出産直前に分娩室の前で1人残された夫の話
出産の時の話。
もともと出産に立ち会う話で進んでたけど、自分の中では直前まで決心がついてませんでした。
理由は妻の痛がる姿、出血など…目の前の光景をいろいろ想像したら怖くなったというのが正直な気持ちです。
そして、ついにその時が来た。
夜中に陣痛が来て病院へ来た。
陣痛室へ案内されて本陣痛が来るまで様子を見ながら待機。
少しずつ陣痛の間隔が狭くなり、子宮口も開いてきた。
本陣痛が来て分娩室に移動する時に、助産師さんから「立ち会いますか?」って聞かれて戸惑ってしまいました。
そんな自分の姿を見て、「まだ時間あるから考えてて大丈夫ですよ」って助産師さんに言われて、妻は先に分娩室へ。
気遣いがすごくありがたかったけど、それ以上に自分の情けなさがこみ上げてきました。
陣痛室に1人残されて、世の中の夫婦はどうなんやろって調べてみると、立ち会う立ち会わへんが半々くらいで分かれてたのが意外でした。
その中に妻側の意見で「産む姿を見られたくない」というのが目に止まった。
その瞬間、古事記の話が頭に浮かんだ。
彦火火出見と豊玉姫の話。
豊玉姫は海神の娘で、彦火火出見と結婚して海の宮殿で3年間一緒に暮らした。
子どもが産まれる時、豊玉姫は彦火火出見にこう頼んだ。
「異国の者は産む時に本来の姿に戻る。だから絶対に産屋を覗かないで」
でも彦火火出見は我慢できずに覗いてしまった。
豊玉姫の本来の姿は海神族——巨大なワニの姿でした。
見られたことに気づいた豊玉姫は言った。
「見られてしまった。本来ならずっとここにいようと思っていたのに…」
生まれた子どもだけを残して、海に帰ってしまったという悲しいエピソード。
産む姿を見られたくないっていう気持ち。
豊玉姫が「覗かないで」と言ったのも、妻側に「見られたくない」という意見があるのも…
普段見せてる姿とは違う、本当の自分をさらす瞬間への恐れなのかなと解釈し、これは古事記に従って立ち会わない方がええんかなって思いかけた。
でもふと立ち止まった。
いや、これは自分の都合のいい解釈であり、立ち会わんかったら絶対後悔する気がした。
そして、助産師さんが呼びに来てくれたので
「行きます!」と即答しました。
そしたら助産師さんが少し目を丸くしてました。
さっきまであんなに戸惑ってたから当然か(笑)
自分が立ち会うと決めたのは好奇心とかではなく、ただ後悔したくなかっただけです。
豊玉姫は見られたくなかった。
でも妻は隣にいてほしかった。
だから自分は妻の期待に応えたかった。
覚悟を決めて分娩室に入った。
そしたら自分が予想していなかったことが起きました。
びっくりするぐらい静かで、痛がる様子はありながらも呼吸法を上手く使いこなしながらいきんで30分ほどで生まれました。
助産師さんが動画に撮って他の妊婦さんの参考にしたいと絶賛するほどでした。
生まれた後に妻に言われました。
「直前で怖気づきよって。立ち会わんかと思ったわ(笑)」
ほんまにその通り。
もう一個言われた。
「あと、汗拭くタイミング悪すぎていきむのに気が散った」
……来たのに邪魔した。
彦火火出見は拒まれたのに覗いてしまった。
自分は求められたけど邪魔してしまった。
形は違えど、結果は似たようなもんか。
また1つ鈍感夫エピソードを積み上げてしまった。
