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桜の散る季節に、君は。 八枚目

八枚目 初夏

雨の日もあれば晴れの日もあった。

気付けば六月も終わりに近づいている。

昼休み。

栞麗は購買の前に立っていた。

「暑い……」

思わず呟く。

六月とは思えない日差しだった。

冷凍ケースを開ける。

アイスを一つ手に取る。

その時だった。

ふと隣のアイスが目に入る。

栞麗は少しだけ考える。

「……」

それからもう一本手に取った。

「二本?」

後ろから声がした。

玲奈だった。

「うん」

「なんで」

「なんとなく」

玲奈は少しだけ笑う。

「へえ」

その顔は絶対分かっている顔だった。

「なに」

「別に」

絶対別にじゃなかった。

栞麗はアイスを持って購買を出る。

階段を上る。

屋上へ続く扉が見えてくる。

その時だった。

「私も行こうかな」

玲奈が言った。

「どこに」

「屋上」

栞麗は少しだけ目を丸くする。

「珍しいね」

「暇だから」

二人で階段を上る。

屋上へ続く扉が見えてくる。

その時だった。

「私ここまででいいや」

玲奈が立ち止まった。

「なんで」

「なんでって」

玲奈は笑う。

「邪魔でしょ」

「邪魔じゃない」

「へえ」

玲奈は少しだけ口元を緩めた。

「じゃあ行ってらっしゃい」

そう言って手を振る。

「なにそれ」

栞麗は呆れたように言った。

「別に」

玲奈はそう言いながら階段を下りていく。

栞麗はしばらくその背中を見る。

それから小さくため息をついた。

ガチャッ。

勢いよく扉を開く。

「早瀬くーん」

聞き慣れた声だった。

振り返る。

白い夏服。

見慣れない姿に少しだけ目を奪われる。

「あ」

栞麗は僕を見る。

「いた」

どこか安心したように笑った。

「いるけど」

「よかった」

そう言いながらこちらへ歩いてくる。

その手にはアイスが二本あった。

「はい」

栞麗はそう言ってアイスを一本差し出した。

「俺の?」

「うん」

僕はアイスと栞麗を交互に見る。

「なんで」

「うーんなんとなく」

「ありがとう」

僕は素直に受け取った。

「いくらだった?」

「え?」

「アイス」

「いいよ別に」

「いや」

僕が言うと、栞麗は少し考える。

それから悪戯っぽく笑った。

「じゃあ今度ジュース奢って」

「分かった」

即答だった。

今度は栞麗が固まる。

「え」

「え?」

「冗談だったんだけど」

「そうなのか」

栞麗は吹き出した。

「早瀬くんって真面目だよね」

「そうか?」

「そう」

栞麗は笑いながらアイスをかじる。

僕も袋を開けた。

夏の日差しが屋上に降り注いでいる。

青々とした桜の葉が風に揺れた。

しばらくして。

栞麗がアイスの棒を見て目を丸くした。

「あ」

「どうした」

「当たった」

嬉しそうに棒を掲げる。

確かに小さく『当たり』と書いてあった。

「またか」

「また?」

「結構当たるんだよね」

栞麗は少し得意そうに笑う。

「そんなことあるか?」

「ある」

即答だった。

「玲奈にもよく言われる」

「なんて」

「運だけで生きてるって」

僕は思わず笑った。

栞麗も笑う。

「もう一本食べれる」

「よかったな」

「うん」

本当に嬉しそうだった。

風が吹く。

青々とした桜の葉が揺れる。

「そういえば」

栞麗が言った。

「ん?」

「ジュース」

僕は少し考える。

「ああ」

「忘れないでね」

「忘れない」

栞麗は満足そうに頷いた。

その時だった。

昼休み終了のチャイムが鳴る。

「やば」

栞麗が立ち上がる。

僕も腰を上げた。

「じゃあまた明日」

「うん」

そう言いかけた時だった。

栞麗が何かを思い出したように止まる。

「あ」

「どうした」

「期末テスト」

僕は固まった。

栞麗は少しだけ首を傾げる。

「大丈夫?」

「……」

「早瀬くん?」

「やばい」

栞麗は吹き出した。

僕も思わず笑う。

だけど。

たぶん笑い事じゃなかった。

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