「水」は次の巨大産業になるのか――気候変動、農業、AI、半導体を支える企業群を調べてみた ※日曜日の投稿
「水関連企業」と聞くと、まず思い浮かぶのは水道会社や浄水場かもしれない。
しかし実際に調べてみると、水産業の範囲は驚くほど広い。
ポンプ、配管、浄水、下水処理、海水淡水化、超純水、膜、水質分析、センサー、工場排水、冷却水、灌漑――。
しかも最近では、
気候変動
豪雨・洪水
干ばつ・砂漠化
食料安全保障
データセンター
半導体工場
AI
PFASなどの水質問題
といった社会・産業テーマの多くが「水」を介してつながっている。
水は昔から重要だった。
ただ、21世紀の水産業は「蛇口から安全な水を出す産業」だけではなくなっている。
今回は、日本と海外の企業を見ながら、「水をめぐる産業」がどのような構造になっているのか整理してみたい。
水関連企業は、一つの業界ではない
最初に重要なのは、「水関連企業」を一括りにしないことだ。
例えば、荏原製作所とオルガノはいずれも水と深く関係する。
しかし、事業はかなり違う。
荏原製作所はポンプなどの流体機械に強い。
一方、オルガノは半導体工場などで使用される超純水システムに強い。
クボタなら水道管、バルブ、ポンプ、水処理に加え、農業との接点が大きい。
水ingやメタウォーターは、浄水場・下水処理場などの設計、建設、運転維持管理に強い。
栗田工業は工場の水処理、薬品、超純水、水再利用などを扱う。
東レはRO膜など「水を分離する材料」を供給する。
HORIBAや島津製作所、横河電機などは「水を測る側」にいる。
つまり水産業は、
水を動かす
水を運ぶ
水を処理する
水を純化する
水を再利用する
水を測る
水を制御する
という複数の産業が組み合わさった巨大なエコシステムなのである。
1 気候変動――水不足だけではなく「水が多すぎる」問題もある
気候変動と水というと、干ばつや水不足を想像しやすい。
しかし、反対側には豪雨と洪水がある。
短時間に大量の雨が降れば、河川や下水だけでは処理できない。
そこで重要になるのが大型排水ポンプだ。
荏原製作所、Xylem、Grundfos、KSB、Sulzerなどのポンプメーカーは、上下水道だけでなく、雨水排水や治水にも関係する。
水産業には、
水を確保する市場
と同時に、
余分な水を安全に排出する市場
も存在するわけだ。
これは非常に重要だと思う。
気候変動対応というと再生可能エネルギーやEVばかりに目が向きがちだが、実際には河川、排水機場、下水道、ポンプ、貯水設備などへの投資も「気候適応」の重要な一部になる。
2 砂漠化と農業――世界最大級の水需要は農業にある
世界の淡水利用を考えると、農業の存在を無視できない。
農業は世界の淡水取水量の大部分を占める。
したがって、水問題を本気で考えるなら、
「家庭で水を節約しましょう」
だけでは不十分だ。
より大きなテーマは、
農業用水をどう効率化するか
である。
この分野ではクボタが興味深い。
クボタは農業機械メーカーとして知られているが、ポンプ、水処理、水道管なども持っている。
そのため、
農機
+灌漑
+水管理
+農業DX
という組み合わせができる。
海外ではGrundfosなども灌漑用ポンプを展開している。
一方で、灌漑は単純に水を大量に撒けばよいわけではない。
乾燥地域では地下水の過剰利用や塩害が問題になる。
水を供給すると同時に、
土壌水分
塩分濃度
地下水位
排水
まで管理する必要がある。
将来的なスマート農業は、トラクターの自動運転だけではなく、
センサー+ポンプ+灌漑+気象データ+AI
の産業になる可能性がある。
3 海水淡水化――「水を作る」巨大設備産業
水が足りないなら、海水を淡水に変える。
考え方は単純だが、大規模に実施するには非常に高度な設備が必要になる。
ここでは一社ですべてを作るわけではない。
例えば、
RO膜
→東レ、DuPont、LG Water Solutions
ポンプ
→Grundfos、荏原、Sulzer、KSBなど
プラント建設・運転
→Veolia、SUEZ、ACCIONA、IDE Technologiesなど
というように分業される。
ここが水産業の面白いところだ。
東レとポンプメーカーは、どちらも「水関連企業」ではあるが、必ずしも競合ではない。
むしろ一つの淡水化プラントを構成するパートナーになり得る。
今後、水不足が深刻な地域で都市人口が増加すれば、淡水化だけでなく下水・工場排水の再利用もさらに重要になるだろう。
4 データセンター――AIは「電気」だけでなく「水」の産業でもある
生成AIの普及によって、データセンターへの関心が急速に高まっている。
通常、データセンターの議論では電力消費が注目される。
しかし、大量のサーバーが発生させる熱をどう処理するかという問題もある。
そこで水とポンプが登場する。
データセンターでは、
冷却水
循環ポンプ
熱交換器
チラー
冷却塔
水処理
水質監視
などが組み合わされる。
この市場ではXylemやGrundfosなどが積極的だ。
日本企業でも、荏原製作所などのポンプ・冷熱関連企業、栗田工業などの水処理企業、水質計測メーカーとの接点が生まれる。
ただし、注意も必要だ。
「AIが成長するからデータセンターの水使用量が永遠に増える」と単純には言えない。
Microsoftなどは、冷却水を閉ループで循環させ、運転中の新規給水を大幅に抑えるデータセンター設計を進めている。
つまり将来価値が高まるのは、
大量に水を消費する設備
ではなく、
水を循環させ、再利用し、高効率に制御する設備
かもしれない。
ここでも水産業のDX化が進む。
5 半導体工場――水が「製造材料」に近い存在になる
