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早苗はやっぱりトラスだったのか──高市政権と「サナエノミクス」の欺瞞

「そんな話はなかった」という嘘

2025年11月25日の日米首脳電話会談。終了後、高市早苗首相は記者団にこう語った。

「日米間の緊密な連携を確認できた」

私はこの発言をニュースで見ながら、妙な違和感を覚えていた。あまりにも優等生的すぎる。何か隠しているのではないか
──その予感は、翌日現実となった。

11月26日、ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が爆弾を投下した。トランプ大統領が電話会談で、高市首相に台湾有事を巡る発言を抑制するよう求めていたというのだ。

記事によれば、トランプ氏は台湾問題で中国を刺激するなと助言した。理由は単純明快。日中対立が激化すれば、中国による米国産大豆の購入拡大交渉に悪影響が出る。トランプ氏は同紙にこうコメントしている。「米中関係は非常に良好で、それは同盟国の日本にとっても良いことだ」

高市首相が説明した内容と、まるで違う。

「日米間の緊密な連携を確認」──この言葉を額面通りに受け取れば、両国が対中政策で完全に一致しているかのように聞こえる。だが実際には、トランプ氏は高市氏にブレーキをかけていた。これを「連携の確認」と呼ぶのは、詐欺に近い。

ロイターも同じ話を報じていた

ウォール・ストリート・ジャーナルだけではない。ロイター通信も複数の日米関係筋の証言として、ほぼ同じ内容を報じた。

トランプ氏は高市氏に対し、「日中関係悪化のさらなるエスカレーションを望まない」と伝えていた。関係者の一人はロイターにこう語っている。「トランプ氏はいま、対中関係をうまくマネージして来年の相互訪問を成功させたいと強く考えている」

ロイターの記事には、こんな一文もあった。「中国との対応で米国の後ろ盾が欲しい日本にとっては目算が狂った形だ」

この一文が、すべてを物語っている。高市首相は対中強硬姿勢でアメリカの支持を得られると踏んでいたのだろう。ところが当のアメリカは「中国を刺激するな」と言ってきた。完全に梯子を外された格好だ。

複数の国際メディアが、複数の関係筋の証言として報じている。これはもう、憶測でも誤報でもない。高市首相が国民に説明しなかった「不都合な真実」そのものである。

追い詰められて「対話重視」へ転換

案の定、高市政権は方針転換を余儀なくされた。

12月17日、高市首相は記者会見で日中関係について「対話を重視していく」と表明。「中国とは建設的かつ安定的な関係を構築していきたい」と述べた。

これを「敗北宣言」と呼ばずして何と呼ぶか。

11月25日の電話会談からわずか3週間。「毅然とした対中姿勢」を貫くかのように振る舞っていた高市首相が、あっさり「対話重視」へと舵を切った。

もちろん、外交に柔軟性は必要だ。状況に応じて方針を調整するのは当然だろう。だが問題は、その理由を説明していないことだ。

トランプ氏から警告を受けたという事実は、依然として国民に明かされていない。高市首相は「日米間の緊密な連携を確認」という虚偽の説明をしたまま、静かに方針を変えた。
これは政治家として最も不誠実な態度ではないか。

以前、私は別の記事で「早苗はトラスかメローニか?」と問うた。

イタリアのメローニ首相のように、選挙での強硬姿勢を政権運営では現実主義的に調整できるか──そこに一縷の望みを託していた。

メローニは確かに方針を転換した。
反EU姿勢を抑制し、ブリュッセルとの協調路線に転じた。ウクライナ支援ではNATOの結束を優先した。

だが決定的に違うのは、メローニは国民に対して正直だったことだ。
政策転換の理由を説明し、理解を求めた。
「選挙で掲げた理想と、政権運営の現実は違う。国益を優先するために、現実的な判断をする」
──メローニはそう語った。

高市首相はどうか。
トランプ氏からの警告を隠し、方針転換の理由も説明しない。これはメローニではない。別の政治家だ。そして私の脳裏に浮かぶのは、44日で崩壊した英国のリズ・トラスである。

核保有発言──公式には言えないことを非公式で漏らす

12月19日、日本テレビが妙な報道をした。高市政権の幹部が非公式取材で「日本は核兵器を保有すべきだ」との考えを示したというのだ。

この報道を見た瞬間、私は思わず苦笑した。

対中強硬姿勢を演出するために核保有を示唆する。だが同時に、トランプ氏からの警告を受けて「対話重視」に転換する。矛盾していないか?

