈は少しだけ目を丸くした。
「生きてる」
僕も頷く。
「玲奈は?」
栞麗が聞く。
玲奈は少しだけ胸を張った。
「三十二」
「生きてる」
今度は僕と栞麗が同時だった。
「でしょ」
玲奈は満足そうに頷く。
「才能」
「そんな才能いらない」
栞麗は呆れたように言った。
風が吹く。
桜の葉が揺れる。
「そういえば栞麗は?」
僕が聞いた。
「ん?」
「どうだったんだよ」
栞麗は少しだけ視線を逸らした。
「普通」
「絶対普通じゃない」
玲奈が即答する。
「普通だよ」
「見せて」
「やだ」
「なんで」
「なんでも」
怪しい。
玲奈はそう思ったらしい。
次の瞬間。
「あ」
栞麗の手から答案が抜き取られた。
「玲奈!」
遅い。
玲奈は答案を見る。
数秒。
それから。
「九十六」
「え」
思わず声が出た。
「九十六!?」
「返して」
「化け物」
「失礼だなあ」
栞麗は答案を取り返す。
だけど少しだけ笑っていた。
玲奈は僕の答案を見る。
それから栞麗を見る。
そして。
「まあ」
「なに」
「成果出てるじゃん」
栞麗は少しだけ目を丸くした。
それから。
「そうだね」
小さく笑う。
僕も答案を見る。
数学、五十五点。
悪くない。
風が吹く。
気付けば。
夏休みはもうすぐだった。