水との関係で見ると、データセンター以上に興味深いのが半導体工場だ。
半導体製造では大量の超純水が使われる。
普通の水道水ではない。
イオン、有機物、微粒子などを極限まで除去した水で、シリコンウエハーなどを洗浄する。
ここでは日本企業の存在感が大きい。
オルガノ
栗田工業
野村マイクロ・サイエンス
などが超純水設備を手掛けている。
さらに東レなどの膜メーカー、島津製作所やHORIBAなどの分析・計測技術も関係してくる。
水を作るだけでは終わらない。
大量に使った水をどう回収するのか。
どう再利用するのか。
工場排水からどこまで有価物を回収できるのか。
ここまで含めると、
半導体工場=巨大な水循環設備
と見ることもできる。
AIブームはこの構造をさらに面白くする。
AI需要が増える。
するとGPUなどの高性能半導体が必要になる。
その半導体を製造するには超純水が必要になる。
完成したGPUを稼働させるデータセンターにも冷却設備が必要になる。
つまり、
AI
→半導体
→超純水
と、
AI
→データセンター
→冷却水
という二つの経路から水産業につながる。
AIは実は、水産業ともかなり深い関係がある。
6 水質検査――水を作るだけでなく「測れること」が重要になる
水処理では、
「きれいになったはず」
では済まない。
水質を測定し、安全性を確認しなければならない。
この市場には、
HORIBA
島津製作所
横河電機
Hach
Metrohm
などが存在する。
さらにEurofins、SGS、ALSなどは、外部から水試料を受け取って分析する世界的な検査会社だ。
最近ではPFASなど、極めて微量な化学物質も問題になっている。
測定対象が増え、要求される検出精度が上がれば、分析装置・試薬・検査サービスの価値も上がる。
そして面白いのは、センサーが設備制御につながることだ。
例えば、
水質センサー
↓
データ分析
↓
異常検知
↓
薬品投入量変更
↓
ポンプ流量変更
まで自動化できる。
そうなれば、水処理施設は巨大なIoTシステムになる。
7 世界を見ると「総合水企業」という別の存在もある
日本では水関連企業が比較的細かく分かれている。
一方、海外にはVeoliaやSUEZのような巨大企業が存在する。
彼らは単に水処理装置を製造する会社ではない。
水道・下水道運営
浄水
排水処理
産業用水
淡水化
水再利用
デジタル水道
まで広範囲に手掛ける。
さらにXylemも興味深い。
ポンプだけでなく、センサー、水質分析、水処理、デジタル管理へと事業を広げている。
将来的な水企業の競争は、
「最も性能のよいポンプを作る」
「最も性能のよい膜を作る」
だけではなく、
装置+センサー+データ+保守+サービス
をどこまで統合できるかという戦いになる可能性がある。
水関連企業を機能別に見る
私なりに整理すると、代表的な企業は次のようになる。
水を動かす
荏原製作所、Grundfos、Xylem、KSB、Sulzer
水を運ぶ
クボタ、GF、Mueller Water Products
水を処理する
水ing、メタウォーター、Veolia、SUEZ
工場の水を管理する
栗田工業、Ecolab/Nalco Water
超純水を作る
オルガノ、栗田工業、野村マイクロ・サイエンス
水を膜で分離する
東レ、DuPont、LG Water Solutions
水を測る
HORIBA、島津製作所、横河電機、Hach
水を検査する
Eurofins、SGS、ALS、各地域の水質検査会社
この分類を見るだけでも、「水関連株」「水関連企業」という言葉がいかに大雑把か分かる。
クボタと野村マイクロ・サイエンスは、両方とも水関連企業だが事業構造はほとんど違う。
日本企業には意外と強い企業が多い
調べていて興味深かったのは、日本には水バリューチェーンのかなり多くの部分に企業が存在することだ。
ポンプなら荏原製作所。
農業・管路ならクボタ。
公共水処理なら水ingやメタウォーター。
産業水処理なら栗田工業。
超純水ならオルガノ、栗田工業、野村マイクロ・サイエンス。
膜なら東レ。
計測ならHORIBA、島津製作所、横河電機。
一社でVeoliaのようになる必要はない。
むしろ日本企業は、それぞれ特定技術で世界の水インフラの中に入り込んでいる。
日本では成熟産業のように見える水ビジネスも、
世界市場まで視野を広げると、
気候変動
×食料
×都市化
×AI
×半導体
×環境規制
という複数の成長テーマが交差する産業に見えてくる。
「水を売る会社」から「水を最適化する会社」へ
今後、最も重要になる考え方は、
「もっと水を使えるようにする」
ことではないと思う。
むしろ、
同じ水を何回使えるか。
必要な場所へ必要な量だけ送れるか。
漏水を減らせるか。
水質を常時監視できるか。
豪雨時には素早く排水できるか。
農業で必要以上の水を使わずに済むか。
工場排水を再び生産工程へ戻せるか。
という方向だろう。
その意味では、水産業は機械産業であると同時に、
環境産業、インフラ産業、半導体関連産業、そしてデータ産業
にもなりつつある。
AI時代だからこそ、クラウドやGPUだけを見るのではなく、その裏側にある電力、冷却、半導体製造、そして水まで見てみる。
すると、普段あまり注目されない企業群が、世界経済を支える重要な位置にいることが見えてくる。
「水」は昔からある産業だ。
しかし、その古い産業がいま、気候変動とAIという二つの巨大な変化によって、もう一度姿を変え始めているのかもしれない。
※本記事は水関連産業の構造を考えるための企業研究であり、特定企業の評価や株式投資を推奨するものではありません。
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