いや、もっと根本的な問題がある。なぜ「非公式取材」なのか。

核保有は日本の安全保障政策の根幹を揺るがす問題だ。本気で検討するなら、国会で堂々と議論すべきである。ところが政権幹部は、公式な場では何も言わず、非公式取材でポロリと漏らす。

これは何だ?観測気球か?それとも単なるアドバルーンか?

いずれにせよ、無責任極まりない。
公式には言えないことを非公式で示唆する──この手法は、トランプ氏からの警告を隠したことと同じ構造だ。都合の悪いことは隠し、都合の良いことだけを表に出す。

高市政権の本質が、ここに凝縮されている。

税制改革という名のバラマキ

もう一つ、見逃せない動きがあった。税制改革である。

朝日新聞の報道によれば、自民党税制調査会長として長年君臨してきた宮沢洋一氏が更迭され、後任には高市氏側近の西村康稔氏が就任した。

「ラスボス」と呼ばれた宮沢氏の更迭。これは高市官邸が税制改革を完全にコントロール下に置くための布石だった。財政規律を重視してきた宮沢氏は、サナエノミクスにとって邪魔だったのだろう。

そして12月18日、高市首相は国民民主党の玉木雄一郎代表と会談し、「年収の壁」見直しで合意した。課税最低限を現行の103万円から178万円に引き上げるという。

耳障りは良い。だが財源は?

この減税による税収減は、年間で兆円単位に達するはずだ。その穴埋めをどうするのか、高市首相は何も説明していない。

ここでも同じパターンが繰り返されている。耳障りの良い政策を打ち出すが、財源の裏付けは曖昧。市場の懸念は無視。国民には「良いことをやっている」という印象だけを与える。

国民民主党との合意は、政治的には巧妙だ。野党の一部を取り込むことで、国会での安定多数を確保できる。だがその代償として、財政規律はさらに緩む。減税という「バラマキ」で支持を買う──これが健全な財政運営と言えるだろうか。

トラスの亡霊が日本に取り憑いた

ここまで書いてきて、私は確信した。
高市首相はトラスである。

トラスも、都合の悪い事実を隠した。
財源の裏付けが不明確な「ミニ予算」を発表し、市場の懸念を無視した。専門家の警告を軽視し、「すべてうまくいく」という楽観論を振りまいた。

結果はどうなったか。市場は反発し、国債価格は暴落し、ポンドは急落し、長期金利は急騰した。44日で政権は崩壊した。

高市首相も同じ道を歩んでいる。財源の裏付けが不明確な「サナエノミクス」を推進し、課税最低限引き上げという大型減税を打ち出すが、その財源は示さない。

トラスの「ミニ予算」は、大規模な減税と規制緩和を柱としていた。財源は「経済成長による税収増」で賄うという説明だった。だが市場は、この楽観的なシナリオを信じなかった。

サナエノミクスも同じだ。「経済成長なくして財政再建なし」というスローガンは、トラスの「成長重視」とウリ二つではないか。財源の裏付けが曖昧なまま、大規模な財政出動と減税を打ち出す。市場の懸念を無視し、楽観論だけを振りまく。

