見出し画像

【ほっともっと】黄金色の海に沈む夜

8月の暑い夜。
アスファルトはまだ熱を帯びていて、ゆっくりと空気を揺らしている。
蝉の声も鳴き止み、帳がゆっくりと降りてくる。
こんな日は、カレーが食べたい。
甘く、そしてほんの少しスパイスが香る、あのカレーを。

角にあるほっともっと。
御用達だ。
ガラス越しに、忙しそうに動き回るスタッフの姿が見える。
扉を開けると、お弁当を作る、何ともいい香りがする。
その中に、薄っすらとカレーの匂いも感じる。

アプリで注文している私は、並んでいる人たちを横目に、すっと受け取りだけをして帰る。
予約というのは実にいいシステムである。

包みを解く。
カレーの良い香りが胃を刺激する。

白いご飯の上に、堂々と腰を据えたロースカツ。
その横に、艷やかなルー。
ほろりと崩れそうな牛肉の塊がいくつも沈んでいる。
光の角度で、ルーは琥珀色にも、夕陽のようにも見えた。

ひとくち。

口に入れた瞬間、柔らかな甘味が舌を包み込む。
ほんのりと果実を思わせるような香りがゆっくりと広がる。
辛さは控えめで、後味にだけ、遠くから届くようなスパイスの影。
ああ、これは急がなくていいカレーだ。
時間をかけて味わうための、夏の夜の贅沢。

ご飯を進めていると、ルーが心もとなくなってくる。
そんな時、ロースカツの存在が頼もしい。
サクサクの衣と肉の旨味が、白いご飯をしっかり支えてくれる。
口の中で、甘みと香ばしさが混じり合い、ひとつの物語になってくれる。

辛旨スパイス。

普段、辛いものは苦手なので入れることはないスパイスだが、試しに少し振りかけてみた。
瞬間、夏の太陽が舌の上に落ちたような熱が走る。
スパイスの香りふんだんなカレーへと、姿を変える。
これを全て入れたら、きっと別の物語が始まるのだろう。
でも今日は半分でいい。
軽く汗ばむ程度に。

余韻をしっかりと楽しむと、器を片付けた。
確かに、これはよくばりカレーだった。

夏はどうしてか、カレーが食べたくなる。
ひと皿を食べ終えるころ、体は火照り、心は静かに満たされている。
その余韻ごと、今年の夏を覚えていたい。


いいなと思ったら応援しよう!

ちびひめ よろしければサポートをお願いします。 生きるための糧とします。 世帯年収が250万以下の生活をしています。 サポートしてもらったらご飯のおかず代にします! お野菜買えるかも・・・ あと、ネコのクーラー代とかにもなるのでよろしくお願いします! 生きていく・・・

この記事が参加している募集