歴史は繰り返す、と言うが、まさかここまで忠実に繰り返すとは思わなかった。

市場はすでに警告を発している

サナエノミクスの内容が明らかになるにつれ、市場は明確なネガティブ反応を示し始めている。

長期金利は上昇を続けている。

これは財政悪化への懸念を市場が織り込み始めている証拠だ。国債価格も軟調に推移し、債券市場では警戒感が高まっている。

為替市場でも円安が進行している。
通常、財政出動の発表は通貨高要因となるはずだが、サナエノミクスの場合は逆だ。財政規律への懸念から、円が売られている。

市場は正直だ。政治家の言葉ではなく、政策の中身を見ている。そして今、市場はサナエノミクスを「信認できない政策」と判断しつつある。

これはトラスの「ミニ予算」発表後の市場反応と酷似している。日本でも、円安、長期金利上昇、債券価格の軟調という形で、同じパターンが始まっている。

市場は嘘を許さない。高市首相がトランプ氏からの警告を隠し、サナエノミクスの財源問題を曖昧にしても、市場は正直に反応する。

三重の欺瞞──外交、経済、安全保障

整理しよう。高市政権は三重の欺瞞を重ねている。

外交面:
トランプ氏からの警告を隠し、「日米間の緊密な連携を確認」という虚偽の説明で国民を欺いた。追い詰められて「対話重視」に転換したが、その理由は説明しない。

経済面:
サナエノミクスの財源問題を曖昧にし、市場のネガティブ反応を無視している。課税最低限引き上げという大型減税を打ち出すが、その財源は示さない。

安全保障面:
政権幹部が非公式取材で核保有を示唆しながら、公式には何も説明しない。

この三重の欺瞞が、高市政権の本質を示している。都合の悪い事実は隠し、楽観論だけを振りまく。

そういえば、もう一つ思い出した。
11月7日の衆院予算委員会で、高市首相は台湾問題について「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になり得る」と答弁した。

中国側は激しく反発。
訪日自粛要請や日本映画の公開延期など、経済・文化面での影響が広がった。そしてトランプ氏からは「中国を刺激するな」との警告。

ところが高市首相は12月2日、「戦艦」発言について「言い間違いではない」との答弁書を閣議決定した。
現代の主要国で運用されていない「戦艦」という時代遅れの言葉を使ったことへの批判に対し、広辞苑の「戦争に用いる船」という意味を引用して正当化したのである。

私はこれを見て、呆れを通り越して感心した。ここまで強弁できるとは。

素直に「軍艦と言うべきところを言い間違えた」と認めればいいものを、わざわざ閣議決定までして正当化する。間違いを認めない。都合の悪い事実は隠す。詭弁で言い逃れる──トランプ氏からの警告を隠したことと、根は同じだ。

「考える暇ない」──首相の口から出た驚きの言葉

12月17日の記者会見。高市首相は衆院解散の時期について問われ、こう答えた。
「考える暇がない」

私はこの瞬間、目を疑った。

トランプ氏からの警告への対応を「考える暇がなかった」のか。サナエノミクスの財源問題を精査する「暇がなかった」のか。核保有発言をした政権幹部を諫める「暇がなかった」のか。

「考える暇がない」──これは責任逃れの常套句だ。
政治家が「考える暇がない」と言うとき、それは「考えたくない」「考える能力がない」という意味に等しい。

ロイターの分析記事が指摘するように、高市政権は「内憂外患」に悩まされている。だが、その悩みの根源は外部環境ではない。高市首相自身の資質にある。

嘘をつき、事実を隠し、財源を曖昧にし、方針をコロコロ変える。そして追及されれば「考える暇がない」と逃げる。

支持率が下がらない現実

ここまで書いてきて、私は一つの絶望的な事実に直面している。

高市政権の支持率は、依然として高い水準を維持している。

トランプ氏からの警告を隠したことが報道されても、サナエノミクスの財源問題が指摘されても、核保有発言が報じられても、支持率は下がらない。

「女性初の首相」という象徴性、「デフレ脱却」という耳障りの良いスローガン──これらが、欺瞞の実態を覆い隠している。

恐らく国民の多くは、トランプ氏からの警告があったことすら知らないだろう。ウォール・ストリート・ジャーナルやロイターの報道は、国際ニュースとして小さく扱われ、多くの人の目に触れることはない。

サナエノミクスの危険性も、「専門家の難しい話」として理解されず、「景気対策をやってくれる」という表面的な理解だけが広がる。

市場の警告も届かない。長期金利が上昇していることも、債券市場が動揺していることも、為替市場で円が売られていることも、多くの人にとっては「専門家の世界の話」だ。

トラスは、市場の猛反発によって44日で崩壊した。だが日本では、市場が警告を発しても、政権は安泰である。

なぜか。市場の声と国民の声が、完全に断絶しているからだ。

嘘をついても支持率は下がらない。市場が警告しても政権は揺るがない。同盟国から警告を受けても、国民はそれを知らない。

これが2025年12月の日本の現実だ。
そして私は、この現実に言葉を失っている。

「やっぱりあれは嘘だった」──この言葉の重みを理解する国民が、どれだけいるだろうか。

私たちは今、歴史的な瞬間に立ち会っているのかもしれない。トラスの再来を目撃しているのかもしれない。だが、その瞬間を記録し、伝える声は、あまりにも小さい。

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